純白のレゾン

雨水林檎

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複雑な関係

02

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 その日、午後八時前、頭痛は治らずかえってひどくなり帰宅の電車がいつもより辛かった。熱はないと思うのだけれど立ちっぱなしで息が切れて眩暈がする。おかしいな、いつもはこんなことはないのに……しかしそれからも体調が悪化して最寄駅に着く頃には目の前が暗く立っていられない。駅のベンチに腰掛けて、必死で携帯電話で手繰ったのは……。

「おい、こんなところでなにやってんの?」
「……無垢」

 正面に立ったのは今まさに私が震える手でディスプレイに表示させた名前を持つものだった。戸惑ったような顔と不機嫌そうな顔、彼はその顔のままで私の頬に触れる。

「冷た……なに、汗ひどいけど?」
「うん、無垢、いま……呼ぼうと思って……」
「砂和さん? ちょっとどうしたの、わっ」

 堪えきれず無垢の胸元に寄りかかった、しかしそれからしばらくの記憶はなく……。

 ***

「無垢」 
「寝てろよ」

 無理やり自宅のベッドに押し込まれた。あれから無垢の肩を借りてなんとか帰宅して、しかし夜はだいぶ更けたもののまだ無垢は夕食すら食べていない。

「砂和さんも食べてないじゃん、でもその様子じゃあ今夜何も食べられないだろ? だから寝てろって。俺は自分でどうにかするから」
「ごめん、風邪とかじゃないとは思うんだけど」
「疲れが溜まってたんだろ、今日ずっとそんな顔してたし」
「見ていたのか?」
「え」
「お前が……私の授業の時はご機嫌だって」

 無垢の表情が変わる。半開きの口に次第に頬が赤らんで、明らかな戸惑いを出しながら私の顔に向かって上掛けを投げつけた。

「なんだそれ、ばっかじゃねーの! 誰が言ったんだよふざけんな」
「自覚はしているのか」
「うるさい!」

 無垢は足音を立てて部屋を後にして、一人私は残される。あの年頃は複雑なのだな、かつての泣いてばかりいた無垢の顔と不機嫌な現在の無垢の顔を思い出しながら眩暈とため息が混じってそのまま意識が落ちて行く。
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