純白のレゾン

雨水林檎

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子守唄うたって

01

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「砂和くん、向島の家の子になるかい?」

 つい引っ掻いてしまうために少年の左手首にはいつも包帯が巻いてあった。施設の誰かが巻いてくれたのだろう、その包帯には流行りの戦隊シリーズの胸にあるマークのシールが貼ってある。けれどそんな子供扱いに喜ぶほど少年は幼くはなかった。

「子供のいないお家だけれどね、あなたを大切に大切に育てますから」

 大切って、なんだろう。
 けれど何も持たない少年は特にその家に行かない理由もなかったので、黙って頭を下げる。

「よろしくお願いします」

 向島の両親との出会いは親のいない子供達が暮らす白い施設の小さな部屋で。
 その日から、少年は……私は、施設から出て知らぬ小さな街で『向島砂和』を名乗ることになった。

 ***

「あれから、十六年……か」

 そして目覚めた今日の日も私は向島砂和であり続けた。あの日が新たな人生の始まりだったのだと思う。だって今では向島の家に来るまでのことがすっかり思い出せないのだから。
 そっと着替えたワイシャツからはみ出した左手首の傷を隠すように今日もそこに腕時計をする。顔もおぼろげな『あの人』はこの傷で私から理不尽に人生を奪おうとしたのか。カーテンを開けてベランダにて洗濯物を干す。しかし朝と言うものは誰にとっても平等に訪れるものではないらしい。
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