俺は猫であり父である

佐倉さつき

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第3章 娘は難しいお年頃?

初めての手作りチョコレート(2)

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次の日の日曜日の午前中、妻と明莉は出来上がった手作りチョコレートをダイニングテーブルに広げていた。
気になって俺が近づくと、
「オトは来たらダメ!」
と言われた。
「クー。(悲しい。)」
娘に「パパ来ないで」と言われてへこむ世の中のお父さんの気持ちがわかる。
俺はトボトボとリビングまで戻り、ソファーの上にとびのった。

「もう、オト!チョコレートのラッピングが終わるまで大人しくしてて!」
ソファーの上にのったら、ダイニングテーブルの様子がよく見えると思ったのに・・・
何をやっても怒られるお父さんの気持ちがわかる。
妻に叱られ、子供に叱られ・・・お父さんは辛いよ。
まあ、今の俺はお父さんではなく、猫なんだけど・・・

それよりも、さっき気になることを言っていなかったか⁉
そうだ!ラッピング!
家で妻と二人で食べるなら、わざわざラッピングをする必要なんてない。
ラッピングをするということは、誰かにあげるのか⁉
一体、誰に⁇好きな男の子はいないって、言ってじゃないか⁉
「シャー!(パパは許さないぞ!)」
俺は静かに首だけ動かして、ダイニングテーブルの方を見た。

「どれがいいと思う?」
「これなんかどう?」
「トッピングがきれいに広がっていていいね。こっちは、ちょっと偏ってるかな。」
明莉と妻がラッピングするチョコレートを選んでいる。
テーブルの上には、袋が5枚。
誰か一人の人にあげるわけではないらしい。
ラッピングが終わったチョコレートは、再び冷蔵庫の中に戻っていった。

「明莉、パパのチョコレートをお皿に入れて、お供えしてくれる。」
妻が、お皿を持って戻ってきた。
パパのチョコレート?俺のもあるのか⁉

明莉はお供えするチョコレートを選んでお皿にのせると、仏壇にお供えをしてくれた。
「パパ、チョコレートよ。いつも見守ってくれて、ありがとう。」
「あなた、明莉が初めて作ったチョコレートよ。」
妻も明莉と一緒に仏壇の前まで来て、一緒に座っている。
「ニャー。(ありがとう。)」
俺が二人のところにかけていくと、
「ダメよ、オト!これは、パパのよ!」
「オトはチョコレートは食べられないよ。」
二人に怒られてしまった。
「ニャー。(わかってる。)」
俺は、速度をゆるめて二人のところまでいき、二人の間に座った。
愛する妻と娘に挟まれて、俺は幸せだ!



昼食後、妻と明莉がラッピングされたチョコレートを紙袋に入れて外出していった。
それから四時間・・・妻はすぐに帰ってきたが、明莉の帰りが遅い。
一体、何をしているんだ⁉誰に会っているんだ⁉
リビングをうろうろしている俺を見て、ダイニングテーブルで仕事をしながら妻が笑っている。
どうして、そんなに落ち着いているんだ!
明莉が心配ではないのか⁉



「ただいま!」
明莉が元気よく帰ってきた。
「友だちからチョコレート、もらってきたよ。食べてもいい?」
「いいわよ。じゃあ、ばあばからもらったお菓子は、明日にする?」
「うん!」

どうやらラッピングされた手作りチョコレートは、友だちとお義母さんの所にいったらしい。
「フー。(よかった。)」
今日もいい一日だった。

ハッピー バレンタイン!
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