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4章
割礼
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「驚いたよ。流石に僕でも死ぬかと思って戦慄したよ」
火山が噴火したかの様な爆風に包まれ、サタンはそう言った。
「あの子はもう死んじゃってたから良いよね。それに、もう人の事を気にかけている様な余裕も無い」
恣意的。あまりにも自分勝手に彼女はそう言う。
しかし、これも納得のいく事なのかもしれない。なぜなら、彼女は悪魔なのだから。人間ではなく悪魔なのだから。
純粋で無邪気で残酷な神、否それは魔王である。
「やっぱり、この程度じゃ無傷だよね」
爆煙を肩で切りながら元・那須太一はゆっくりと白日の元へと晒される。
____刹那、交差する二つの物体。その衝撃によって固められた周囲の空気の塊が飛び散る。
片方は焔を纏う拳で、もう一方は聖なる神器で。
幾許か鈍い衝撃波が浸透したところで、周囲の煙はものの見事に晴れていた、白日である。
青天白日では無い、白日の夢の様な二人がただ白日の下で竜攘虎博する。
見事な富士が入道の様に現れた。
一富士、二鷹、三茄子。
夢だろうか?否、現実に違いない。
季節は桜咲き乱れる春。目出度い新年では無いのだ。
普段は富士を逆さに綺麗に反射する河口湖も爆風により落ちてしまった桜の花をその水面に称えている。
「あれは……」
烱々と目を悪戯に光らせ闘いに興じていた折、目端に異物を捉えた様にサタンは言った。
「クソッ。一歩遅かったか」
否、速かったのだろうか?
それまで均衡を保っていた戦況は次第に太一に与し始める。
これまでの付けだろうか?それとも彼がただ全力を出していなかっただけなのだろうか?
とにかく、彼女は契約を遵守出来ないでいた。
ソレは桜の見事な花筏を舞い上げ宙へと強烈な質量を持って迫る。
『ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは』
確かに、紅葉ではなく桜だけれども。竜田川ではないのだけれど。
「うぉりゃぁああああああああ」
悪戯に烱々と光らせたソレが旋回もせずに一直線に迫り来る。
赤壁の戦い。
神鷹はまたしても嘘をついた、つけた。
彼はこの嘘を銃弾を集める藁人形を用意した呉蜀側に自分を見立てて吐いたのだけれど、今彼は太一の中にいる。
否、そう考えるとこの状況は天下三分の計とはかけ離れたものなのかもしれない。
嘘とはものの見方次第で成立するものなのかもしれない。
「これで五分に戻せると良いんだけど……」
_____。
声にならない咆哮を太一は放つ。
その手を組み伏せて凛奈の光る瞳はサタンを睨む。
凛奈が噛み付き、サタンがその隙に攻撃を入れる。
実に効率的で素晴らしいコンビネーションに思われた、が。
_____。
これまた咆哮。彼女達は一蹴されていた。
きっと両方だったに違いない。彼は力を抑えながら戦っていたし、魔王は力も弱まったのだろう。
もう、終わりだ。そう思った時、
「待てッ」
ヒーローは遅れて参上すると云うが、彼の場合は早すぎだ。
契約の執行。
「早いよ、バカ。」
『また、この契約の遵守の為に深雪六花とサタンは接触する事が出来ない』
この条項は確かに、魔王が六花の大切なものを守るという特性上からごく自然なものに思われた。
「頑張って、お兄ちゃん」
彼女がその契約を守れていなかった事が吉かどうか、彼女は凛奈を凶刃の元から突き放す力を残していた。
「麻友ーーーー……」
声が掠れる。ただ虚しい叫び声だけが木霊する。
六花の後ろに隠れる様にくっついた深雪麻友に、破裂した深雪麻友の返り血が染みていた。
火山が噴火したかの様な爆風に包まれ、サタンはそう言った。
「あの子はもう死んじゃってたから良いよね。それに、もう人の事を気にかけている様な余裕も無い」
恣意的。あまりにも自分勝手に彼女はそう言う。
しかし、これも納得のいく事なのかもしれない。なぜなら、彼女は悪魔なのだから。人間ではなく悪魔なのだから。
純粋で無邪気で残酷な神、否それは魔王である。
「やっぱり、この程度じゃ無傷だよね」
爆煙を肩で切りながら元・那須太一はゆっくりと白日の元へと晒される。
____刹那、交差する二つの物体。その衝撃によって固められた周囲の空気の塊が飛び散る。
片方は焔を纏う拳で、もう一方は聖なる神器で。
幾許か鈍い衝撃波が浸透したところで、周囲の煙はものの見事に晴れていた、白日である。
青天白日では無い、白日の夢の様な二人がただ白日の下で竜攘虎博する。
見事な富士が入道の様に現れた。
一富士、二鷹、三茄子。
夢だろうか?否、現実に違いない。
季節は桜咲き乱れる春。目出度い新年では無いのだ。
普段は富士を逆さに綺麗に反射する河口湖も爆風により落ちてしまった桜の花をその水面に称えている。
「あれは……」
烱々と目を悪戯に光らせ闘いに興じていた折、目端に異物を捉えた様にサタンは言った。
「クソッ。一歩遅かったか」
否、速かったのだろうか?
それまで均衡を保っていた戦況は次第に太一に与し始める。
これまでの付けだろうか?それとも彼がただ全力を出していなかっただけなのだろうか?
とにかく、彼女は契約を遵守出来ないでいた。
ソレは桜の見事な花筏を舞い上げ宙へと強烈な質量を持って迫る。
『ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは』
確かに、紅葉ではなく桜だけれども。竜田川ではないのだけれど。
「うぉりゃぁああああああああ」
悪戯に烱々と光らせたソレが旋回もせずに一直線に迫り来る。
赤壁の戦い。
神鷹はまたしても嘘をついた、つけた。
彼はこの嘘を銃弾を集める藁人形を用意した呉蜀側に自分を見立てて吐いたのだけれど、今彼は太一の中にいる。
否、そう考えるとこの状況は天下三分の計とはかけ離れたものなのかもしれない。
嘘とはものの見方次第で成立するものなのかもしれない。
「これで五分に戻せると良いんだけど……」
_____。
声にならない咆哮を太一は放つ。
その手を組み伏せて凛奈の光る瞳はサタンを睨む。
凛奈が噛み付き、サタンがその隙に攻撃を入れる。
実に効率的で素晴らしいコンビネーションに思われた、が。
_____。
これまた咆哮。彼女達は一蹴されていた。
きっと両方だったに違いない。彼は力を抑えながら戦っていたし、魔王は力も弱まったのだろう。
もう、終わりだ。そう思った時、
「待てッ」
ヒーローは遅れて参上すると云うが、彼の場合は早すぎだ。
契約の執行。
「早いよ、バカ。」
『また、この契約の遵守の為に深雪六花とサタンは接触する事が出来ない』
この条項は確かに、魔王が六花の大切なものを守るという特性上からごく自然なものに思われた。
「頑張って、お兄ちゃん」
彼女がその契約を守れていなかった事が吉かどうか、彼女は凛奈を凶刃の元から突き放す力を残していた。
「麻友ーーーー……」
声が掠れる。ただ虚しい叫び声だけが木霊する。
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