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3章
九
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「……見えるッ」
深雪六花は空を飛びながら弾幕を回避していた。
彼の両手は松明の様に燃え盛り、ソレはさながらジェットエンジンの様に噴火していた。
「これが貴様の罰だ。甘んじて受けろッ」
那須太一はそう言い、尚もその手に力を込める事をやめようとはしない。
「お前はあの悪魔の誘惑に乗ってしまった。それがこの結果を生み出した。だからこの結果はお前には変えようがないんだよ。」
男はさらに糾弾を続ける。
「お前の憤慨が、憤怒があの悪魔___魔王をこの世に顕現させたんだよッ。」
これは神が定めた事だ。男はしかし、どこか寂しげにそう言った。
「……僕は悲しいよ。彼女を巻き込まなければならない事が。」
「それなら俺と、俺とだけ正々堂々と戦えッ!」
六花の、六花だけの憤怒が恍惚と燃え上がる。
「ああ、僕は悲しい。自分の無力さがッ!」
「魔人のお前なら人間の俺なんて一捻りだろッ!」
男はしかし、彼女の頭をさらに捻る。
彼女の凛とした、しかし苦悶の表情で染め上げられた呻き声が六花の耳元で囁く。
遠いいのに、どうしょうも無いくらいに六花から彼女は遠くにいるのに……彼の耳にはそれがどうしょうもなく近くに感じられてしょうがなかった。
「なんで僕は、僕の天使は悪の道にその道を踏み外した外道を、下衆を抹殺する権能を与えてくれなかったのか……」
ソレはどうしょうもなく純粋で、無垢で、残酷だった。
「ああ、僕は悲しいッ。」
太一はそう言って下卑た笑みを浮かべ、彼女をその手に締め上げる事での愉悦を噛みしめる様にした。
「手前ェーーーー」
六花の慟哭が響く。六花は加速した。その憤怒はとうとう弾幕を突破した。
「手前ってのは自分の事を指しているのかい?それなら自分でさっさと刺せよ。自分自身をな。」
大義名分。
世の正義が太一に協力しているのなら、世の憤怒は六花に味方しただろう。
たったそれだけの差であった。しかし運命は彼の味方をしてくれなかった。
深雪六花はその後、それに舞っていた。
否、落ちていた。飛行中に空を飛んでいた鳥が、憤怒という翼を持った鳥が、正義という無機質な銃弾の元に倒れていた。
男はその片方の手に燃え盛る利器を手にしていた。
「お前はもう魔人でもなんでも無い。お前は人間だ。」
僕は使徒なんだよ。
生物としての格が違う。そう男は愉悦に、優越に浸る。
「……知ってるか。人間ってのは輝けるんだぜ。」
彼女の様に。
「叩けば輝くもんなんだよ。命って字には叩くって入ってるだろ?」
春野芽生の様に。
六花に、愚鈍な彼に優しく接してくれた彼女の様に。
自分を殺した相手を愛し、それでも尚、彼を待ち続ける彼女の様に。
世の正義が、憤怒が彼等の内のどちらかを祝福しようと。
世の中の人間はきっと彼女を___春野芽生を愛するだろう。
例え隣の人間がそれを否定しようとも、深雪六花の中の世の中は彼女を求め、愛し続けるのだから。
これからも。これまでも。
「だから俺は信じる……人間って奴をな。」
神をも殺す。
深雪六花の、一人の人間とそれを翻弄する悪魔の。
俺と悪魔の反乱物語の幕が開けた。
「初戦は勝利で飾らなきゃな……例えそれがラスボスでも。」
だって彼は既に合っているのだから。
本来のラスボスである魔王と。
「彼女を返してもらおう。」
六花はその拳を男に突き出した。
「……だから何度も同じ事を言わせないでくれよ。」
君にこの罰の結果を変えられない。男はそう言う。
結果とは行動によって起こるその結末の事だ。
数字、感動。
それを物理的に算出できるかどうかは不躾な質問であろう。
確かに彼が魔王の力を、彼女の小さなその体に彼の憤怒を預けてしまった事は結果としては正しくないだろう。
しかし、しかし。それが悪い事だとは決して言えないのではないのか。
人間は結果を幸せを決める事ができない。
それをできるのは、正しくそれは神だろう。
それに決める事は結果であり、結果は幸福なのだから。
けれど人間は考える。反乱しようとする。
それは人間が決める事ができるからだ。
自分に問い掛ける事が可能だからだ。
悔いが残るか、残らないかを。
「だから言っただろ……結果は変えられないと。」
六花の放った拳は太一の利器によって斬られる。
痛い。たしかに痛い。しかしその痛みは魔王の負わせたあの痛みとは比べ物にならない。
憤怒により自身を支配された、支配する痛みとは比較にならなかった。
「効かねぇんだよそんなオモチャの剣なんかよッ。」
六花の拳から漏れた炎が空を裂く。
丁度ソレは斬られた事により指の様な形になる。
「魔人や使徒って言ったって所詮は人間様の二番煎じだろ?」
太一の、天使の、神の利器は六花のその拳の骨によってせき止められ、六花の拳を裂く事は出来ない。
「人間の……文明の利器ってヤツを味わえ。」
これがお前が馬鹿にし、恨み、目にして来なかった力だ。六花はそう言って笑った。大きく笑った。
「どうだ、痛いか?」
銃弾が、榮倉の落としていった銃弾が、六花の、魔王の指によって弾き出された銃弾が太一の胸を貫通していた。
皮肉にも、彼の母を殺した文明の利器が、人間の輝きが、彼を再び殺した。
「こっちの利器は鋭く尖ってるだろ?」
下卑た嗤いを浮かべて人間はそう言った。
深雪六花は空を飛びながら弾幕を回避していた。
彼の両手は松明の様に燃え盛り、ソレはさながらジェットエンジンの様に噴火していた。
「これが貴様の罰だ。甘んじて受けろッ」
那須太一はそう言い、尚もその手に力を込める事をやめようとはしない。
「お前はあの悪魔の誘惑に乗ってしまった。それがこの結果を生み出した。だからこの結果はお前には変えようがないんだよ。」
男はさらに糾弾を続ける。
「お前の憤慨が、憤怒があの悪魔___魔王をこの世に顕現させたんだよッ。」
これは神が定めた事だ。男はしかし、どこか寂しげにそう言った。
「……僕は悲しいよ。彼女を巻き込まなければならない事が。」
「それなら俺と、俺とだけ正々堂々と戦えッ!」
六花の、六花だけの憤怒が恍惚と燃え上がる。
「ああ、僕は悲しい。自分の無力さがッ!」
「魔人のお前なら人間の俺なんて一捻りだろッ!」
男はしかし、彼女の頭をさらに捻る。
彼女の凛とした、しかし苦悶の表情で染め上げられた呻き声が六花の耳元で囁く。
遠いいのに、どうしょうも無いくらいに六花から彼女は遠くにいるのに……彼の耳にはそれがどうしょうもなく近くに感じられてしょうがなかった。
「なんで僕は、僕の天使は悪の道にその道を踏み外した外道を、下衆を抹殺する権能を与えてくれなかったのか……」
ソレはどうしょうもなく純粋で、無垢で、残酷だった。
「ああ、僕は悲しいッ。」
太一はそう言って下卑た笑みを浮かべ、彼女をその手に締め上げる事での愉悦を噛みしめる様にした。
「手前ェーーーー」
六花の慟哭が響く。六花は加速した。その憤怒はとうとう弾幕を突破した。
「手前ってのは自分の事を指しているのかい?それなら自分でさっさと刺せよ。自分自身をな。」
大義名分。
世の正義が太一に協力しているのなら、世の憤怒は六花に味方しただろう。
たったそれだけの差であった。しかし運命は彼の味方をしてくれなかった。
深雪六花はその後、それに舞っていた。
否、落ちていた。飛行中に空を飛んでいた鳥が、憤怒という翼を持った鳥が、正義という無機質な銃弾の元に倒れていた。
男はその片方の手に燃え盛る利器を手にしていた。
「お前はもう魔人でもなんでも無い。お前は人間だ。」
僕は使徒なんだよ。
生物としての格が違う。そう男は愉悦に、優越に浸る。
「……知ってるか。人間ってのは輝けるんだぜ。」
彼女の様に。
「叩けば輝くもんなんだよ。命って字には叩くって入ってるだろ?」
春野芽生の様に。
六花に、愚鈍な彼に優しく接してくれた彼女の様に。
自分を殺した相手を愛し、それでも尚、彼を待ち続ける彼女の様に。
世の正義が、憤怒が彼等の内のどちらかを祝福しようと。
世の中の人間はきっと彼女を___春野芽生を愛するだろう。
例え隣の人間がそれを否定しようとも、深雪六花の中の世の中は彼女を求め、愛し続けるのだから。
これからも。これまでも。
「だから俺は信じる……人間って奴をな。」
神をも殺す。
深雪六花の、一人の人間とそれを翻弄する悪魔の。
俺と悪魔の反乱物語の幕が開けた。
「初戦は勝利で飾らなきゃな……例えそれがラスボスでも。」
だって彼は既に合っているのだから。
本来のラスボスである魔王と。
「彼女を返してもらおう。」
六花はその拳を男に突き出した。
「……だから何度も同じ事を言わせないでくれよ。」
君にこの罰の結果を変えられない。男はそう言う。
結果とは行動によって起こるその結末の事だ。
数字、感動。
それを物理的に算出できるかどうかは不躾な質問であろう。
確かに彼が魔王の力を、彼女の小さなその体に彼の憤怒を預けてしまった事は結果としては正しくないだろう。
しかし、しかし。それが悪い事だとは決して言えないのではないのか。
人間は結果を幸せを決める事ができない。
それをできるのは、正しくそれは神だろう。
それに決める事は結果であり、結果は幸福なのだから。
けれど人間は考える。反乱しようとする。
それは人間が決める事ができるからだ。
自分に問い掛ける事が可能だからだ。
悔いが残るか、残らないかを。
「だから言っただろ……結果は変えられないと。」
六花の放った拳は太一の利器によって斬られる。
痛い。たしかに痛い。しかしその痛みは魔王の負わせたあの痛みとは比べ物にならない。
憤怒により自身を支配された、支配する痛みとは比較にならなかった。
「効かねぇんだよそんなオモチャの剣なんかよッ。」
六花の拳から漏れた炎が空を裂く。
丁度ソレは斬られた事により指の様な形になる。
「魔人や使徒って言ったって所詮は人間様の二番煎じだろ?」
太一の、天使の、神の利器は六花のその拳の骨によってせき止められ、六花の拳を裂く事は出来ない。
「人間の……文明の利器ってヤツを味わえ。」
これがお前が馬鹿にし、恨み、目にして来なかった力だ。六花はそう言って笑った。大きく笑った。
「どうだ、痛いか?」
銃弾が、榮倉の落としていった銃弾が、六花の、魔王の指によって弾き出された銃弾が太一の胸を貫通していた。
皮肉にも、彼の母を殺した文明の利器が、人間の輝きが、彼を再び殺した。
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