プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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お前はさ、めちゃくちゃ頑張ったよ

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 ――現在――

 勢いよく衝突する両者の刀。ファルは、右の刀とサンの刀をかち合わせた後に左を振るい、サンを狙う。サンは、すかさず右の刀を弾き左の刀を受ける。ファルに何度か見せてもらったことはあれど、まだ慣れていない二刀流にサンは苦しめられていた。

「シィィィッッッ」

 右、左と次々刀を振るいサンを追い詰めるファル。サンは、必死でファルの攻撃を受け流しながらも、刀を構え反撃に出る。

「陽天流一照型、木洩れ日!」

自分が出せる最速の速さで、突きを繰り出す。

――カキィィィン。

 しかし、ファルの左の刀によって、突きは真下に弾かれる。本来両手持ちは、一刀に避ける力が少なく、相手の両手での剣戟を弾くことなど不可能に近い。しかし、ファルは、鳥類最速からなる脅威的な動体視力による刀のぶつかる角度調整によってそれを可能にした。

「ちくしょぉ、やっぱりダメか!」

 サンはほぼ無意識にそう口ずさむ。そんな戦いの最中、ファルは彼の成長に思いを馳せる。
――いや、理想的な速度だったよ。

 ファルの脳裏に、昔のサンの姿が浮かぶ。剣術を始めたばかりの彼は、今ほど素早く自らの体を付きの体勢に切り替えることができていなかった。

 サンは、自らの近接攻撃が通じないとわかると、彼は大きく距離をとった。そして、フォンにも行った連続攻撃をファルにも向けて打ち出す。

「陽天流五照型、飛炎・白夜!」

 刀に炎を灯し、虚に向かって力強く刀を振り切るサン。幾多もの斬撃が、ファルに向けて襲いかかる。
――多いな。それほど素早く、刀を振れている証拠だ。

 再び、サンの脳裏に、サンの姿が浮かんだ。五照型を教えた時、彼は筋力が足りず、刀の連撃そのものができるような体じゃなかった。

 ファルはその斬撃の数に驚きながらも、一つ一つ軌道を見切って弾き落とし、ファルの元へ突撃する。
サンは、ファルの攻撃を受けながらも、戦いの最中、必死で自分の持てる力全てを出し切る。

「陽天流四照型、旭日!」

――うん、ちゃんと、相手が振り切る前に相手の武器を打ち上げることができてる。

「陽天流二照型、洛陽!」

――いい角度だ、並みの攻撃なら簡単に捌き切ることができるだろう。

「陽天流三照型、日輪!」

 ――身のこなしが素早いな。俺の目じゃなければ、完全に虚はつけている。

『相手の攻撃を見て、それに合わせて攻撃するなんて無理だよ!』

 ファルは、かつてのサンの言葉を思い出す。そうだ、サンは、特にこの三つの照型が得意じゃなかった。鳥の目を持ち合わせていないから無理もないことだが、今じゃすっかりそのつを使いこなすことができている。

 サンの師であるファルは分かっていた。今戦っているサンがフェニックスの力を得ていることを。そしてそれに伴い、陽天流を使いこなすにのに十分な身体能力を獲得したということを。しかし、そうだとしても、しっかりと戦い方をイメージして型の修練を積まなければ、ここまで急には自分の力を使いこなすことなどできない。

 ――アサヒ、見てるか。お前の息子は、こんなにも強くなったぞ。

 思わず出てきそうになる涙を堪え、ファルは攻撃に転じる。

 左の刀でサンの日輪を斜めに払い、ほぼ同時に、右の刀を斜めに一閃して敵を穿つ。

 夜の闇を照らす十字の光。

「双翼陽天流二照型、洛陽十字!」

 サンの肩にファルの刀が、鈍い音を立てて激しくぶつかる。みしり、と嫌な音がサンの耳に届く。骨にヒビでも入ったのだろうか。

 追撃を避けるために、サンは大きく退き体勢を整える。真っ赤な炎が、彼の肩を覆い、彼が受けた傷を修復する。

 ファルはそんな彼を眺めて、かつてのアサヒを思い出す。どれほど強大な敵と遭遇し、どれほどの攻撃を受けたとしても、簡単に立ち上がり、またそんな敵に挑んでいく姿。そうだ、自分は、そんな彼女にこれ以上無理をさせないために必死で強くなったのだ。

「できればお前にはその力に頼らずに強くなって欲しかったよ。でもみんなを守るために仕方なかったんだろうな」
「なんだよ? 先生。それってどういう意味だよ!?」
「そのままの意味だよ。サン。本来な、体に受けた傷は簡単に治っちゃいけないんだ。本来は治るまでゆっくり時間をかけて、体を休ませなくちゃならないんだよ」

 そしてファルは再び、力強く斬りかかる。そして彼は言葉を続ける。

「なぁサン。お前がさ、本当に真実を見つけたいだけなら、俺はお前の旅を止めたりはしないんだ」
「じゃあなんでダメなんだよ!」

激しく武器と武器がぶつかる。サンが力強く振り下ろした一撃を、ファルは両手で受け止める。

「お前、神に勝負を挑む気だろ」

 ファルは、刀越しからサンを睨みつけ、そう言葉を発する。

「・・・・・・・・・・」

 サンは何も言葉を返すことができない。

 やはりそうだったか、ファルは心の中で大きくため息を吐いた。12年もの付き合いだ。それに加えて、彼の性格は、自分が長い間旅をしていきたアサヒの性格に酷似している。だからサンの考えていることなど手にとるようにわかる。彼は、フォンのような獣人を一人でもなくすために、その元凶を断つ気でいる。

「なあ、サン。別に意地悪しているわけじゃないんだ。お前にこれから先も元気に生きて欲しいだけなんだよ。お前はどう思ってるか知らないけどな。俺にとってお前は……決して簡単に失いたくない、大切な存在なんだ……」

 ファルの言葉を聞くと、サンは再び大きく下がり、刀を下ろした。そして彼は、ほんの少し笑みを浮かべながら、ファルに向かって言葉をこぼす。

「わかってるよ。ちゃんと伝わってる。先生がさ、俺たちに対してそう思ってくれてることぐらい」

 すると、サンの刀を激しい炎が包んだ。それでもまだ戦う気なんだな。ファルは、2本の刀を備え、どんな攻撃が来ても対応できるような構えを取る。

「それでもまだ辞める気はないんだな」
「ああ。ファル先生が俺のことを大切にしてくれるようにさ、俺にとってもフォレスのみんなが大事なんだ。こんなこと言ったら怒るかもだけど、自分の命だって惜しくないくらい大切なんだ。でも今日思った」
「思った? 何をだ?」
「きっとさ、今俺は平和に暮らしてるけど、それは仮の姿なんだろ? きっとこの外の世界には争いが沢山あって、それを知らない俺たちは、外からの敵に驚くことしかできないんだ。それじゃダメだよ。今回は運がよかったのかもしれないけど、そんなことじゃきっともっと強いやつがきたら全部奪われる」
「………」

 ファルは押し黙った。この広い世界の知識が足りない者は、外から来た強大な敵に奪われることしかできない。それはファルもかつての旅の中でいくつも見てきた光景だ。

 サンは、炎が燃え上がる刀を上段に構えた。そして、言葉を続ける。

「だから俺はさ、この世界の外側にいる神ってやつに会ってみたいんだ。そして、俺たちを傷つける存在ならきっと戦わなきゃいけない。だからこそ、大切なものを奪われないための知識と強さが欲しい。ファル先生、俺はさ。目に映るもの、全てを守りたいんだ」

 炎の勢いが頂点に達する。サンは、力強く自らの想い全てを込めて、真っ赤な炎の斬撃を正面に飛ばす。

「陽天流六照型、太陽照波斬!!」

 全てを飲み込む巨大な炎。ファルはその威力を見て察する。サンがどれほど力強くこの技を放ったのかを。そして、彼がこの技に至るまでにどれほどまでに自らの刀を振ってきたのかを。

 ――なるほどな。お前らしい、六照型だよ。

 ちなみに、ファルはまだその場にいなかったためにサンの六照型を直接見てはいない。

 かつては、一つの型とて放つことのできなかった愛弟子が、今や、これほどまでに強大な威力を有する型を、自らの力だけで生み出している。それに感銘を受け、目から溢れそうになる雫をこらえる。そして、すぐに動けばギリギリ受け流せる技であったのにも関わらず、彼は二つの刀で、その技を受けた。

 ――ギャリギャリギャリギャリィィィィ。

 確かに実体を持った斬撃が、ファルの武器を襲う。

 ――恐ろしい威力だが、受け流せないことはない!

