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ロステマ帝国編
56.下準備
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祭り当日、怜央の任務は儀式に参加することから始まった。
場所は市内のソルツィロ神殿。
その日は朝から、高貴な身分の者達で長蛇の列が出来ている。
怜央もそこに並ぶが、服装での違和感はない。
クレイユ王国で買った安物の服とは言え、現地のものと比べると圧倒的なクオリティ。
比較的な問題で品質が高く、どこの貴族かと注目を集めていたと言ってもよい。
事前予約制のため、受付では参列者の名前を確認・記帳し、幾許かの喜捨を納めていた。
実のところ、それが参加費のような実態であった。
しばらく並び、ようやく怜央の番が来ると、担当者の前へと立つ。
怜央は自分の身分を高くみせるため、偉そうな素振りを演じた。
「お名前をどうぞ」
「あー……そのだね、君。ちょっと良いかな」
怜央は担当者の肩に手を添え大衆を背にした。
ヒソヒソと喋る様は何か裏の事情があることを暗に示している。
「ここだけの話なのだが、私は遠方よりお忍びできているのだ。なので事前の申請などしてないし、公のものに名前を残すのも憚られる。――やんごとなき身分なのでね!」
「は、はぁ……。ですがそうなりますと、残念ながら祭事には参加できかねます……」
そう来るだろうと予測していた怜央はわざとらしい咳払いをして、本題へと入った。
「そこでものは相談だ。もし君が私の願いを聞いてくれるのならば、ほんの心ばかりのお礼をしようと思う。見てくれ」
怜央は懐から巾着を取り出すと、その紐を緩め中身を見せつけた。
中にあるのは黄金の輝きを放つ現地の金貨。
必要最低限の生活を送っているなら1枚で1年暮らすことができる。
それがじゃらつく程あるのだ。
心が揺れない訳がない。
「こ、これは……!」
「神殿に納める喜捨とは別に、これは君だけのものだ。ただ少し、私が参加できるよう融通を利かせてくれれば――ね?」
担当者は生唾を飲み、その様子を確認した怜央は落ちたことを確認したも同然。
余裕綽綽の態度を貫き通した。
担当者は持っていた名簿に、存在するはずのない架空の人物名を書き込むと、笑顔で言った。
「ソルツィロ神殿へようこそキルケット卿。会場はあちらになります」
怜央はニコリと微笑みお礼を述べて、巾着と一緒に喜捨用の貨幣を渡した。
かくして、会場への侵入は問題なく済んだのである。
◆◇◆
一方コバートは、ラフマの所有者と交渉を行なっていた。
「今回の大祭、お宅の奴隷が主役を飾るそうですね」
「ええ、まさか選ばれるとは思わず、私も鼻が高い」
コバートは感情のこもってない、無愛想な相槌を返した。
「そうでしょうね。しかしその名誉は、俺にとっても魅力的に思えて仕方がないんですよ。よければ金貨10枚で、彼女の所有権を譲ってくれやしませんかね?」
「金貨10枚!?」
普通の奴隷であれば高くても金貨3枚。
コバートの提示した条件は破格ともいえる。
だが、気前よく金銭を提示したコバートに、ラフマの所有者は欲をかく。
「金貨10枚は確かに魅力的ですな。しかし、大祭での主役を務められるのは年に1人だけ。それに加え、ロステマ帝国3000万人いるなかのたった1人に選ばれた彼女です。私はもう少し、価値があってもおかしくはないと思いますがね」
「……そこまで言うんだったら追加で5枚、増やすよ」
簡単に5枚も増やしたコバートの懐事情を察した所有者は、さらに吹っかける。
「金貨20枚……! それでしたら、所有権をお渡ししましょう!」
所有者の値上げ交渉に、コバートは内心、悪態をついた。
(強欲な……。本来ならこんなやつどうでもいいんだが、怜央の頼みだ。手続きだけはやっておかねーとな)
そんなことを考えていたために返事が遅くなり、所有者は焦った。
値をつりあげすぎて失敗したのかと。
「あ、あのっ、コバートさん?」
「……ん? ああ、いいよ20枚で。ちょっと急ぎだからさ、早めに権利書貰っていい?」
こんなやつがラフマの所有者なのか……と、反吐がでる想いのコバート。
自分でも気づいてないが、コバートは最初より態度が悪くなっていた。
「わかりました。すぐに持って来させましょう! ――おい、聞いてただろ! ラフマの権利書を急いでお持ちするんだ!」
所有者は他の奴隷に命令し、権利書を取りに行かせた。
奴隷に対する横柄な態度に、コバートはますますげんなりとする。
所有者は臨時収入を得て上機嫌となり、コバートに酒を勧めた。
「どうです、1杯。今朝仕入れたばかりの上物ですよ」
「んーや、結構。権利書を頂いたら直ぐにでも出るつもりだから」
「そ、そうですか……」
所有者も、コバートの機嫌が悪いのはなんとなく察した。
だが自分がその原因だと気づくことは、ついぞ無かった。
◆◇◆
他方、協力しない旨を表明したアリータ・テミスだったが、間接的なものなら良いとして、小物の入手を手伝っていた。
「ロープはゲットしたわ!」
「私もなんとか毒草を。しかしこんなの、なにに使うつもりなのかしら」
「コバートの考えることはわからないわよ」
「でも残念ね。神絡みでなければ私も参加したのに」
「……でしょうね。――まあ、本来の目的は果たしたし、さっさと帰って別の依頼でも受ければいいんじゃない? あいつらが行くっていうかは別としてね」
