プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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ひたすらにさ、刀を振ったんだよ

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――過去――

 これはまだ、サンやスアロが陽天流を習い始めた頃の話だ。

「なんだよサン、またそんなところにいたのか? 風邪ひくぞ」

 ファルは、道場の裏口で一人うずくまっている愛弟子、サンにそう声をかけた。サンがまだ幼いころ、スアロとクラウを先に返し、彼はいつもこうして自らを追い詰めていた。

「……いい、じゃんか、ファル先生……一人にさせてくれよ……ちくしょう」
「あいにく、俺は無駄に目が良くてな。こんな風になってる弟子がいたらほっとけないんだよ。なんだよ、サン。また泣いてるのか?」

 サンは、ビショビショに袖を濡らし、目を真っ赤にして、ファルに答える。

「……だって、全然教えられたことができないんだ。スアロは一照型をすぐマスターしたしクラウも簡単に刀を振れるようになったのにさ。俺は、まだしっかり木刀を振ることもできない。なんで、俺、こんなに何もできないんだろ?」

 彼に対して、獣の力が目覚めてないからだとは、ファルは決して言えなかった。なぜならファル自身、彼に自分の力を取り戻して欲しくないと思っていたからだ。

 だからファルは、サンに対し、ただ純粋に慰めの言葉をかけることを選んだ。

「大丈夫だよ。まだ始めたばかりだろ? これから上手くなるさ。一生懸命やってれば、必ず結果はついてくるんだ」
「でも、でも――」
「なんだよ、どうしたんだ?」
「俺は早く、目に見える物全部守れるくらい強くなりたい」
「――そうか」

 そう、サンは、この頃から自分以外の全てのものを守りたいと口にするようになった。なんで、彼がそう思うようになったのかはわからない。時折うなされて起きてくるから、もしかしたら、自分の過去のことを夢に見てるのかもしれない。

 ただファルは、サンがこの言葉を発する旅に、一昔前、自分がよく聞いていた彼女の口癖を思い出していた。

 ――私はさ。目に映る物全て、照らしてやるんだ。

 おそらく最も自分の人生の中で付き合いの長い幼馴染であり、自分の最愛の獣人。アサヒの口癖。サンの言葉を聞くたびに、いつもファルの脳裏には、彼女の口癖が聞こえていた。やはりサンはあいつの息子なんだな。それを実感するたびに、ファルは、胸を締め付けられるような思いに駆られる。

 ファルは、目の前のうずくまっている愛弟子がどうしようもないくらい可愛く見えて、本来違う存在なのに、ふと父親のように昔話を彼に始める。本来過去の事をフォレスでは話してはならないが、今回ばかりは特別だった。

「――実はな、サン。俺もさ、剣術を始めた時、全然幼馴染に勝てなかったんだよ」
「え! そうなの? あのファル先生が?」

 サンは、涙を引っ込めて目を見開き、ファルの言葉に関心を示す。ファルは、そんなサンに対して微笑み、言葉を続ける。

「ああ、そうだよ。あいつは女だったんだけどな。本当にセンスが抜群でさ。全く始めた当時の俺は歯が立たなかったんだ。カッコ悪い話だけどな」
「それで、どうしたの? 先生は負けたままだったの?」

 不安そうな目をして、サンはファルにそう尋ねる。そうだよな、サンにとって心配なのは、そこだよな。ファルは、サンの頭にポンと手を置き、言葉を吐き出す。

「ひたすらにさ。刀を振ったんだよ。本当に馬鹿みたいに振ったんだ。強くなるために必死でさ。結局そいつには勝てなかったけれど、でも肩を並べるところまでは行ったんだ」
「そうだったんだ」

サンは、目を輝かせて、そう相槌を打った。そして彼は、夜空を見上げ、ファルに向かって言葉を発する。

「じゃあさ、ファル先生。俺も馬鹿みたいに刀を振ってみるよ。昔のファル先生、いや、それを超えるくらい、必死になって練習する。そして、陽天流全部の型をかっこよく使いこなすんだ。いつか絶対にファル先生にも見せるから、待っててね」

 無邪気に木刀を掲げて、そう宣言するサン。その姿は、まだ子供だった頃の何も知らない自分を見ているようで、ファルは、心が締め付けられるよつな感覚を覚える。

「――ああ、楽しみにしてるよ」

 ファルはもう一度、サンの頭をくしゃくしゃと撫でた。サンは笑顔を見せながらも『やめてよぉ』と子ども扱いされるのを嫌がっていた。

 そしてそれからサンは、本当に今の今まで毎日欠かすことなく、刀を振り続けたのだった。
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