23 / 102
いや、一太刀だ。
しおりを挟む
家に帰ると、ケイおばさんが豪華な料理を用意して待っていた。サンは、他のみんなと共にその料理を食べ尽くし、再び外に出る。なぜなら今、道場でファルが待ってくれているからだ。
――もうすぐこのスカイルともお別れか。
サンは道場への道の道中、スカイルで出会った獣人たちに思いを馳せる。4歳から16歳までここで色々な獣人に出会ったが、その誰もが本当にすばらしい獣人たちだった。サンはこのスカイルでの日々を一生忘れることはないだろう。
昔へと思いを馳せながら通る道は、あっという間だった。サンは意を決して道場の扉を開ける。彼は畳の上で静かに座してサンを待っていた。
「ファル先生、きたよ」
「きたか。まあとりあえずそこに座れ」
落ち着いた声でサンに言葉を発するファル。サンは心臓を激しく鼓動させながらも、ファルの目の前に座る。
「で、なんだ? 話っていうのは」
「ファル先生、俺さ――」
サンはそこで言葉を留める。ファルの反応が怖かった。否定されるのが嫌だった。しかし意を決し、サンは自らの言葉を続ける。
「旅に出たいんだ! この国から出て色々なものを見て回りたい」
「なんでそう思った?」
――ねえ、サン……真実を見つけて。
あの子供の声が、サンの脳内で再生される。
「ファル先生、俺さ、真実を知りたいんだ。この世界には 俺が知らないこと、知らなければならないことがたくさんある。だから、俺はこのスカイルから出て旅をしたいんだ」
「ダメだな」
「なんで?」
「だって、サンのことだし、きっとお前はどこまでもその真実とやらを探し出そうとするだろ? そんなの危険すぎる。なあ、サン。お前はまだ16だ。焦る必要なんてない?これからゆっくりフォレスで生きていきながら、自分のやりたいことを見つけていけばいい」
ファルの言葉は予想通りのものだった。この先生ならきっと安全のために自分の考えを反対する。だから、サンは序盤から、彼が持つ最大のカードを切った。
「ファル先生、俺さ、実はほぼ毎日ある夢を見るんだ」
「どんな夢だよ?」
「昔の記憶の夢なのかな? 目の前にさ、真っ赤な髪と翼を持った女の人がいるんだよ。でもその獣人はさ、血塗れで涙を流してるんだ。そして、俺に向かって、目一杯の笑顔を作って、俺にいうんだよ。『太陽みたいな存在に、なってほしいって』なあ、ファル先生。あの女性はさ、俺の母さんなんだろ?」
「……………」
ファルはおし黙った。彼にはどこか伝えるべきことも伝えられなくてもどかしそうにしている様子にも見える。サンは畳み掛ける。
「ずっと我慢してた! でも、俺もう限界だよ! なあ、フォンが言ってた翼も鱗もない何かもさ、俺の夢の中にも出てくるんだ! 神ってなんだよ! 記憶を奪ったってなんだよ! 俺の母さんを殺したのは、一体誰なんだ!! なんでファル先生は、全部知ってるはずなのに、何も教えてくれないんだよ!!!」
どんどんヒートアップし、サンの語気が荒くなる。全部サンの本心だった。フォレスには固い掟がある。それは、この施設に預けられる以前の過去のことは決して触れてはならないという掟。だからこそ、サンはずっと我慢していた。どれほど、自分の母が目の前で死ぬ夢を見たとしても、ファルに自らの過去について、質問しようとはしなかった。
しかし、今回フォンという獣人に出会って、彼の欲求はついに爆発した。
「わかった。刀を握れ、サン」
だが彼は、サンの質問に答える代わりにそう言葉を発した。
「なんだよ、何するつもりなんだよ? ファル先生」
「いいから、早くするんだ、サン。俺も準備する」
すると、ファルが2本の木刀を取り出し、腕を静かに伸ばし、体を垂らした。陽天流の2本使い.、改め、双翼陽天流。陽天流を極めた者に許される、この流派の第二形態。どうやら、本気で自分と打ち合うつもりなのだろうか。
「わかったよ。……サン、ライズ」
サンはそう唱えてペンダントを刀に変える。そして、自らの刀を中段に構え、ファルの方を見据える。
ファルは、そんなサンを見て言葉をこぼす。
「サン。お前の意思はわかったよ。毎晩そんな夢を見てたんだな。知らなかった。ただそれでも俺は、お前が旅に出ることには、反対だ」
「だから、なんだっていうんだよ。旅に出たいなら先生を倒せっていうのか?」
「いや、一太刀だ」
ファルは、2本の刀を構える。左の刀を前に出して構え、右の刀の先をサンに向ける。
「は? 何言ってるんだよ! 一太刀なんてほぼ刀を当てるだけじゃないか。言っておくけど、俺はもう今までのへっぽこ剣士じゃないんだぞ!」
「はっ、スアロとクラウを助け、フォンを倒したからって英雄気取りか。自惚れるなよ、サン! この世界にはな、フォンより強いやつなんてのはゴロゴロいる。お前が思ってるより、この世界は何万倍も広いんだぞ!」
「そんなことは分かってるさ! でも決めたんだ! 俺は! いいさ、一太刀だな! 後で条件変えようとしても受け付けないからな、ファル先生!」
「ああ、全力でこい、サン! お前がこのフォレスで得たもの、俺に全部見せてみろ!」
