OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第六章 魔神討伐・神々の業

120 魂の慟哭

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「カーズが元いた世界の英傑か。相手にとって不足はねえ。いくぜ! マルクスリオ流大剣スキル・キャノン破壊のクラッシャー大砲!」

 ガイイィン!!!

 エリックが振り被って放った渾身の一撃を呂布は片手に持った無双方天戟で軽く受ける。激突した部分を軸にして回転させ、残った柄の尾尻がエリックの鳩尾に突き刺さる。

「がはっ!?」

 後ろに吹っ飛ばされ、もんどり打って地面に叩きつけられるエリック。余りのパワーの違いに、相手との力の格差を感じた。口からは僅かに流血している。

「中々の使い手だ。だがまだまだ練度が足りん。それでも恐れずに突っ込んで来るその勇気は大したものだ。名は何という? 覚えておいてやろう」

 呂布の言葉に、腹を押さえて立ち上がりながらエリックが答える。

「ぐ……、ごはっ! へっ、俺はエリック・タッケン。いつか最強の大剣使いになる男だ。呂布奉先、次はお前が地面に這い蹲る番だぜ」

 再び神器の大剣を握り、必殺の一撃を放つ構えを取る。

「良かろう。来い、実力の違いを見せてやろう」
「言われなくとも……。いくぞ! マルクスリオ流大剣スキル・斬鉄剣ざんてつけん!」

 剣技に集中力をつぎ込み、エリックが技を放つと同時に呂布が一気に距離を詰め、エリックの大剣技ごと高速の槍術で全て薙ぎ払った。

呂流戟術りょりゅうげきじゅつ無双鬼神むそうきじん煌爆陣こうばくじん
「うがあっ!?」

 斬鉄剣を放つ軌道を全て相殺され、再びエリックが地べたを舐める。余りにも凄まじいスピードとパワーの前に剣技そのものがキャンセルされた。この圧倒的な力こそが呂布を呂布たらしめていると言わんばかりの力量である。

「つ、強えぇ……」
「次元ごと相手を斬り裂くという剣技か。考えとしては面白いものだ。それでも技を放つまでの隙が大きい。剣閃が何処を通るのかさえ先読みできれば剣技そのものを無効化できる」 
 
 振り回した巨大な戟を右肩に乗せ、呂布が告げる。

「それがわかったとして、簡単にできるものじゃねえ。とんでもねえ強さだ……。ここまでとんでもないのは師匠やアリアさんぐらいしか思い浮かばねえぜ……」

 数発の攻撃を喰らっただけでエリックの手は痺れている。最初の一撃で内臓に異常を来したのか、口からは血が止まらない。それでも、エリックの性格上、引くことはありえない。
 先程カーズが巨大な塔を魔法で破壊した。その中から凄まじい力を持つ魔神が現れたのを感じている。あれは危険だ。カーズの援護に向かわなくてはならない。ここで手を拱いてはいられない。
 渾身の一撃を放つ為に神器の柄を強く握りしめる。

「こいつで終わりにしてやるぜ。全力で叩きつけてやる。マルクスリオ流大剣スキル・奥義! エクスプロージオ灰燼に帰す炎のカノン大砲!!!」

 本来なら炎の闘気を相手に放つ剣技を、跳躍して呂布の頭上から叩き付ける。カーズがアストラリア・エクスキューションを相手に直接叩き付けるという戦い方を見て、エリックなりにアレンジをした渾身の一撃である。

呂流戟術りょりゅうげきじゅつ豪滅斬ごうめつざん
「く、うおおおおおお!!!」

 ドゴオオオオオオンッ!!!

 呂布が下から撃ち上げる様に特大の闘気を乗せた一撃を放つ。互いの闘技の威力がぶつかり合い、大爆発が巻き起こる。そして激突の衝撃にエリックが後方へ飛ばされ、地面に落下した。

 ゴシャアアアアッ!

「ぐはあああっ!!!」

 それでも剣を大地に突き刺し、力を振り絞って起き上がる。そして土煙が晴れると、その場でエリックの奥義を被弾して魔神衣が破損しながらも立ち続ける呂布がいた。信じられないと言った顔で相手を見つめるエリック。

「炎の爆撃を刀身に籠めて相手に叩き付けるとは……。お前を侮っていたようだなエリック。俺にここまでの傷を負わせるとは、認めざるを得ない。ならば此方も渾身の一撃を見舞ってやろう。来い、赤兎セキト!」

 呂布の足元から巨大な真紅の毛の馬が召喚される。それに跨り、無双方天戟を後ろ手に構えた呂布が赤兎の綱を握る。そして満身創痍のエリックに向けて疾走する。

「受けろエリック! 呂流戟術りょりゅうげきじゅつ・奥義! 一騎当千いっきとうせん!!!」
「ぐ、おおおおおおおお!!!」

 ズシイイイイイイイィン!!!

 斬り落としの巨大な方天画戟の一撃を神器フラガムンクでガードするも、その重さに耐え切れずに呂布の奥義がエリックの左肩から背中まで一気に斬り裂く様に叩きつけられた。そのままクレーターが出来る程の威力で大地が抉れる。エリックの意識はそこで途切れた。

「見事だった、エリック・タッケン。再び夢界で眠りに就こうともお前の名は忘れないだろう」

 ドズンッ!

「がっ?!」
「マルクスリオ流大剣スキル・烈風衝れっぷうしょう

 呂布のどてっ腹にルクスの剣技が突き刺さった。弟子を目の前で倒された神の剣技が炸裂する。

「腐れ英霊魔神が。人が用事をやってる間に弟子に好き勝手してんじゃねえよ」
「ははっ、これが本当の神の力か……。だが御陰で魔神側の呪縛が解けた。感謝する。我等は『大いなる意思』、否、『ゼムロス』と名乗る者に無理矢理目覚めさせられた。先程までは言葉にして発することが出来なかったからな……」
「そうか、カーズ達が斃したローズルキーとか言う魔神が喋ろうとしても制限を受けていたらしいが……。それが『大いなる意思』とやらの正体か? そいつは何が狙いだ?」
「そこまでは知らんよ。だが向こうで闘っている同郷の者達も己の意志で闘っているのではない。無理矢理従わされているに過ぎん。俺は『裏切りの将軍』と呼ばれる悪名高き存在だが、義の為に闘った誇りはある。混沌を望む奴から与えられた力で、関係のない世界に危機をもたらす様な無様を晒したくはない。ぐ、がはっ!」
「なるほどな、先程冥王神から、冥界の奥のお前らが眠っていた夢界に正体不明の侵略者が現れたと聞いた。夢界を守護する神々が次々と倒され、お前らの様に眠っていた英霊達が解き放たれたとな。だがお前の言うことが本心なら、お前らは心の底からそいつらに忠誠を誓っているのではなく、無理矢理従わされているということでいいんだな?」
「力を与えられた全員がそうかは知らん……。嬉々として受け入れている者も中にはいるだろうさ。それでも、少なくとも俺達は、俺達が貫いて来た信念はそんな奴らに魂までも屈してはいない。さあ、もう気は済んだ。再び夢界で眠らせてくれ。エリックはまだ死んではいない。あいつは強くなる。俺の神格を、闘いの経験をあいつに与えてやってくれ。さらばだ……」

 目を閉じた呂布をルクスが頷き神器に力を籠めて消滅させる。そして目の間に出現した輝く光の塊、呂布の力と闘いの経験を継承した神格を、ルクスは手に取った。



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 ギィン! ズガガガッ! バギィンッ!

 ユズリハが繰り出す槍術の全てが防御に回った貂蝉の魔神器である戦扇せんせんに悉く弾かれる。そして一定の数の攻撃を防ぎ切ると、貂蝉の広げた戦扇に描かれた龍の目が光り、放った攻撃の威力が反射して返って来る。

「ぐっ……!」

 ザシュシュッ!

 ユズリハの神衣を斬り裂き、オーラの刺突が突き刺さる。貂蝉の画龍天晴がりょうてんせいを前にユズリハは先程から手も足も出ない。

「どうしたの? さっきからずっと同じことの繰り返しでしかないわ。あなたに私の画龍天晴がりょうてんせいは破れないようね、お嬢さん」
「……ユズリハよ」
「え?」
「あなたとかお嬢さんじゃなくて、私の名はユズリハ・ラクシュミ。闘う相手の名前くらい覚えておくことね」
「そう……、でもねユズリハ。先程からあなたのその槍は私の防御を抜くことができない。いい加減諦めたらどうかしら?」
「確かに槍だけじゃ、その二枚の扇を破ることはできないみたいね。でもね、私の本職は魔導士なのよ。その真価を今こそ見せてあげる。ハアッ!」

 体内でずっと構築して来た魔法を左の五本の指先から連続で放つ。絶え間ない高速のレーザーの様な魔法の連射を、貂蝉は戦扇を広げてそれらを片っ端から防御する。しかし魔法を防いでも、そこで巻き起こる爆発までは防げない。圧縮したエクスプロージョンが直撃すると同時に、ユズリハは爆炎に紛れて貂蝉の背後へと回り込んだ。ここが勝機。ユズリハの神器・グングニル・ロッドの突きが貂蝉を捉える。

「アザナーシャ流槍術スキル・龍牙突りゅうがとつ!」

 ガキィイイイイインッ!!!

 龍の牙の如き鋭い突きが貂蝉へ放たれたるも、目を閉じた貂蝉の左手の画竜点睛に阻まれる。

「これが魔法ね。面白い手品だわ。でも残念、神眼であなたの動きは視えていた。画龍天晴がりょうてんせい喜怒哀楽きどあいらくの舞」

 カッ!!!

「くっ、これはバフ能力上昇効果?!」

 グングニルを弾く様にくるりと舞った貂蝉の身体が輝き、全ステータスが大幅に増加する。そこから更に回転した画龍天晴がりょうてんせいから激しい竜巻が巻き起こる。

「きゃあああああ!!!」
画龍天晴がりょうてんせい真空桜しんくうざくらの舞」

 ダアンッ!!!

 上に吹き飛ばされたユズリハが背中から地面へと落下する。神衣を切り刻まれながらも起き上がるユズリハ。これまでに闘った魔神とは比べ物にならない程強い。それでも負けることなど考えていない彼女は意地で立ち上がる。

「ハァハァ……、強いわね英霊魔神ってのは。でもこんなところで負けていられないのよ」

 残った力でグングニルを構える。

「わからないわ……。ユズリハ、あなたはなぜそこまでして闘うの? たった一人で世の中を変えるなんてことはできない。私は生前弱い自分を呪ったくらいだというのに……」
「……確かに一人で何でもできるなんて思っちゃいないわよ。でもね、私にしかできないことだってある。カーズやみんなと出会って、私の世界は変わった。そして彼らの様に、守るべきものの為に闘う。それが全てよ。魔神に魂を売ったアンタにわかるとは思ってないけどね」

 ユズリハの言葉に僅かな苛立ちを覚えた貂蝉が画龍天晴がりょうてんせいを折り畳み握ると、柄状になった二本の戦扇の上部から白く輝く闘気の刀身が伸びていく。戦扇を柄の様にして握り、二刀流となった貂蝉がユズリハに向けてその切っ先を向けた。

画龍天晴がりょうてんせい月下美人げっかびじん。ユズリハ、あなたの言う通り今の私に且つての様な大義はないわ。所詮、―――に操られた傀儡に過ぎない。だからこそ、あなたの義の為にも私を斃しなさい」
「上等よ。何を言いたいのかわからないけど、全力で打ち砕いてやるわ。ハアアアアア!!!」

 ユズリハが神気を燃やす。そして神器を強く握り締める。

「アザナーシャ流槍術スキル・奥義! スターライト輝く星々のブレス祝福!!!」

 ガカアッ! ドゴオオオオオオッ!!!

 突き出した神器の先から幾重にも輝く星々の光が迸る。

月下美人げっかびじん無想鎮魂歌むそうちんこんか!」

 ユズリハが繰り出した光に向けて舞う様な二刀の斬撃が刻まれる。スターライト輝く星々のブレス祝福を斬り裂き、放たれた剣圧が大技の反動と疲労でその場に力なくしゃがみ込んだユズリハを襲う。

 パアアンッ!!!

神楯しんしゅんアイギス・アモーレ神の愛。よく頑張ったわ、ユズリハ。後は任せなさい」

 間に入ったサーシャの丸い大盾の神器が貂蝉の剣閃を防いだ。目の前に立つ師の背中を見ながら、力を使い果たしたユズリハが意識を失い倒れる。

「……さすがに真の神は桁が違うということかしら。それにどうやら此方も呪縛が解けたみたいね。敵を戦闘不能にするか、先程の呂布将軍の様に致命傷を負えば『ゼムロス』、『大いなる意思』の呪縛が解けるということか……」

 貂蝉が溜息を吐く様に言葉を紡いだ。それと同時に目の前に巨大なポールウェポンの神槍マーシオ闘争を振り被ったサーシャが眼前に迫る。

閃光戟せんこうげき

 ザンッ!!!

 神槍の斧部分が月下美人を砕き、肩口から貂蝉の身体を斜めに薙いだ。

「カハッ! これで、また眠りに就くことができる……」
「やはり先程のルクスの時と同じ……。あなた達は己の意志で魔神としての闘いを選んだ訳ではないみたいね」
「その通りよ……。私は力弱くとも世の為に命を懸けた。死してもその理想と魂は歪むことなどないわ。愛と闘いの女神よ、ありがとう、私を斃してくれて。彼女、ユズリハはもっと強くなる……。私の神格を彼女に……」

 光と共に四散した貂蝉が立っていた場所には、神器に昇華した二枚の画龍天晴がりょうてんせいと彼女の神格が輝いていた。




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