 ファルは、自らの力全てを込め、その斬撃を左後ろへ受け流す。

 しかし、ここで思い出して欲しい。鳥人の筋肉は普通の獣人よりも付きにくい体質である。つまり、フォンが弾くことができなかった斬撃をファルが受け流すことはほぼ不可能なのだ。

 ファルは、その炎の斬撃を受け流した後、サンが自らの刀の間合いまで自分との距離を詰めていることに気づいた。そう、これはサンの策略だったのだ。

 サンはあえて、太陽照波斬の威力を抑えていた。そう、ファルはその大きさに驚いていたようだが、彼がフォンに打った斬撃はもっと巨大である。

 彼は、全力の太陽照波斬を打ったらファルは必ずこの技をかわしてくると思った。だから、あえて、威力を抑えて、弟子の成長を感じたいであろう彼に自らの斬撃を受けさせたのだ。

 ファルのすば抜けた動体視力を一時的に封じるために。

 サンは、体勢を崩したファルに刀を向ける。どの型を放つかは彼の中では決まっていた。それは彼が一番初めに師によって授けられた型。そして、自らの今までの努力を象徴する型。

 ファルは、身を捩ってどうにかその刀をかわそうとする。しかし、分かっていても、気づいていてもかわす前に刀は届いている。それがーー。

「陽天流一照型、木洩れ日!」

 凄まじい勢いを持ってファルへと向かっていく、彼の突き。ファルは、サンのその突きを見切ることはできていたが、サンのその速さは彼の想像をはるかに超えていた。ファルは、刀の正面から体をよじることができたが、サンの刀は彼の腹をわずかにかすめる。

「一太刀でも入れられたら勝ちだったよな、ファル先生」

 サンは、刀を下ろし、ファルの方を見つめる。ファルは観念したように、彼に向かって言葉を発する。

「ああ、そうだな。俺の負けだよ、サン」

 ファルの敗因は、サンの努力を見誤ったこと。サンは、ファルが予想を遥かに超えて、この12年間、ひたすらに強くなる努力をしていたのだ。

「やった。でも、ファル先生、本当に全力を出してたの?」
「まあ、出せる力は全部出したさ。十分お前は強かったよ。次、勝負するときは、五太刀にするか。しかし、あれだなぁ、でももうサンとの手合わせではこの道場は使えないなぁ」
「え?なんで?」

 サンの言葉を受けて、ファルが顎である場所を示す。そこには、サンの攻撃によって道場の壁に大きな穴が空いていた。

「こんな形でお前の成長を実感したくなかったけどな」
「それは、ごめん」
「まあ、でもーー」

 ファルは、サンの頭に手を置いた。それは、サンに安心を与えてくれるいつもの手だった。

「本当に強くなったなぁ、サン。お前は、俺の自慢の弟子だよ」

 彼にその言葉をもらった瞬間、この道場での記憶が、まるでパラパラ漫画のようにサンの頭を駆け巡った。何度この道場で泣いただろう。何度この道場で悔しい思いをしただろう。何度この道場で、自身の才能のなさを呪ったのだろう。何度この道場で、師の期待に応えることのできない自分を、恥じたのだろう。

「おい、どうしたんだよ、サン?」

 ファルがサンに問いかける。サンはファルの質問の意図を汲み取ることができなかった。しかし、その時ポタポタと、彼の脚に雫が滴る。そこで彼は、今、自分がどんな顔をしているのかに気づいた。

 彼が考えるよりも先に、彼の感情が、師への言葉を紡いでいく。

「……俺さ、ずっとずっとさ……覚えが悪くてさ……型なんて何も覚えられなくて……」

「……うん」

「……いつもみんなに励まされてさ……でも……何回刀を振っても……強くなれなくて……スアロには追いつけなくて……」

「……うん」

「……いつも自分のことが嫌いで……でも……心配かけたくないから……平気に振る舞って……毎日刀を振ることしかできなくて」

「……うん、気づいてたよ、お前はすごいよ」

「……だから、だからさ。……俺さ……先生にさ……強くなったって言ってもらえる日が来るなんて……思ってなかったなぁ……」

 その瞬間、激しい衝撃が、サンの体を襲った。しかしもちろん、何か恐ろしい力が彼に急に襲いかかったわけではない。ただファルが彼のことを強く抱きしめただけだ。

「……本当に、本当に……強くなったなぁ。……頑張ったなぁ……サン、お前はさ、めちゃくちゃがんばったよ」
「……なんでさ、ファル先生も泣いてるのさ。……変なの」
「……なんでだろう、……何でだろうなぁ」

 こうして、ファルとサンはしばらくただただ二人で泣き合っていた。それはきっと彼のスカイルでの生活に区切りをつけるために何よりも必要な、師との関りだった。
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