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追いかけるんじゃなくて、追い越せるように
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――そして今へ――
すると、イエナはふと手に石を取り、座ったまま河にに水切りをおこなった。
小さな石は、ピチャピチャと2回ほどはね、川の底へと沈んでいく。その石をただただ見つめるイエナに対し、サンは言葉を述べる。
「でも、俺が殺したんじゃない。殺したのはファル先生だよ。俺は、フォンを殺すことが出来なかった」
「おいおい俺はなんて言ったよ。ボスは、獲物に殺されたかったんじゃなくて、打ち倒されたかったんだ。お前は間違いなくそれを果たしたよ。あと、もしやと思ったんだが、自分の炎でボスを助けなかったこと後悔してるわけじゃねえよな」
「…………」
彼の言葉を受けて、サンは思わず黙った。
イエナは、そんな彼に対して、呆れたように言葉を述べる。
「馬鹿だなぁお前。ふざけるのも大概にしろよ。ボスは、筋金入りの狩人だ。それなのにターゲットに命を救われるヤツがどこにいるよ。つくづくお前の炎が切れていて良かったと思うぜ。ボスが自分の決めた死に場所で死ぬことが出来て良かったよ」
「うん、ありがとう、イエナ」
「お前のためなんて1ミリも思ってねえよ。売り飛ばすぞ」
心底不快そうな顔をして、イエナは、サンにそう言った。おそらく彼には、本当にサンの気を遣ったつもりなどないのだろう。しかし、その言葉は、サンの心を少しだけ軽くした。
「イエナはさ。これからどうするつもりなんだよ」
唐突にサンは、イエナに対してそう尋ねる。特に意味などない。ただフォンが残していった彼らがこれからどんな風に生きていくつもりなのか、気になったからだ。
「そうだなぁ。しばらくはここに世話になるつもりだよ。あのファルって獣人、いやフォレスの奴らみんなか。あいつら全員怖いくらい親切なんだな。こんなならず者の道を外れた俺たちにここまで親切にしてくれる。正直俺は裏がありそうですぐにでも出たいんだけどな。ピグルとアラシはまだファルから学ばなきゃいけない教養が沢山ある。だから残るさ。ボスの遺言だしな」
「そっか」
相変わらず、自分たちを狙った悪党とは思えない発言である。サンは思った。しばらく、イエナ、アラシ、ピグルと過ごして思ったことは、3人とも本当にいいヤツらだということだ。
ピグルは話してて楽しいし、アラシは本が好きなところが話が合うし、イエナはまだまだ口も態度も悪いけど、本当に面倒見が良くて、誰かさんそっくりだ。
きっと自分たちは、出会い方を間違えさえしなければ、幼少期から友達として過ごしていたのだろう。生まれた場所と環境にささいな違いがあった、それだけなのだ。
「それにお前の親友のリベンジマッチも設けてやらねえとな」
「ああ、スアロか。今のところ戦績どうなの?」
「ここのところ毎日試合やってるけど負けたことねえよ。いいな、この陽天流って。ファルに教えられてから、変な流派だなと思ってたけど、武器がだいぶ扱いやすくなる。毎日の稽古で、ピグルもだいぶ痩せたしな。あと、スアロのやつ、最近若干、先端恐怖症になってるから、異様に木洩れ日を警戒するくせついてるぞ」
「おたくのところのヤマアラシのせいでな。ほんとにもう寝返り打って部屋を針だらけにするのはやめてくれよ。スアロのために、ケイおばさんが必死で掃除してくれるんだから」
「それがあいつのかわいいとこなんだけどな。最近寝言で毎日スアロに謝ってるんだから許してくれよ。」
「まあ、確かにもう本人も全然気にしてないけど」
「それよりピグルの方が重症だろ。お前んとこのクラウのせいで、あいつもう女子の顔見れないぜ」
「まあ、それは、うん。お気の毒様としか言えないけど」
つまらない軽口を叩き合って、共に川を眺める。こうしてると本当に遠い昔から友人だったみたいだ。まあしかし、きっと彼らが気が合うのも無理ないことなのだろう。そうなんといっても彼らは――。
同じ獣人を好きになり、同じ獣人から、沢山のものを学んだのだから。
「正直俺も、お前にリベンジを挑みたい気分なんだけどな。それはもう、きっと無理なんだろ?」
ふお、イエナはサンに対してそう尋ねる。サンはおどけた様子で言葉を返す。
「あら? バレてた?」
「もう、だいぶみんな勘づいてるぞ。あれだけ外の世界に関する本読み漁っていたら、そりゃあ分かるさ。でも、ファルから許可が降りるかが一番の課題だよな」
「そうなんだよなぁ。まあ、今日直談判してみるよ。話があるとは言ってあるんだ」
「そうか」
するとその言葉と共にイエナは立ち上がった。夕日が彼の顔をオレンジに照らしている。そんな陽光を背に受けて、彼は、サンの目を見据えた。
「俺たちも頑張るからさ。フォンさんの背中を……追いかけるんじゃなくて、追い越せるよう頑張る。それがきっとボスの願いだからな。だからお前も頑張れよ。ボスに勝ったんだ。きっとお前ならなんでもできるさ」
「ああ、ありがとう、イエナ」
