11 / 86
2章
実験場
しおりを挟む
「実験......?俺を使って何をするつもりだ!」
「さあね。ソレは君が知らなくて良いことだよ。それよりさっきの話だけど、どうすんの?」
凛奈が人質とされている以上六花に選択の余地はない。
「それより、ここはどこなんだ?」
「おいおい、話を逸らさないでよね。」
「何もかも教えないつもりかよ......」
六花はこの不明瞭な状況に苛ついていた。
__いけない。ここで慎重にいかなければまた間違えてしまう。
「意外と落ち着いているんだね?大切な人を殺した後なのに......」
「お前っ......」
「なに怒っているんだい?事実だろ?」
「............」
「ははっ、何も言い返せないようだね。だって本当のことだもんね。君は殺したのさ。」
六花はそう分かりきったことを言う女医を睨みつけることしかできない。
__なぜなら彼女の言うことは事実なのだから。芽生はもういない。分かりきったことなのに__
「君は彼女も無くしても良いのかい?」
凛奈__六花が唯一救った存在。
「............」
「ふぅ、また来るよ。」
「な......何するんだ?」
女医は六花に別れの言葉と共に金属製の拘束具を取りつけていった。
「逃げられたら困るでしょ。」
__六花は一人で暗い個室にとり残された。
***
「やつの具合はどうだ、高橋?」
「別に。実験に支障はないわよ。それより、あの子なかなかタフじゃない?聞いてた話と違うからびっくりしちゃた。」
そう白衣に身を包んだ高橋美沙は山本に言った。
「まあ、あれだけの事があったんだ。成長しない方がおかしい。」
「そういうものかしら。でも、あなたが彼女を殺してこなかったことは意外だったわ。」
「特に意味はない。まあ、アイツを生かしていた方が都合が良いだろ?」
たしかに六花は二階堂凛奈によって抵抗も少なかった。
「でも、それ以上にリスクが大きすぎるんじゃない?」
「なに大丈夫だ。たかだか小娘一人に何が出来る?」
「あまり御寵愛を受けてるからって調子に乗らないでよね。実験場は私のものなんだからね。」
「おお、怖い怖い。次からは護衛をつけてきて良いかい?」
山本はおどけた様子でそう言った。
「その態度がムカつくって言ってんのよ!」
近くの椅子を蹴飛ばし、美沙は山本を威嚇する。
「もしあんたの早計であのお方の計画が頓挫したら、あんた殺すわよ!」
「大丈夫だと言っているだろ。君の方こそ勘違いするんじゃない。この実験場は君に与えられた場所であって君のものではないだろう。」
「......っ殺す!」
美沙が明確な殺意を山本に向ける。
「事実を言ったまでだろ?それじゃあ僕はここらで退散させて貰うよ。ここじゃあ、分が悪すぎる。じゃあな、美沙。」
「あいつ......ムカつくっ!」
__先程蹴飛ばされた椅子は、溶解していた。
***
「深雪君......」
凛奈は連れ去られた六花のことをまだ諦めてはいなかった。
「私が、連れ戻してみせるっ!」
六花は凛奈を救ってくれた命の恩人である。凛奈は感謝していた__例え彼の瞳に彼女が映っていなくとも、彼が助けてくれたことを。
「やっぱりさすがだなぁ、春野さん」
凛奈は憧れの女性の名を呼ぶ。
「私......あなたの代わりになれるかしら?」
彼が全てを犠牲に助けようとした存在__自分はその対象ではなく、犠牲の中には入っていた。
__あの時六花の瞳には自分でも“サタン”でもなく、春野芽生が映っていた。
「いいやそうなるのよ、二階堂凛奈っ!」
自分がやらなければ、何より彼を支えてあげたかった。ボロボロになりながら立ち向かっていった彼の味方に__
「あれ、二階堂さん?どうしたの?」
ふと名を呼ばれ振り返るとそこには同級生がいた。
「えっ、嘘......」
先程まで真っ暗だった空には朝日が昇っており、全壊させられていた筈の校舎はいつの間にか修復されていた。
「朝、弱いの?なんか変だよ?それより、早く教室行こ!」
凛奈は成されるがまま教室へと向かう。
「あ~、二階堂さんだ!モモちぃ良いなぁ~」
と言う女子生徒。
「に、二階堂さんっ!」
と頬を紅潮させて言う男子生徒。
__凛奈は違和感に包まれていた。
「ねえ、皆んな春野芽生さんって知ってる?」
「春野......芽生......?ごめん、知らないや。」
__嘘だ。
「ハァ~、二階堂さんってやっぱり可愛いよなぁ~」
そう言ったのは芽生のファンの男子生徒だっ
__嘘だ。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ......
「あ、先輩。は、春野芽生さんを知っていますか?」
「春野......芽生......?誰、ソレ?」
「お、一昨日先輩達が話していた私よりも優秀な娘のことなんですが......」
「ちょと里奈、この娘新入生代表の娘じゃない?」
「ああ、あの娘ね。なに言ってんのか分かんないけど、あんた新入生代表でしょ?ならあなたより優秀な新入生なんている筈がないじゃない。」
__嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ......
凛奈は逃げるようにして走った。
「廊下は走るなよ、二階堂。」
そう凛奈に言ったのは、ここにはいない筈の人物だった。
「危ないだろ?」
何故、彼がここに......?
