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5章
第23話 包囲完了
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無人となった駅の構内を、志穂は緊張の面持ちで歩いていた。行きの時と同じルートの逆を進み、出口に近づいていく。
「あ、来た来た。やっほー志穂。待ってたよ」
出口付近でひらひらと手を振るのは志穂の友人、小清水真奈。彼女のその行動に、志穂はキュッと唇を噛み締め、俯く。数秒して、意を決したように彼女の元へ歩み寄る。
「よし、行こっか」
真奈は志穂の一連の行動に何のリアクションもせず、変わらぬ笑顔を浮かべたまま志穂の手を取り駅を出ると白色の光が飛び込んできて思わず目を細める。その瞬間だった。割れんばかりの喝采が、志穂の鼓膜を揺らし始めた。
突然の出来事に肩を震わせ、周囲を見渡す志穂。道を作るかのように平行で並んだ老若男女。皆、穏やかな笑顔を浮かべ手を叩き、志穂と真奈の方向へ顔を向けている。異様な光景に、志穂はキョロキョロと落ち着きなく視線を動かすが真奈は落ち着き払った態度で志穂へ振り返り、ニコリと笑って手を引き歩き出す。
拍手の雨に打たれながら笑顔の橋を渡る志穂と真奈。橋の先にあったのは白い車。色こそ違うが、以前志穂が誘拐された時と同じ車種だ。車の存在を確認した志穂は目線を空へと向ける。すると、太陽より地上に近い雲の下、長方形の発光体が街の中心部で眩い光を放っていた。
「畑野さん」
列の左側から聞き覚えのある声が耳に響き、視線を落とす。そこにはバイト先の同僚である稲田美咲がいた。澄んだ瞳に笑顔を浮かべ、手には白一色の花束を持っている。
「おめでとうございます」
そう言って差し出された花束を志穂は恐る恐る手に取ると、真奈が柔和な笑みを浮かべる。
「乗って乗って」
真奈に促されるまま車へ乗る志穂。彼女の後を追うように真奈も車に乗ると、バタンッと勢いよくドアが閉められる。
「出して」
ともすれば命令のようにも聞こえる真奈の言葉に、運転席の男は返事も返答もせずに車を走らせ始めた。
街から離れ、数十分。郊外の方へ向かって走っている車の車内は静寂に包まれていた。真奈は微笑を携えたまま、出発時の膝上に手を置いて座った姿勢を一才崩していない。ベムの言葉が正しければ真奈は現在洗脳状態になっている。表面上は穏やかだが、本質的にはまるで別物だ。その事実に、志穂は唇を噛み締め、拳を強く握る。その瞬間、フッと車内が薄暗くなり、思わず志穂が周囲を見渡す。どうやら竹林の中を走っているようだった。狭い道に暗い道路。より閉鎖的な方へ連れて行かれていることが目視でも理解できる範囲まで来たことにより、さらなる緊張が志穂の身体を走り、神妙な面持ちで俯くと、駅でベムとしていた会話を思い返す。
『今この街全体が奴の支配下にある。街の人間は全員奴による洗脳状態だと思っていい』
『な……何で……』
『恐らく、私達がここを離れているときに行ったのだろうな。帰ってきた貴様と私を逃がさないように』
『……ごめん……あたしが行きたいなんて言ったせいで……』
『いや、私の油断と判断ミスが招いた結果だ。貴様に責任はない』
弱々しく謝罪する志穂にベムは忽然と言い放つ。
『で、でもどうするの? 街全体が洗脳されてるってことは……その……全員で襲いかかってくるとか……』
『それはないな。頭数を揃えても意味はないと向こうも理解している。それに、ここまで短期間で大規模な洗脳ならば複雑な行動を取らせられるのは極一部だけだ』
『じゃあどうして……』
『私達、特に志穂。お前を逃がさん為だろうな。その証拠に、私達は今孤立無縁の状態だ』
冷静に言い放つベムに志穂は顔を俯かせる。
『……じゃあそいつの想定通りにしか動けないの? あたし達は』
『……別の選択肢も取れなくもないが、それでは振り出しだ。奴はまた潜むだろう。むしろ、今の状況は私達にとっても好都合かもしれん』
『……好都合って?』
『奴の目的は超念石の確保と私の排除。そして、それは手駒を仕掛けるだけでは不可能、自分の陣地に引き込み、自らが手を下す必要があると判断した筈だ。そして、超念石を持っている間、お前は決して殺されることはない』
『つまり……?』
『貴様なら奴の懐へ容易に入り込める』
『!』
