異世界の地、七光りの冒険

mikasaball

文字の大きさ
38 / 69
水星会編

35.チンピラのその後

しおりを挟む
 チンピラアニキとその取り巻きだった5人は結論から言えば破門になった。
行くあてのない彼らは街を彷徨い、気弱そうな人を見つけては金銭の巻き上げを行っていた。
冒険に行く力もなく、頼れる後ろ盾も失った彼らはこうして日銭を稼ぐしかなかったのだ。

 そんな日が数日続いたある日、チンピラアニキはいつものように取り巻きを連れてカモを探していた。

「ったく、なんで俺らこんな事になっちまったんだ? ちょっと前までは上手くいってたのにな」
「そんなもん決まってんだろぉ。全てアイツのせいだ。アイツさえ居なけりゃ今頃……。はぁ……。それよかよぉ、タケとオサムはどうしたよ?」
「それが昨日から連絡がつかねーんだ。位置検索してもエラーがでてきちまう。スマホ置いてどこかにいるんだろうぜ」
「チッ……。こんな時だからこそ皆が集まる必要があるってのに、何してんだまったくよぉ」

 チンピラ連中は口を開けば愚痴しか出ない。
やることなすこと上手くいかない彼らは苛立ちを募らせていた。
 そのエネルギーを落ちていた空き缶に思いのままぶつけると、それは路地裏の方へと入って行った。
その動きに釣られて路地裏に目をやると、男女のカップルがいた。
 それを見てこれはチャンスだと思った彼らは早速因縁をつけに行った。

「よお! お楽しみのところ悪いけど、ちっと金でも恵んじゃくれねぇか? 」
「見たところアンタ聖職者みてえだな。それがこんな暗がりで……いけないんじゃないのかい?  聖職者だったら俺らに慈悲をくれても罰は当たらんだろ。黙ってて欲しけりゃ――わかるよな?」
「こいつらぁ、気が短いんだ。素直に従った方が身のためだぁ」

 怯えるカップル相手に容赦ない恐喝を行うチンピラ達。
3人は逃がさぬようカップルを取り囲む。

 こうなればもう時間の問題だ。
チンピラ達は金ズルゲットと言わんばかりに、カツアゲ成功の確信の笑みを浮かべていた。
 カップルの男は諦めて、財布を取り出したその時、不意に声を掛けた者がいた。

「そのような輩に渡すことなどありません」

 チンピラ達は一斉に振り返り、その視線の先にはローブのフードを目深に被る謎の女が居た。
ちょっかいを出してきたその女にチンピラ達は憤りをぶつける。

「なんじゃいワレェ! ヒーロー気取ってると痛い目見んぞ!?」
「部外者は引っ込んどれ!」
「……まあ待てお前ら、よく見るとこいつ……女じゃねぇかぁ? おい、ちょっと顔見せてみろよォ」

そう言ってチンピラアニキは女のフードに手を伸ばし、顔を拝もうとした。
だが、それが叶うことはなかった。

 なぜならチンピラアニキの左手がポロリと落ちたからである。
その断面からは鮮血が吹き出し、誰から見ても重症であることは明らかだった。

 チンピラアニキは状況を理解するや否や、全身の血の気が引いた。
顔を歪ませ叫び声をあげるところだがそれも叶わなかった。

 女は人を呼ばせまいとチンピラアニキの首を目にも止まらぬ早業で掻き切ったからである。
チンピラアニキは首から湧き出る血の海に、ゴポゴポと音を立てながら溺れて倒れた。

 その異様な光景にあって、その場に居た者は皆固まった。
頭では逃げるべきだと理解してるが体が動かない。
 皆、凄惨な現場に釘付けになっていたのだ。
それを察した女は語りかける。
 
「そこの御二方、もう行っていいですよ」
「あ……あぁっ……!」

 カップルは何も言うことができなかったが、その女のお許しを得たことによって、恐々としながらもその場から逃げ去った。

 だが悲惨なのは残りの2人だ。
逃げるカップルを後目しりめに見るだけで、自分達は逃げてはいけないとわかっていたから。
逃げたら目の前のチンピラアニキと同じ姿になるのだと。

「おっ、お……俺らが何したってんだ……!こんな目に合ういわれはないぞ……!」
「そ、そうだ……!アンタなんて知らないし、迷惑をかけた覚えもない……!なんでこんな……ああっ、クソっ!!」

 チンピラは目に涙を浮かべながら自身の行動を振り返る。
恨まれる覚えなんて幾らでもあるが、それでもこんなことになるなんて夢にも思わなかった。
 そしてチンピラはふと思い出す。

「まさかっ……! タケとオサムが見つからないのは……」
「っ! そういう……ことか!?」

 2人は悟った。
他のチンピラ仲間、タケとオサムも目の前のアニキみたいな目に、既に合っているのだと。

「貴方達は……許されないことをしました。大いに悔いて来世があることを祈ってください」

 女はどこから出したのか、白い体毛に包まれた手には小型の斧を握っていた。
その斧にはチンピラアニキの血が滴っている。

「っ! ま、待ってくれ! 俺が悪かったよ! 償いはなんでもする! だから命だけ――」

 命乞いは最後まで言えなかった。
その姿に見苦しさを感じた女が斧を投げつけたからだ。
斧は男の顔面に斜めに突き刺さった。
 瞬間、首だけが後ろに倒れ、力尽きたように体も崩れた。

 もう無理だ。
そう悟った残りの男は一目散に走った。
 後ろには死がある。
そうわかっているからか、不思議と全身の感覚が研ぎ澄まされ後ろからビリビリと伝わるものがある。
男は苦し紛れに叫んだ。

「助けてくれ!! 誰かァッ――」

 一縷の望みを賭けた一世一代の叫び。
だが残念なことに、女は斧を両手に持っていた。
1つは手元から離れたといえ、もう1つは未だ手中。
その残りの斧は、逃げた男の背中に吸い込まれるかのように向かって行った。
ドスッという質量感のある音が鈍く響くと、男の叫び声はピタッと消えた。

 女は3人の死体を眺めて溜息を吐いた。

「――夏目様にちょっかい出したこと、それが貴方たちの罪です」

 女は死体を担ぐと夜の路地へ飲み込まれるかの如く消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...