夕日を真っ直ぐに受けて、サンも立ち上がる。その夕焼けは、彼の新たなる一歩を祝福してくれているようだった。
すると、イエナはふと手に石を取り、座ったまま河にに水切りをおこなった。
小さな石は、ピチャピチャと2回ほどはね、川の底へと沈んでいく。その石をただただ見つめるイエナに対し、サンは言葉を述べる。
「でも、俺が殺したんじゃない。殺したのはファル先生だよ。俺は、フォンを殺すことが出来なかった」
「おいおい俺はなんて言ったよ。ボスは、獲物に殺されたかったんじゃなくて、打ち倒されたかったんだ。お前は間違いなくそれを果たしたよ。あと、もしやと思ったんだが、自分の炎でボスを助けなかったこと後悔してるわけじゃねえよな」
「…………」
彼の言葉を受けて、サンは思わず黙った。
イエナは、そんな彼に対して、呆れたように言葉を述べる。
「馬鹿だなぁお前。ふざけるのも大概にしろよ。ボスは、筋金入りの狩人だ。それなのにターゲットに命を救われるヤツがどこにいるよ。つくづくお前の炎が切れていて良かったと思うぜ。ボスが自分の決めた死に場所で死ぬことが出来て良かったよ」
「うん、ありがとう、イエナ」
「お前のためなんて1ミリも思ってねえよ。売り飛ばすぞ」
心底不快そうな顔をして、イエナは、サンにそう言った。おそらく彼には、本当にサンの気を遣ったつもりなどないのだろう。しかし、その言葉は、サンの心を少しだけ軽くした。
「イエナはさ。これからどうするつもりなんだよ」
唐突にサンは、イエナに対してそう尋ねる。特に意味などない。ただフォンが残していった彼らがこれからどんな風に生きていくつもりなのか、気になったからだ。
「そうだなぁ。しばらくはここに世話になるつもりだよ。あのファルって獣人、いやフォレスの奴らみんなか。あいつら全員怖いくらい親切なんだな。こんなならず者の道を外れた俺たちにここまで親切にしてくれる。正直俺は裏がありそうですぐにでも出たいんだけどな。ピグルとアラシはまだファルから学ばなきゃいけない教養が沢山ある。だから残るさ。ボスの遺言だしな」
「そっか」
相変わらず、自分たちを狙った悪党とは思えない発言である。サンは思った。しばらく、イエナ、アラシ、ピグルと過ごして思ったことは、3人とも本当にいいヤツらだということだ。
ピグルは話してて楽しいし、アラシは本が好きなところが話が合うし、イエナはまだまだ口も態度も悪いけど、本当に面倒見が良くて、誰かさんそっくりだ。
きっと自分たちは、出会い方を間違えさえしなければ、幼少期から友達として過ごしていたのだろう。生まれた場所と環境にささいな違いがあった、それだけなのだ。
「それにお前の親友のリベンジマッチも設けてやらねえとな」
「ああ、スアロか。今のところ戦績どうなの?」
「ここのところ毎日試合やってるけど負けたことねえよ。いいな、この陽天流って。ファルに教えられてから、変な流派だなと思ってたけど、武器がだいぶ扱いやすくなる。毎日の稽古で、ピグルもだいぶ痩せたしな。あと、スアロのやつ、最近若干、先端恐怖症になってるから、異様に木洩れ日を警戒するくせついてるぞ」
「おたくのところのヤマアラシのせいでな。ほんとにもう寝返り打って部屋を針だらけにするのはやめてくれよ。スアロのために、ケイおばさんが必死で掃除してくれるんだから」
「それがあいつのかわいいとこなんだけどな。最近寝言で毎日スアロに謝ってるんだから許してくれよ。」
「まあ、確かにもう本人も全然気にしてないけど」
「それよりピグルの方が重症だろ。お前んとこのクラウのせいで、あいつもう女子の顔見れないぜ」
「まあ、それは、うん。お気の毒様としか言えないけど」
つまらない軽口を叩き合って、共に川を眺める。こうしてると本当に遠い昔から友人だったみたいだ。まあしかし、きっと彼らが気が合うのも無理ないことなのだろう。そうなんといっても彼らは――。
同じ獣人を好きになり、同じ獣人から、沢山のものを学んだのだから。
「正直俺も、お前にリベンジを挑みたい気分なんだけどな。それはもう、きっと無理なんだろ?」
ふお、イエナはサンに対してそう尋ねる。サンはおどけた様子で言葉を返す。
「あら? バレてた?」
「もう、だいぶみんな勘づいてるぞ。あれだけ外の世界に関する本読み漁っていたら、そりゃあ分かるさ。でも、ファルから許可が降りるかが一番の課題だよな」
「そうなんだよなぁ。まあ、今日直談判してみるよ。話があるとは言ってあるんだ」
「そうか」
するとその言葉と共にイエナは立ち上がった。夕日が彼の顔をオレンジに照らしている。そんな陽光を背に受けて、彼は、サンの目を見据えた。
「俺たちも頑張るからさ。フォンさんの背中を……追いかけるんじゃなくて、追い越せるよう頑張る。それがきっとボスの願いだからな。だからお前も頑張れよ。ボスに勝ったんだ。きっとお前ならなんでもできるさ」
「ああ、ありがとう、イエナ」
夕日を真っ直ぐに受けて、サンも立ち上がる。その夕焼けは、彼の新たなる一歩を祝福してくれているようだった。
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