24 / 66
子守唄うたって
05
しおりを挟む
「む、無垢……っ」
無垢はテレビに見入っている、それは今から三十年ほど前の都会の片隅で起きたシングルマザーとその子供の悲惨な事件だった。
……違う、私じゃない。三十年前にはまだ生まれてすらいないのだから。
しかし淡々とナレーターは語っている、シングルマザーの母親について。人生に迷い必死で水商売で生計を立てていた彼女は日々に疲れ果てやがて死を望むようになった。薄暗いアパートの部屋ではアルコールの無数の缶が床に散らばって。そこに救いなんかない。
ああ、私の心は訴える。これ以上は、触れてはいけない。
思わず力が抜けて私も彼女と同じように床に崩れ落ちて座り込む。
「……砂和さん?」
「無垢……あ」
「なに、具合悪いの」
テレビの中では薄暗い部屋でアルコールに酔った彼女はついに台所の果物ナイフを手にして、ゆらり、と立ち上がる。夜半過ぎ、子供は空き缶の散らかった部屋のなか小さな車のおもちゃで遊んでいた。母親の異変には気がつかない、すべての信頼を置いているその母親が今から何をするかなんてわからなかったから。
「ごめん、テレビ消して……」
「テレビ?」
母親がナイフを振り上げる、けれど幼い子供は母を疑う顔をもせずに抱きつこうと手を伸ばして……そのままナイフは、子供の白い皮膚を。
私の心にその衝撃が伝わって来た、熱い。お母さんは、何をしたの。
「ねぇ、砂和さん!」
もはやテレビ画面の子供は私ではなく、しかしその姿は限りなく私の過去に似ている。殺されかけた子供は私だ、母親に左手首をかっ切られて。
私が次に目が覚めた時、もうどこにも彼女はいなかった。
無垢はテレビに見入っている、それは今から三十年ほど前の都会の片隅で起きたシングルマザーとその子供の悲惨な事件だった。
……違う、私じゃない。三十年前にはまだ生まれてすらいないのだから。
しかし淡々とナレーターは語っている、シングルマザーの母親について。人生に迷い必死で水商売で生計を立てていた彼女は日々に疲れ果てやがて死を望むようになった。薄暗いアパートの部屋ではアルコールの無数の缶が床に散らばって。そこに救いなんかない。
ああ、私の心は訴える。これ以上は、触れてはいけない。
思わず力が抜けて私も彼女と同じように床に崩れ落ちて座り込む。
「……砂和さん?」
「無垢……あ」
「なに、具合悪いの」
テレビの中では薄暗い部屋でアルコールに酔った彼女はついに台所の果物ナイフを手にして、ゆらり、と立ち上がる。夜半過ぎ、子供は空き缶の散らかった部屋のなか小さな車のおもちゃで遊んでいた。母親の異変には気がつかない、すべての信頼を置いているその母親が今から何をするかなんてわからなかったから。
「ごめん、テレビ消して……」
「テレビ?」
母親がナイフを振り上げる、けれど幼い子供は母を疑う顔をもせずに抱きつこうと手を伸ばして……そのままナイフは、子供の白い皮膚を。
私の心にその衝撃が伝わって来た、熱い。お母さんは、何をしたの。
「ねぇ、砂和さん!」
もはやテレビ画面の子供は私ではなく、しかしその姿は限りなく私の過去に似ている。殺されかけた子供は私だ、母親に左手首をかっ切られて。
私が次に目が覚めた時、もうどこにも彼女はいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
「好きって言ったら負け!」完璧すぎる生徒会コンビの恋愛頭脳戦は今日も平行線です~恋は勝ち負けじゃないと知るまでの攻防戦
中岡 始
BL
「好きって言ったら負け」
それが、俺たちの間にある、たったひとつのルールだった。
星遥学園の顔、生徒会長・一ノ瀬結翔と副会長・神城凪。
容姿、成績、カリスマ性――すべてが完璧なふたりは、周囲から「最強ペア」と呼ばれている。
けれどその内側では、日々繰り広げられる仁義なき恋愛頭脳戦があった。
・さりげない言葉の応酬
・SNSでの匂わせ合戦
・触れそうで触れない、静かな視線の駆け引き
恋してるなんて認めたくない。
でも、相手からの“告白”を待ち続けてしまう――
そんなふたりの関係が変わったのは、修学旅行での一夜。
「俺、たぶん君に“負けてもいい”って思いかけてる」
その一言が、沈黙を揺るがし、心の距離を塗り替えていく。
勝ち負けなんかじゃない、想いのかたちにたどり着くまで。
これは、美形ふたりの駆け引きまみれなラブコメ戦線、
ついに“終戦”の火蓋が落ちるまでの物語。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる