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06.

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俺は漫画でよく見たことのある考える人のポーズを取りながらついさっきのことを思い出していた。

いつも通り残業に明け暮れた日の翌日

「やっば……ストックねぇわ、」「マジ?」

一緒に作業をしていた同僚と備え付けてあるキッチンに立ち、お湯をケトルで沸かしていると後からそんな声が聞こえた。

「マジ…どうすっかな~…」そう言ってしゃがみこんだ同僚の前にあるのは大きな備え付けの棚。

いつからか徹夜してこの会社で寝泊まりすることも多くなった社員のために社長が用意していた食品棚の中身は見事に空っぽだ。

乾麺もレトルト食品も缶詰も綺麗に何一つない。

「流石になにか入れないと不味いだろ…。俺はクッキー入れたけど、お前昨日から食べてないし」

「そ~だな。流石に空腹で倒れるのはまずい、、、買ってくるか」
「今から?」

時間は午前8時半

ビルの巨大なガラス越しに目を下向ければ犬の散歩をしている人、顔を真っ青にして壁に手をついているホスト、カップルでランニングをしてる人。様々な人がそこに居た。

「ん、近いし平気だろ。ついでに補充分も買ってくるわ。何か欲しいもんは?」
「ん~、有ったら肉まんお願い、何か無性に食べたい気分」
「把握。じゃ、行ってくるわ。」
「了、いってら~」

外に出るとそこは灼熱地獄かというほど日差しが照り付けていた。

都会は何故こんなにも暑いのか。俺の実家も割と北九州の方で温かい方だったけど、、、「暑すぎだろ…」

熱中症対策等していないので倒れる前に急いでコンビニに向かう。

ウィーンという音とともにドアが開く。

「いらっしゃいませー」何て何処からか聞こえる店員の声とエアコンの風を受けながら2つの籠を手に取る。

一つには菓子と飲料類、二つには非常食を迷いもなく片っ端から突っ込んでいく。

カロリーメイトに、ポテチ。栄養ドリンクにビタミン剤。カップ麺は目に着く物全て、幾つかの缶詰を値段など見ずにガラガラと籠の中に落とす。

親に見られたら確実にお叱りが来るであろう物で籠が満タンになったところで籠をレジに持っていき、ついでにホットスナックも幾つか注文する。

店員が籠と俺を4、5回見比べながら恐る恐るスキャンしていく。別にお金の心配などしていない。

うちの会社、作業時間は長いがその分給料も高いのだ。しかも会社の外に出ないからずっとたまり続けるというループ。

何時からか社長に貰ったカードを翳して両手いっぱいの荷物を持つ。

重さに腕を引きちぎられそうになりながらビルを目指して歩く。

「おっも…台車持ってこればよかった。」何て考えながら信号の色が青に変わるのを待つ。

こういう時の信号の時間が途轍も長く感じるのは俺だけだろうか。

近くにいた女児向けアニメのシャツを着た女の子もお腹が膨らんだ母親の手を繋ぎながら今か今かと信号をじっと見ていた。

(俺にもあんなときが有ったんだよな…)なんて思いながら下がっていた目を前に向ける。
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