『志穂。私も奴を仕留める準備を整えたい。その間の時間稼ぎを別行動のお前にしてほしい。できるか?』
一方的な命令や指示ではなく、協力を申し出るベムに志穂は俯かせていた顔を上げ、数秒沈黙した後、口を開く。
『わかった……。やるよ……あたし……』
『頼んだぞ』
了承の言葉に、ベムは志穂に背を向け歩き出す。しかし、数メートル程歩いたところで立ち止まり、振り返る。
『……志穂。最後に1つ言っておきたいことがある』
少しだけいつもと声色の違うベムに志穂が僅かな違和感を覚えた次の瞬間、ベムが話を始めた――。
「もうすぐ着くよ」
真奈がそう言うと、トンネルの出口のように小さな光が差し込んでいるのが見える。光は徐々に大きくなりやがて志穂達包むほどになった。竹林を抜けたのだ。
光と共に現れた光景は街だった。広い道路の両脇にいくつもある中層のビル。住宅のような物は見えず人の気配はまるでない、表面上のぼんやりとしたイメージをなぞったような、ハリボテ染みた空虚な街。最奥には沿道のビルをそのまま大きくした高層ビルが建っていた。志穂を乗せた車は、その高層ビルに向かって走っていた。
「着いた」
真奈の言葉と同時に車が止まり、降りるように促される。志穂が降りるとほぼ同時に、運転手の男が持っていた花束を回収する。だだっ広い駐車場に車が1台、人間は運転手の男に志穂と真奈の3人だけ。
「行こう!」
笑って志穂の手を取り、そのまま2人、ビルの中へと入っていった。
ビルの中は無人でシンと静まり返り、街と同様に人の気配が感じられない。そんな中を迷いなく進む真奈とそれに引っ張られる志穂。やがてエレベーターの前につくと、また迷いなくコントロールパネルを操作する真奈。数秒待ってエレベーターが着くと、2人で乗り込む。
エレベーター内の密室空間で笑みを浮かべたまま無言の真奈と俯く志穂。
「……真奈」
「ん? どうしたの?」
呟くような志穂の声に真奈が笑顔で振り返る。彼女の反応に志穂が顔を顰める。
「あたし……これから会う人のこと……好きになれないと思う……」
「なんで?」
「真奈を……利用したから……」
志穂がそう言うと、エレベーターの中に再びの静寂が訪れる。数秒間、時が止まったかと錯覚するほど空間内の全てが止まっていた。その静止を破ったのは真奈だった。
「そ。まあとりあえず会ってみなよ。話してみたら考え変わるかもよ」
あっけらかんと真奈がそう言うと、エレベーターの扉が開く。そしてそのまま志穂の手を取りエレベーターを出るのだった。
「あ、来た来た。やっほー志穂。待ってたよ」
出口付近でひらひらと手を振るのは志穂の友人、小清水真奈。彼女のその行動に、志穂はキュッと唇を噛み締め、俯く。数秒して、意を決したように彼女の元へ歩み寄る。
「よし、行こっか」
真奈は志穂の一連の行動に何のリアクションもせず、変わらぬ笑顔を浮かべたまま志穂の手を取り駅を出ると白色の光が飛び込んできて思わず目を細める。その瞬間だった。割れんばかりの喝采が、志穂の鼓膜を揺らし始めた。
突然の出来事に肩を震わせ、周囲を見渡す志穂。道を作るかのように平行で並んだ老若男女。皆、穏やかな笑顔を浮かべ手を叩き、志穂と真奈の方向へ顔を向けている。異様な光景に、志穂はキョロキョロと落ち着きなく視線を動かすが真奈は落ち着き払った態度で志穂へ振り返り、ニコリと笑って手を引き歩き出す。
拍手の雨に打たれながら笑顔の橋を渡る志穂と真奈。橋の先にあったのは白い車。色こそ違うが、以前志穂が誘拐された時と同じ車種だ。車の存在を確認した志穂は目線を空へと向ける。すると、太陽より地上に近い雲の下、長方形の発光体が街の中心部で眩い光を放っていた。
「畑野さん」
列の左側から聞き覚えのある声が耳に響き、視線を落とす。そこにはバイト先の同僚である稲田美咲がいた。澄んだ瞳に笑顔を浮かべ、手には白一色の花束を持っている。
「おめでとうございます」
そう言って差し出された花束を志穂は恐る恐る手に取ると、真奈が柔和な笑みを浮かべる。
「乗って乗って」
真奈に促されるまま車へ乗る志穂。彼女の後を追うように真奈も車に乗ると、バタンッと勢いよくドアが閉められる。
「出して」
ともすれば命令のようにも聞こえる真奈の言葉に、運転席の男は返事も返答もせずに車を走らせ始めた。