「うーん。そうねぇ……」
この時テミスには、ある懸念があった。
帰った後も、神罰――何らかの障りがあるのではないかと。
場所は市内のソルツィロ神殿。
その日は朝から、高貴な身分の者達で長蛇の列が出来ている。
怜央もそこに並ぶが、服装での違和感はない。
クレイユ王国で買った安物の服とは言え、現地のものと比べると圧倒的なクオリティ。
比較的な問題で品質が高く、どこの貴族かと注目を集めていたと言ってもよい。
事前予約制のため、受付では参列者の名前を確認・記帳し、幾許かの喜捨を納めていた。
実のところ、それが参加費のような実態であった。
しばらく並び、ようやく怜央の番が来ると、担当者の前へと立つ。
怜央は自分の身分を高くみせるため、偉そうな素振りを演じた。
「お名前をどうぞ」
「あー……そのだね、君。ちょっと良いかな」
怜央は担当者の肩に手を添え大衆を背にした。
ヒソヒソと喋る様は何か裏の事情があることを暗に示している。
「ここだけの話なのだが、私は遠方よりお忍びできているのだ。なので事前の申請などしてないし、公のものに名前を残すのも憚られる。――やんごとなき身分なのでね!」
「は、はぁ……。ですがそうなりますと、残念ながら祭事には参加できかねます……」
そう来るだろうと予測していた怜央はわざとらしい咳払いをして、本題へと入った。
「そこでものは相談だ。もし君が私の願いを聞いてくれるのならば、ほんの心ばかりのお礼をしようと思う。見てくれ」
怜央は懐から巾着を取り出すと、その紐を緩め中身を見せつけた。
中にあるのは黄金の輝きを放つ現地の金貨。
必要最低限の生活を送っているなら1枚で1年暮らすことができる。
それがじゃらつく程あるのだ。
心が揺れない訳がない。
「こ、これは……!」
「神殿に納める喜捨とは別に、これは君だけのものだ。ただ少し、私が参加できるよう融通を利かせてくれれば――ね?」
担当者は生唾を飲み、その様子を確認した怜央は落ちたことを確認したも同然。
余裕綽綽の態度を貫き通した。
担当者は持っていた名簿に、存在するはずのない架空の人物名を書き込むと、笑顔で言った。
「ソルツィロ神殿へようこそキルケット卿。会場はあちらになります」
怜央はニコリと微笑みお礼を述べて、巾着と一緒に喜捨用の貨幣を渡した。
かくして、会場への侵入は問題なく済んだのである。
◆◇◆
一方コバートは、ラフマの所有者と交渉を行なっていた。
「今回の大祭、お宅の奴隷が主役を飾るそうですね」
「ええ、まさか選ばれるとは思わず、私も鼻が高い」
コバートは感情のこもってない、無愛想な相槌を返した。
「そうでしょうね。しかしその名誉は、俺にとっても魅力的に思えて仕方がないんですよ。よければ金貨10枚で、彼女の所有権を譲ってくれやしませんかね?」
「金貨10枚!?」
普通の奴隷であれば高くても金貨3枚。
コバートの提示した条件は破格ともいえる。
だが、気前よく金銭を提示したコバートに、ラフマの所有者は欲をかく。
「金貨10枚は確かに魅力的ですな。しかし、大祭での主役を務められるのは年に1人だけ。それに加え、ロステマ帝国3000万人いるなかのたった1人に選ばれた彼女です。私はもう少し、価値があってもおかしくはないと思いますがね」
「……そこまで言うんだったら追加で5枚、増やすよ」
簡単に5枚も増やしたコバートの懐事情を察した所有者は、さらに吹っかける。
「金貨20枚……! それでしたら、所有権をお渡ししましょう!」
所有者の値上げ交渉に、コバートは内心、悪態をついた。
(強欲な……。本来ならこんなやつどうでもいいんだが、怜央の頼みだ。手続きだけはやっておかねーとな)
そんなことを考えていたために返事が遅くなり、所有者は焦った。
値をつりあげすぎて失敗したのかと。
「あ、あのっ、コバートさん?」
「……ん? ああ、いいよ20枚で。ちょっと急ぎだからさ、早めに権利書貰っていい?」
こんなやつがラフマの所有者なのか……と、反吐がでる想いのコバート。
自分でも気づいてないが、コバートは最初より態度が悪くなっていた。
「わかりました。すぐに持って来させましょう! ――おい、聞いてただろ! ラフマの権利書を急いでお持ちするんだ!」
所有者は他の奴隷に命令し、権利書を取りに行かせた。
奴隷に対する横柄な態度に、コバートはますますげんなりとする。
所有者は臨時収入を得て上機嫌となり、コバートに酒を勧めた。
「どうです、1杯。今朝仕入れたばかりの上物ですよ」
「んーや、結構。権利書を頂いたら直ぐにでも出るつもりだから」
「そ、そうですか……」
所有者も、コバートの機嫌が悪いのはなんとなく察した。
だが自分がその原因だと気づくことは、ついぞ無かった。
◆◇◆
他方、協力しない旨を表明したアリータ・テミスだったが、間接的なものなら良いとして、小物の入手を手伝っていた。
「ロープはゲットしたわ!」
「私もなんとか毒草を。しかしこんなの、なにに使うつもりなのかしら」
「コバートの考えることはわからないわよ」
「でも残念ね。神絡みでなければ私も参加したのに」
「……でしょうね。――まあ、本来の目的は果たしたし、さっさと帰って別の依頼でも受ければいいんじゃない? あいつらが行くっていうかは別としてね」
「うーん。そうねぇ……」
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