D×DStrike〜俺と悪魔の反乱物語〜

藤沢 世界

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3章

来店

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「なあ、兄弟?」

「どうした?弟よ」

軽快な二つの声が部屋に鳴り響く。

「最近はめっきし客足が遠のいているから暇だねぇ」

そうだねぇ、と弟。

「赤字で滅法まいるな」

呑気そうな声で彼はそう呟く。

「まあ、いい事じゃないか」

「確かに俺たち武器屋が儲からない事はいい事なんだけどねぇ」

彼はどうやら武器屋であるらしかった。

兄弟二人で睦じく武器を売っているのだろう、打っているのだろう。

金属を製鉄する際の鈍く、しかし透き通った音が反響する。

「しかし末法の時代は滅法繁盛したよな」

「まあ、しかし平和だな」

彼はまた呑気そうにそう呟いた。

「なあ、兄弟。こんなに客が来ないんじゃ暇だから手前で打った劔で戯れないかい?」

心地良い水の蒸発する音が返事をする。

「なあ、兄弟。たった今出来上がったこの獲物もエントリーさせていいかい?」

呑気そうに彼は言って彼の方を向いた。

「こら、無闇に人に刀を向けるんじゃない!兄さんが怪我でもしたらどうするつもりだ?」

刀を突然向けられたもんだから彼はおっかなびっくりとそう言った。

「刃紋を向けて兄弟仲に波紋が広がる、なんてね!」

何処吹く風、彼はしかし飄々と彼の悪態をそう聞き流す。

「いやいやお前、それはいくらなんでも詰まらないだろう。ここは俺の怒りを酌んで刃紋を向けて破門になる、ってのはどうだ?」

彼の方もしかし、そう剽軽な事を答える。

彼は仲睦まじい兄弟なのだろう、そのやりとりはそれを物語っていた。

「いや、それはもっと酷いよ兄弟。それに兄さん、もう怪我なら負っているじゃないか」

何処にだ、彼は意外そうにそう慌てた様子で訊いた。

「それは……」

余命宣告の様に彼は勿体ぶってそう大きく息を吸い込んだ。

「……っ」

ゴクリ、彼はそう唾を飲み込んで彼の宣告を待ち構える。

「……心にな」

彼は直後大きく倒れ込む。

「……ってなんでお前までズッコケているんだよ!」

彼はそう言って彼を見つめた。

先程まで偉そうに医者の真似をして踏ん反り返っていたが倒れ込んでいる彼の姿があった。

「いや、こんな暑いところで大きく息を吸い込んだもんだからさ、咳き込んじゃたよ」

「それがさっきまで踏ん反り返っていた反動か!」

彼の虚しい声が部屋に、蒸し風呂 に響く。

彼は本当に彼の掌の上で戯れをやらされていたのだから虚しいのも仕方がない……仕方がなかったのだが、

「なあ、兄弟」

「なんだ、兄弟」

「踏ん反り返る、って可笑しい事だと思わないかい」

「……さっきまでお前がしていた事だろ?」

「嫌だな、そういう意味で言ったんじゃ無くて、その表現が可笑しいって言いたかったんだよ」

「?そうか?別段問題無い様に見えるけれど……」

「だって踏んで、反って、返るんだぜ。それじゃ結局踏まれているじゃないか」

敵の敵は味方、裏の裏は表、か。彼はそう彼に訊いた。

「その通りだよ!さすが兄弟。兄弟ほど優握な人物となると察しが良くて助かる」

彼はそれを聞いて大きな溜息を一つついた。

「まあ、お前のオツムの残念さは置いといて……」

大きく息を吸い込む様にして彼は勿体ぶる。

「……敵の敵は味方、ってのは少し暴論だよな」

涙を浮かべて咳き込んでそう言う彼の姿があった。

「ああ、全くもってそうだな、兄弟。」

不敵に嗤う彼の姿が刃紋に照らされていた。

   ***

「何処に向かっているのですか、お客様。」

メインストリートは朝日を浴びて水を得た魚の様に活力に溢れていた。というか寧ろ雑踏に塗れて窮屈だった。

「これから俺等が向かうのは武器屋だよ」

「……武器屋、ですか?」

そんな物騒なものがあるのか、といった視線をグレートヒェンは六花に向ける。

「これが意外とあるもんなんだよ」

「銃を扱っている様な所ですか?」

怯えた様に彼女はそう言って瞳を潤ませる。

「大丈夫さ、そんな一般人相手の所じゃないから」

「……そうですか。ならば私がアナタをお守りします!」

いや、彼女の瞳は涙で潤んでいるのでは無く、獲物を狙っている猛獣の様に輝いていた。

「いやいや、何もそんなに警戒する事はないよ」

流麗な彼女には涙が似合わないな、そんな事を思いながら六花はそう猛獣を宥める様にして言った。

「なにせ、相手はだからな!」

そう言って六花は親指を立てる。

「はぁ……」

たまには彼女の可愛らしい一面を堪能したいものだ。六花はそう思いながら未だにその目線は穏やかになりつつも指を鳴らす彼女を見つめる。

「こっちだ」

「随分と人気の無い所ですね」

コキリ、彼女の戦闘の準備運動の不敵な音が路地裏の狭い通路で響く。

「人気もないらしいけれどな」

場を紛らわさせようとサムズアップ。

「?」

流麗な金髪碧眼の彼女には通じなかったらしい。彼女の警戒心は収まらない。

「……面白くありませんよ?」

六花の心をその言葉が貫いた。

「こっちだ」

平静を装って六花はそう告げる。しかし、路地裏には当分分岐点など存在する訳も無くその言葉の意味はないのだけれど。

グイグイと手を引いて彼は奥へと進む。

大通りの雑多は彼等からは大きく離れていた。

しかし、彼は流麗な婦人の手を引いているのにも関わらず、手を半ば無理やりに引かれている筈の彼女の方から、彼女の片方の手から鈍い音が聴こえて来るものだから六花の歩幅は自然と大きくなっていた。

六花は手を引いて、いや追われながらもさらに奥へと突き進む。

「ここだ」

目の前には古めかしい看板が架けられている古民家の様な小さな店がそこにはあった。

申し訳程度に『一五八六~』と書かれた掛札がその歴史を雄弁に物語っていた。

「ごめんください」

六花は店にその足を踏み込んだ。

「なあ、兄弟。今日はお客が来たぜ」

一寸先は闇、その様な店内で店の奥から声が返事をした。

「お、お客様……」

グレートヒェンの心配そうな声が六花を呼ぶ。

「大丈夫さ。」

闇を指して六花はそう言った。
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