街から離れ、数十分。郊外の方へ向かって走っている車の車内は静寂に包まれていた。真奈は微笑を携えたまま、出発時の膝上に手を置いて座った姿勢を一才崩していない。ベムの言葉が正しければ真奈は現在洗脳状態になっている。表面上は穏やかだが、本質的にはまるで別物だ。その事実に、志穂は唇を噛み締め、拳を強く握る。その瞬間、フッと車内が薄暗くなり、思わず志穂が周囲を見渡す。どうやら竹林の中を走っているようだった。狭い道に暗い道路。より閉鎖的な方へ連れて行かれていることが目視でも理解できる範囲まで来たことにより、さらなる緊張が志穂の身体を走り、神妙な面持ちで俯くと、駅でベムとしていた会話を思い返す。
『今この街全体が奴の支配下にある。街の人間は全員奴による洗脳状態だと思っていい』
『な……何で……』
『恐らく、私達がここを離れているときに行ったのだろうな。帰ってきた貴様と私を逃がさないように』
『……ごめん……あたしが行きたいなんて言ったせいで……』
『いや、私の油断と判断ミスが招いた結果だ。貴様に責任はない』
弱々しく謝罪する志穂にベムは忽然と言い放つ。
『で、でもどうするの? 街全体が洗脳されてるってことは……その……全員で襲いかかってくるとか……』
『それはないな。頭数を揃えても意味はないと向こうも理解している。それに、ここまで短期間で大規模な洗脳ならば複雑な行動を取らせられるのは極一部だけだ』
『じゃあどうして……』
『私達、特に志穂。お前を逃がさん為だろうな。その証拠に、私達は今孤立無縁の状態だ』
冷静に言い放つベムに志穂は顔を俯かせる。
『……じゃあそいつの想定通りにしか動けないの? あたし達は』
『……別の選択肢も取れなくもないが、それでは振り出しだ。奴はまた潜むだろう。むしろ、今の状況は私達にとっても好都合かもしれん』
『……好都合って?』
『奴の目的は超念石の確保と私の排除。そして、それは手駒を仕掛けるだけでは不可能、自分の陣地に引き込み、自らが手を下す必要があると判断した筈だ。そして、超念石を持っている間、お前は決して殺されることはない』
『つまり……?』
『貴様なら奴の懐へ容易に入り込める』
『!』
『志穂。私も奴を仕留める準備を整えたい。その間の時間稼ぎを別行動のお前にしてほしい。できるか?』
一方的な命令や指示ではなく、協力を申し出るベムに志穂は俯かせていた顔を上げ、数秒沈黙した後、口を開く。
『わかった……。やるよ……あたし……』
『頼んだぞ』
了承の言葉に、ベムは志穂に背を向け歩き出す。しかし、数メートル程歩いたところで立ち止まり、振り返る。
『……志穂。最後に1つ言っておきたいことがある』
少しだけいつもと声色の違うベムに志穂が僅かな違和感を覚えた次の瞬間、ベムが話を始めた――。
「もうすぐ着くよ」
真奈がそう言うと、トンネルの出口のように小さな光が差し込んでいるのが見える。光は徐々に大きくなりやがて志穂達包むほどになった。竹林を抜けたのだ。
光と共に現れた光景は街だった。広い道路の両脇にいくつもある中層のビル。住宅のような物は見えず人の気配はまるでない、表面上のぼんやりとしたイメージをなぞったような、ハリボテ染みた空虚な街。最奥には沿道のビルをそのまま大きくした高層ビルが建っていた。志穂を乗せた車は、その高層ビルに向かって走っていた。
「着いた」
真奈の言葉と同時に車が止まり、降りるように促される。志穂が降りるとほぼ同時に、運転手の男が持っていた花束を回収する。だだっ広い駐車場に車が1台、人間は運転手の男に志穂と真奈の3人だけ。
「行こう!」
笑って志穂の手を取り、そのまま2人、ビルの中へと入っていった。
ビルの中は無人でシンと静まり返り、街と同様に人の気配が感じられない。そんな中を迷いなく進む真奈とそれに引っ張られる志穂。やがてエレベーターの前につくと、また迷いなくコントロールパネルを操作する真奈。数秒待ってエレベーターが着くと、2人で乗り込む。
エレベーター内の密室空間で笑みを浮かべたまま無言の真奈と俯く志穂。
「……真奈」
「ん? どうしたの?」
呟くような志穂の声に真奈が笑顔で振り返る。彼女の反応に志穂が顔を顰める。
「あたし……これから会う人のこと……好きになれないと思う……」
「なんで?」
「真奈を……利用したから……」
志穂がそう言うと、エレベーターの中に再びの静寂が訪れる。数秒間、時が止まったかと錯覚するほど空間内の全てが止まっていた。その静止を破ったのは真奈だった。
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