そして両者は、全く同じタイミングで地面を蹴り、互いに斬りかかった。
――もうすぐこのスカイルともお別れか。
サンは道場への道の道中、スカイルで出会った獣人たちに思いを馳せる。4歳から16歳までここで色々な獣人に出会ったが、その誰もが本当にすばらしい獣人たちだった。サンはこのスカイルでの日々を一生忘れることはないだろう。
昔へと思いを馳せながら通る道は、あっという間だった。サンは意を決して道場の扉を開ける。彼は畳の上で静かに座してサンを待っていた。
「ファル先生、きたよ」
「きたか。まあとりあえずそこに座れ」
落ち着いた声でサンに言葉を発するファル。サンは心臓を激しく鼓動させながらも、ファルの目の前に座る。
「で、なんだ? 話っていうのは」
「ファル先生、俺さ――」
サンはそこで言葉を留める。ファルの反応が怖かった。否定されるのが嫌だった。しかし意を決し、サンは自らの言葉を続ける。
「旅に出たいんだ! この国から出て色々なものを見て回りたい」
「なんでそう思った?」
――ねえ、サン……真実を見つけて。
あの子供の声が、サンの脳内で再生される。
「ファル先生、俺さ、真実を知りたいんだ。この世界には 俺が知らないこと、知らなければならないことがたくさんある。だから、俺はこのスカイルから出て旅をしたいんだ」
「ダメだな」
「なんで?」
「だって、サンのことだし、きっとお前はどこまでもその真実とやらを探し出そうとするだろ? そんなの危険すぎる。なあ、サン。お前はまだ16だ。焦る必要なんてない?これからゆっくりフォレスで生きていきながら、自分のやりたいことを見つけていけばいい」
ファルの言葉は予想通りのものだった。この先生ならきっと安全のために自分の考えを反対する。だから、サンは序盤から、彼が持つ最大のカードを切った。
「ファル先生、俺さ、実はほぼ毎日ある夢を見るんだ」
「どんな夢だよ?」
「昔の記憶の夢なのかな? 目の前にさ、真っ赤な髪と翼を持った女の人がいるんだよ。でもその獣人はさ、血塗れで涙を流してるんだ。そして、俺に向かって、目一杯の笑顔を作って、俺にいうんだよ。『太陽みたいな存在に、なってほしいって』なあ、ファル先生。あの女性はさ、俺の母さんなんだろ?」
「……………」
ファルはおし黙った。彼にはどこか伝えるべきことも伝えられなくてもどかしそうにしている様子にも見える。サンは畳み掛ける。
「ずっと我慢してた! でも、俺もう限界だよ! なあ、フォンが言ってた翼も鱗もない何かもさ、俺の夢の中にも出てくるんだ! 神ってなんだよ! 記憶を奪ったってなんだよ! 俺の母さんを殺したのは、一体誰なんだ!! なんでファル先生は、全部知ってるはずなのに、何も教えてくれないんだよ!!!」
どんどんヒートアップし、サンの語気が荒くなる。全部サンの本心だった。フォレスには固い掟がある。それは、この施設に預けられる以前の過去のことは決して触れてはならないという掟。だからこそ、サンはずっと我慢していた。どれほど、自分の母が目の前で死ぬ夢を見たとしても、ファルに自らの過去について、質問しようとはしなかった。
しかし、今回フォンという獣人に出会って、彼の欲求はついに爆発した。
「わかった。刀を握れ、サン」
だが彼は、サンの質問に答える代わりにそう言葉を発した。
「なんだよ、何するつもりなんだよ? ファル先生」
「いいから、早くするんだ、サン。俺も準備する」
すると、ファルが2本の木刀を取り出し、腕を静かに伸ばし、体を垂らした。陽天流の2本使い.、改め、双翼陽天流。陽天流を極めた者に許される、この流派の第二形態。どうやら、本気で自分と打ち合うつもりなのだろうか。
「わかったよ。……サン、ライズ」
サンはそう唱えてペンダントを刀に変える。そして、自らの刀を中段に構え、ファルの方を見据える。
ファルは、そんなサンを見て言葉をこぼす。
「サン。お前の意思はわかったよ。毎晩そんな夢を見てたんだな。知らなかった。ただそれでも俺は、お前が旅に出ることには、反対だ」
「だから、なんだっていうんだよ。旅に出たいなら先生を倒せっていうのか?」
「いや、一太刀だ」
ファルは、2本の刀を構える。左の刀を前に出して構え、右の刀の先をサンに向ける。
「は? 何言ってるんだよ! 一太刀なんてほぼ刀を当てるだけじゃないか。言っておくけど、俺はもう今までのへっぽこ剣士じゃないんだぞ!」
「はっ、スアロとクラウを助け、フォンを倒したからって英雄気取りか。自惚れるなよ、サン! この世界にはな、フォンより強いやつなんてのはゴロゴロいる。お前が思ってるより、この世界は何万倍も広いんだぞ!」
「そんなことは分かってるさ! でも決めたんだ! 俺は! いいさ、一太刀だな! 後で条件変えようとしても受け付けないからな、ファル先生!」
「ああ、全力でこい、サン! お前がこのフォレスで得たもの、俺に全部見せてみろ!」
そして両者は、全く同じタイミングで地面を蹴り、互いに斬りかかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる