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3章
入達
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「で、お客は一体何が欲しいんだい?」
暗がりの中、百物語を行うかの様にちらついた蝋燭に顔を浮かべて店主はそう訊いた。
「だからさっきから言ってるだろう。武器が欲しいのさ」
「いや、お客さん。一口に武器って言っても色々あるだろう?」
成る程、確かに彼が云う事には一理あった。
「そうだな……知り合いからはここは刀を主に扱っているって訊いたんだが」
先程の美しい秋水を思い出しながら六花はそう言った。
「知り合いってのが一体誰か気になる所だが……随分と舐められたものだな」
「え?」
「こちとら何年もただ暇してた訳じゃなくてよ、きちんと鍛錬も積んでいるんだぜ」
着物の袖をまくり店主はそう豪語する。
「じゃあ、銃なんかも作れるのか?」
六花は好奇心のままにそう訊いた。
「……ああ、まあ、な」
何とも歯切れも悪く男はそう言った。その表情にはどこか暗いものがある。
「なんだ、盗まれでもしたのか?」
「そ、そんなヘマをやらかす訳が無いだろ……ただ、銃ってのにあんまり良い感情を持てなくてな」
暗く、むしろ困った様な表情を見て放った六花の言葉に店主は今度は水を得た様に勝気に答えた。
「そうか。じゃあ俺に刀をつくってくれよ」
こんなに無造作に物を置いていたらどれか一振り、一丁位盗まれてもおかしくは無いだろう、そんな他愛も無い事を考えながら六花はそう言った。
「武器が、死んだんだよ」
「え?」
唐突な話に六花は面食らった様子で絶句する。
「俺のつくった獲物が死ぬなんて事滅多に無い事だから、だから今朝からずっと考えていたんだ」
「それがようやく分かった。」
男は得意そうに歯を光らせてそう言って絶句した六花の方へ膝を向けた。
「お前が殺したんだな」
憎しみの感情が六花を襲う。肉親を殺されたかの様な強烈な憎しみが一座に放たれる。
「あの銃を」
刹那、六花の脳裏にあの男の痛みに悶える表情が過ぎる。
「あの銃をつくったのはお前なのか?」
「いいや、違う。あの銃をつくったのは俺の兄弟の方だ」
さっきからこの男が云う兄弟とやらに六花達一行は会う事が出来ず
にいる。
否、六花達は聞いているのだ。この目の前にいる男が自身を兄弟と呼んでいる事を。
「貴方、なんですか?」
恐る恐る、六花はそう訊いた。この目の前の狂人にそう尋ねる。
「ああ、そうだ」
蝋が受け皿に溜まっていた。
「じゃあ……じゃあ貴方は」
不気味な物に怯える様にして六花はそう言葉を綴った。
「敵、なのか?」
散乱した秋水がまるで水溜りの様に蝋燭の光を反射している。
「いや、敵では無いよ」
しかし、店主は、店主の兄弟は他愛もなくそう告げた。
「そもそも、敵って一体何を指すのかな?」
「敵、というものは戦い・競争などの相手で、その人に危険や害をもたらすもの……では無いのでしょうか?」
今まで口を閉ざし二人のやり取りを静観していたグレートヒェンはそう言った。
「おや、ご婦人。アナタは喋れたのですか?」
「喋ん無いモノだとてっきり思ってましたよ、あんまりのも人形みたいだから」
何がそんなに面白いのか彼はそう愉快そうに言った。
「彼女に謝れ」
「そう憤慨するなよ」
尚も愉快そうに、上機嫌に手を叩いて男はそう続ける。
「いや、それにしても随分杓子定規な回答だね。まるで辞書みたいだよ」
彼女はその態度に動じる事なくただ静観を続けるだけであった。
男はその態度が気に入らなかったのか、はたまた納得して満足したのか。無精髭を撫でながら今度は六花の方を向く。
「敵、ってものがそうなら僕は敵と考えられるのか?」
値踏みする様に男は六花を覗き込む。
「僕はしがない三文鍛冶屋でしか無い。武器屋を敵だというのならこれは世の中のもの全てが敵なんじゃないのか?」
「武器はただそこに有るだけだよ。」
六花は彼女の言葉を思い出した。
___何を願うかは人間次第。
魔王の言葉が鮮明に蘇る。
「でも、さっきお前は俺達を攻撃してきたじゃないか」
「あれをやったのは僕の兄弟なんだけどな……」
怪訝そうに目の前の男はそう言った。
「どっちにしろお前は敵じゃないのか?」
「だから、それが杓子定規だって言ってるだろ」
男は笑みを浮かべてこう続けた。
「武器屋に敵も味方も無いってね。僕がつくった包丁で君の幼馴染が殺されたってこっちには全く関係無いんだから」
愉快そうに、対峙する者にとってはただただ不快な、不敵な笑みを____男は浮かべていた。
暗がりの中、百物語を行うかの様にちらついた蝋燭に顔を浮かべて店主はそう訊いた。
「だからさっきから言ってるだろう。武器が欲しいのさ」
「いや、お客さん。一口に武器って言っても色々あるだろう?」
成る程、確かに彼が云う事には一理あった。
「そうだな……知り合いからはここは刀を主に扱っているって訊いたんだが」
先程の美しい秋水を思い出しながら六花はそう言った。
「知り合いってのが一体誰か気になる所だが……随分と舐められたものだな」
「え?」
「こちとら何年もただ暇してた訳じゃなくてよ、きちんと鍛錬も積んでいるんだぜ」
着物の袖をまくり店主はそう豪語する。
「じゃあ、銃なんかも作れるのか?」
六花は好奇心のままにそう訊いた。
「……ああ、まあ、な」
何とも歯切れも悪く男はそう言った。その表情にはどこか暗いものがある。
「なんだ、盗まれでもしたのか?」
「そ、そんなヘマをやらかす訳が無いだろ……ただ、銃ってのにあんまり良い感情を持てなくてな」
暗く、むしろ困った様な表情を見て放った六花の言葉に店主は今度は水を得た様に勝気に答えた。
「そうか。じゃあ俺に刀をつくってくれよ」
こんなに無造作に物を置いていたらどれか一振り、一丁位盗まれてもおかしくは無いだろう、そんな他愛も無い事を考えながら六花はそう言った。
「武器が、死んだんだよ」
「え?」
唐突な話に六花は面食らった様子で絶句する。
「俺のつくった獲物が死ぬなんて事滅多に無い事だから、だから今朝からずっと考えていたんだ」
「それがようやく分かった。」
男は得意そうに歯を光らせてそう言って絶句した六花の方へ膝を向けた。
「お前が殺したんだな」
憎しみの感情が六花を襲う。肉親を殺されたかの様な強烈な憎しみが一座に放たれる。
「あの銃を」
刹那、六花の脳裏にあの男の痛みに悶える表情が過ぎる。
「あの銃をつくったのはお前なのか?」
「いいや、違う。あの銃をつくったのは俺の兄弟の方だ」
さっきからこの男が云う兄弟とやらに六花達一行は会う事が出来ず
にいる。
否、六花達は聞いているのだ。この目の前にいる男が自身を兄弟と呼んでいる事を。
「貴方、なんですか?」
恐る恐る、六花はそう訊いた。この目の前の狂人にそう尋ねる。
「ああ、そうだ」
蝋が受け皿に溜まっていた。
「じゃあ……じゃあ貴方は」
不気味な物に怯える様にして六花はそう言葉を綴った。
「敵、なのか?」
散乱した秋水がまるで水溜りの様に蝋燭の光を反射している。
「いや、敵では無いよ」
しかし、店主は、店主の兄弟は他愛もなくそう告げた。
「そもそも、敵って一体何を指すのかな?」
「敵、というものは戦い・競争などの相手で、その人に危険や害をもたらすもの……では無いのでしょうか?」
今まで口を閉ざし二人のやり取りを静観していたグレートヒェンはそう言った。
「おや、ご婦人。アナタは喋れたのですか?」
「喋ん無いモノだとてっきり思ってましたよ、あんまりのも人形みたいだから」
何がそんなに面白いのか彼はそう愉快そうに言った。
「彼女に謝れ」
「そう憤慨するなよ」
尚も愉快そうに、上機嫌に手を叩いて男はそう続ける。
「いや、それにしても随分杓子定規な回答だね。まるで辞書みたいだよ」
彼女はその態度に動じる事なくただ静観を続けるだけであった。
男はその態度が気に入らなかったのか、はたまた納得して満足したのか。無精髭を撫でながら今度は六花の方を向く。
「敵、ってものがそうなら僕は敵と考えられるのか?」
値踏みする様に男は六花を覗き込む。
「僕はしがない三文鍛冶屋でしか無い。武器屋を敵だというのならこれは世の中のもの全てが敵なんじゃないのか?」
「武器はただそこに有るだけだよ。」
六花は彼女の言葉を思い出した。
___何を願うかは人間次第。
魔王の言葉が鮮明に蘇る。
「でも、さっきお前は俺達を攻撃してきたじゃないか」
「あれをやったのは僕の兄弟なんだけどな……」
怪訝そうに目の前の男はそう言った。
「どっちにしろお前は敵じゃないのか?」
「だから、それが杓子定規だって言ってるだろ」
男は笑みを浮かべてこう続けた。
「武器屋に敵も味方も無いってね。僕がつくった包丁で君の幼馴染が殺されたってこっちには全く関係無いんだから」
愉快そうに、対峙する者にとってはただただ不快な、不敵な笑みを____男は浮かべていた。
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