「山本ォ!」
そこには陰湿な笑みを浮かべる山本昌がいた。
「先生に呼び捨てか?二階堂くぅん。流石に今のは傷ついたよ。」
「さあね。ソレは君が知らなくて良いことだよ。それよりさっきの話だけど、どうすんの?」
凛奈が人質とされている以上六花に選択の余地はない。
「それより、ここはどこなんだ?」
「おいおい、話を逸らさないでよね。」
「何もかも教えないつもりかよ......」
六花はこの不明瞭な状況に苛ついていた。
__いけない。ここで慎重にいかなければまた間違えてしまう。
「意外と落ち着いているんだね?大切な人を殺した後なのに......」
「お前っ......」
「なに怒っているんだい?事実だろ?」
「............」
「ははっ、何も言い返せないようだね。だって本当のことだもんね。君は殺したのさ。」
六花はそう分かりきったことを言う女医を睨みつけることしかできない。
__なぜなら彼女の言うことは事実なのだから。芽生はもういない。分かりきったことなのに__
「君は彼女も無くしても良いのかい?」
凛奈__六花が唯一救った存在。
「............」
「ふぅ、また来るよ。」
「な......何するんだ?」
女医は六花に別れの言葉と共に金属製の拘束具を取りつけていった。
「逃げられたら困るでしょ。」
__六花は一人で暗い個室にとり残された。
***
「やつの具合はどうだ、高橋?」
「別に。実験に支障はないわよ。それより、あの子なかなかタフじゃない?聞いてた話と違うからびっくりしちゃた。」
そう白衣に身を包んだ高橋美沙は山本に言った。
「まあ、あれだけの事があったんだ。成長しない方がおかしい。」
「そういうものかしら。でも、あなたが彼女を殺してこなかったことは意外だったわ。」
「特に意味はない。まあ、アイツを生かしていた方が都合が良いだろ?」
たしかに六花は二階堂凛奈によって抵抗も少なかった。
「でも、それ以上にリスクが大きすぎるんじゃない?」
「なに大丈夫だ。たかだか小娘一人に何が出来る?」
「あまり御寵愛を受けてるからって調子に乗らないでよね。実験場は私のものなんだからね。」
「おお、怖い怖い。次からは護衛をつけてきて良いかい?」
山本はおどけた様子でそう言った。
「その態度がムカつくって言ってんのよ!」
近くの椅子を蹴飛ばし、美沙は山本を威嚇する。
「もしあんたの早計であのお方の計画が頓挫したら、あんた殺すわよ!」
「大丈夫だと言っているだろ。君の方こそ勘違いするんじゃない。この実験場は君に与えられた場所であって君のものではないだろう。」
「......っ殺す!」
美沙が明確な殺意を山本に向ける。
「事実を言ったまでだろ?それじゃあ僕はここらで退散させて貰うよ。ここじゃあ、分が悪すぎる。じゃあな、美沙。」
「あいつ......ムカつくっ!」
__先程蹴飛ばされた椅子は、溶解していた。
***
「深雪君......」
凛奈は連れ去られた六花のことをまだ諦めてはいなかった。
「私が、連れ戻してみせるっ!」
六花は凛奈を救ってくれた命の恩人である。凛奈は感謝していた__例え彼の瞳に彼女が映っていなくとも、彼が助けてくれたことを。
「やっぱりさすがだなぁ、春野さん」
凛奈は憧れの女性の名を呼ぶ。
「私......あなたの代わりになれるかしら?」
彼が全てを犠牲に助けようとした存在__自分はその対象ではなく、犠牲の中には入っていた。
__あの時六花の瞳には自分でも“サタン”でもなく、春野芽生が映っていた。
「いいやそうなるのよ、二階堂凛奈っ!」
自分がやらなければ、何より彼を支えてあげたかった。ボロボロになりながら立ち向かっていった彼の味方に__
「あれ、二階堂さん?どうしたの?」
ふと名を呼ばれ振り返るとそこには同級生がいた。
「えっ、嘘......」
先程まで真っ暗だった空には朝日が昇っており、全壊させられていた筈の校舎はいつの間にか修復されていた。
「朝、弱いの?なんか変だよ?それより、早く教室行こ!」
凛奈は成されるがまま教室へと向かう。
「あ~、二階堂さんだ!モモちぃ良いなぁ~」
と言う女子生徒。
「に、二階堂さんっ!」
と頬を紅潮させて言う男子生徒。
__凛奈は違和感に包まれていた。
「ねえ、皆んな春野芽生さんって知ってる?」
「春野......芽生......?ごめん、知らないや。」
__嘘だ。
「ハァ~、二階堂さんってやっぱり可愛いよなぁ~」
そう言ったのは芽生のファンの男子生徒だっ
__嘘だ。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ......
「あ、先輩。は、春野芽生さんを知っていますか?」
「春野......芽生......?誰、ソレ?」
「お、一昨日先輩達が話していた私よりも優秀な娘のことなんですが......」
「ちょと里奈、この娘新入生代表の娘じゃない?」
「ああ、あの娘ね。なに言ってんのか分かんないけど、あんた新入生代表でしょ?ならあなたより優秀な新入生なんている筈がないじゃない。」
__嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ......
凛奈は逃げるようにして走った。
「廊下は走るなよ、二階堂。」
そう凛奈に言ったのは、ここにはいない筈の人物だった。
「危ないだろ?」
何故、彼がここに......?
「山本ォ!」
そこには陰湿な笑みを浮かべる山本昌がいた。
「先生に呼び捨てか?二階堂くぅん。流石に今のは傷ついたよ。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる