D×DStrike〜俺と悪魔の反乱物語〜

2章

憤怒

「貴方はこれからどうするつもりなのですか、お客様。」

真っ白な無菌室を連想させる様な実験場もとい独房でグレートヒェンは六花を試す様にそう言った。

「貴方はここから生きて出るおつもりですか？」

何とも残酷な質問である。そう、六花はここから生きては帰れないのである。六花は選ばねばならなかった、芽生と凛奈のどちらかを。

「そんなの……選べる訳ないだろっ。」

もの凄い剣幕で六花はそう言った。

「……ですが、貴方が実験に参加しなければ二階堂凛奈の命はないという事をゆめゆめ忘れないで下さい、お客様。」

グレートヒェンではなかったらその剣幕に驚いた事だろうがさすがは彼女、全く動揺せずにいつも通りの冷酷な声音でそう言った……訳でもなく、その声音には感情の呵責が込められていた。

「ああ……分かったよ。」

その様子を感じとったのか六花はバツの悪そうにそう言った。

「ああ、今日のところはそこまでで良いよ。彼も疲れているだろうしね。それに、ちょうどお客さんが来ているところだし。」

その白衣から覗かせる甘美的な魅力を備えた脚に履いた底の高いヒールを響かせて高橋美沙はこの無菌室に入って来て唐突に終わり、六花の一日の終わりである実験の終了を告げた。

「待て……」

六花は立ち去っていく彼女達を呼び止めようとそう必死に叫んだ。

「ではお客様、また会う日まで。」

そう言って振り返ったグレートヒェンの瞳は赤く充血していた。

「待て……何で。」

六花はただ彼女ともう一度、もう一度話したかったのだ、モルモットとしてではなく少なくとも魔人として、人間として……

そして部屋は再び闇に包まれた。

  ＊＊＊

「それで、彼の様子はどうだった？」

高橋は椅子に深く腰かけ、その脚を組みながらグレートヒェンにそう訪ねた。

「はい。深雪六花には魔力回路がよく馴染んでおり問題はございません、高橋様。」

そう答えたのは背筋を伸ばし、直立不動でその隣に控えていたグレートヒェンであった。

「そう。良かったわきちんと馴染んでいるのね。高橋純也の魔力回路は。」

「はい、高橋様。」

「これで……やっとあのお方の生涯に幕が降ろされるのね。」

そう感慨深かそうに高橋はそう言った。

「はい、高橋様。」

しかし、一方でグレートヒェンの方はあくまで冷めた様子でそう相鎚を打った。

「待っててね、父さん。私ちゃんと迎えにいくから。」

その高橋の声はその場の自身のみにしか聞こえないような小さな、愛情の込もったものであった。

「では、次に移るわよ。」

高橋は躊躇い無くそう言った。

「早速、お客様に会いに行きましょう。」

そう言って高橋とグレートヒェンは消えていった。

  ＊＊＊

『ああ、君はなんて素晴らしいんだ。』

自身のその白髪をその指先で弄りながら蕩けた様に少女はそう言った。

『君はどちらを選ぶんだろうか？君を、君個人を初めて認めてくれた他人ひとと、君が愛し愛された者のどちらを。』

少女の周りには永遠と続く闇が広がっていた。それは少女のその心の様子を表しているようでもあり、かつ人間の醜さを表しているようであった。

『あの日、君が僕に魅せてくれたその憤怒から僕は君の虜だよ、深雪六花君。』

そう言って“サタン”は酷く歪んだ微笑をその頬に讃えた。

『でもそれだけにいただけないなぁ。僕の、僕だけの彼を勝手に弄るなんて……』

そう言って少女はその暗闇の歪みから生じている玉座から進み出て、闇へと消えていった。