28 / 102
自分が信じられるあんたの強さ
しおりを挟む
ゆっくりと静かに上下する胸。変わらない天井。カーテンの隙間からほんのりと日差しが差し込み、サンは、ゆっくりと起き上がり、そして呟く。
「今日は見なかったな。あの夢」
「あら、今日は早かったじゃないか、サン。まあ、もうご飯はできてるよ」
ケイおばさんに言われて時間を見ると、確かにいつもより1時間早い。きっと気持ちがはやって眠れなかったのだろう。
しかし、これだけ自分が早かったのにも関わず、もう朝食の準備ができているとは、相変わらずケイおばさんの家事能力は流石だ。
「ありがと。みんなは、流石にまだ寝てるの?」
「いや、もうほとんど起きてるよ。全く可愛い奴らだね。あんたが今日出発するって聞いたら、みんな早起きでさ。まあスアロだけは、毎晩の寝不足が祟って寝坊してたけど、今イエナが起こしてくれてるよ」
「そうだったんだ。通りでご飯が早いと思った。あれ? でもみんなは一緒に食べないの?」
「わたしがみんなに頼んだんだよ。サンと二人にしろってね」
「……あっ」
「全く、今まで育ててやったのに、何も言わずに急に今日旅に出るなんて言い出すとはね」
そこではサンは、彼女が自分と二人話す機会を作らなくて、怒っていることを察した。やはり放任主義とは言えど、だめだったか。もちろんサンも彼女のことを忘れていたわけではない。しっかりと朝のうちに、感謝を伝えようとする時間はとろうとしていた。しかし、やっぱり何も言わずいきなり出ていく日そのものを迎えたのは良くなかったか。
「……ごめん、ケイおばさん。ケイおばさん寝るの早いからさ。昨日のうちに伝えることが出来なかったんだ。本当はさ、ちゃんとファル先生に許可もらってからさ、挨拶とかしたかったんだけど、でも、でも俺――」
「わかってるさ。居ても立っても居られないんだろ?」
「うん……」
ケイおばさんは、呆れたようにため息を吐きながら、言葉を続ける。
「大丈夫、ちゃんとわかってるよ。サンがね。私になんの感謝も感じてないわけがないことぐらいね。あんたは、本当にできすぎるほどいい子だったからね。まあだからこそ、いなくなられるのが辛いんだけどさ」
「……おばさん」
サンはケイの言葉一つ一つの暖かさを感じていた。今まで血の繋がりがないのにも関わらず、無償の愛を注いでくれたケイ。そんな彼女の姿はサンにとっていつも眩しかった。
「まあ、なんにせよ、サンがちゃんと悩んで決めたことなら止められないね。ここフォレスはそういう場所だし。それにしても私は、あんたがちゃんと旅に出られるか心配だよ。ちゃんとペンダントはつけてるのかい?」
「うん、持ったよ」
「もしもの時の保存食は?」
「ちゃんと持ってる」
「困った時の少しのお金は?」
「持ってるよ、ファル先生が持たせてくれた」
「あと、これが一番大事だ」
ケイおばさんはそういうと、サンの目を真っ直ぐに見据えた。サンの胸を拳で小突く。
「自分が信じられるあんたの強さは、ちゃんとこの中に持ったかい」
その瞬間、サンの頭の中にケイおばさんとの記憶が、彼女の拳を通じて流れ込んできた。そうだ、そうなんだ、彼女はいつも自分の強さを信じてくれた。サンがどんなに苦しい時も、ケイおばさんは、自分には自分の強さがあると言ってくれた。
サンは、くしゃりと笑って、彼女の質問に答える。
「うん、ちゃんと持ったよ」
「……なら大丈夫だ。サン、あんたは強いよ。それは誰かを倒せるとかそういう強さじゃない。あんたはね、誰かが苦しい時、傷ついた時、すぐに体を動かせる本当の強さを持ってる。この先大変なこともあるだろうけど、その強さがあれば大丈夫だ。行ってきなさい。そして、ちゃんと帰ってきて、私にいっぱい思い出話を聞かせておくれ」
優しく、暖かな微笑みを返すケイおばさん。それは、夢でよく見る母親の笑顔となんら変わることはなかった。母さんと同じく体中が包み込まれるような感覚。きっと彼女は、自分のことを本当の息子のように大事に育ててくれたのだろう。
サンの胸から色々な感情が競り上がってくる。そして、思わず勢いに任せて、涙を流してしまいそうになる。しかし、サンは、それを必死で押し殺した。今、ケイおばさんが必死で笑顔で送ろうとしてくれているのに、自分が今涙を流すわけにはいかない。
「ありがとう、ケイおばさん。俺絶対忘れないから、ケイおばさんの料理の味も、ケイおばさんが俺を叱るときに伝えてくれたたくさんの言葉も、絶対忘れない。あと絶対、色々な話を持ってくるよ」
「嬉しいこと言ってくれるね、そうかい、楽しみにしてるよ」
サンの言葉にまた、優しい言葉を返すケイ。そんな愛情を全身で受け取りながら、サンは、ケイの料理を食べ進める。そこには、先程気づかなかったが、彼が好きな料理ばかりで、サンはそれらの味を決して忘れぬよう、しっかり噛み締めながら、一つ一つ大切に食していくのだった。
「今日は見なかったな。あの夢」
「あら、今日は早かったじゃないか、サン。まあ、もうご飯はできてるよ」
ケイおばさんに言われて時間を見ると、確かにいつもより1時間早い。きっと気持ちがはやって眠れなかったのだろう。
しかし、これだけ自分が早かったのにも関わず、もう朝食の準備ができているとは、相変わらずケイおばさんの家事能力は流石だ。
「ありがと。みんなは、流石にまだ寝てるの?」
「いや、もうほとんど起きてるよ。全く可愛い奴らだね。あんたが今日出発するって聞いたら、みんな早起きでさ。まあスアロだけは、毎晩の寝不足が祟って寝坊してたけど、今イエナが起こしてくれてるよ」
「そうだったんだ。通りでご飯が早いと思った。あれ? でもみんなは一緒に食べないの?」
「わたしがみんなに頼んだんだよ。サンと二人にしろってね」
「……あっ」
「全く、今まで育ててやったのに、何も言わずに急に今日旅に出るなんて言い出すとはね」
そこではサンは、彼女が自分と二人話す機会を作らなくて、怒っていることを察した。やはり放任主義とは言えど、だめだったか。もちろんサンも彼女のことを忘れていたわけではない。しっかりと朝のうちに、感謝を伝えようとする時間はとろうとしていた。しかし、やっぱり何も言わずいきなり出ていく日そのものを迎えたのは良くなかったか。
「……ごめん、ケイおばさん。ケイおばさん寝るの早いからさ。昨日のうちに伝えることが出来なかったんだ。本当はさ、ちゃんとファル先生に許可もらってからさ、挨拶とかしたかったんだけど、でも、でも俺――」
「わかってるさ。居ても立っても居られないんだろ?」
「うん……」
ケイおばさんは、呆れたようにため息を吐きながら、言葉を続ける。
「大丈夫、ちゃんとわかってるよ。サンがね。私になんの感謝も感じてないわけがないことぐらいね。あんたは、本当にできすぎるほどいい子だったからね。まあだからこそ、いなくなられるのが辛いんだけどさ」
「……おばさん」
サンはケイの言葉一つ一つの暖かさを感じていた。今まで血の繋がりがないのにも関わらず、無償の愛を注いでくれたケイ。そんな彼女の姿はサンにとっていつも眩しかった。
「まあ、なんにせよ、サンがちゃんと悩んで決めたことなら止められないね。ここフォレスはそういう場所だし。それにしても私は、あんたがちゃんと旅に出られるか心配だよ。ちゃんとペンダントはつけてるのかい?」
「うん、持ったよ」
「もしもの時の保存食は?」
「ちゃんと持ってる」
「困った時の少しのお金は?」
「持ってるよ、ファル先生が持たせてくれた」
「あと、これが一番大事だ」
ケイおばさんはそういうと、サンの目を真っ直ぐに見据えた。サンの胸を拳で小突く。
「自分が信じられるあんたの強さは、ちゃんとこの中に持ったかい」
その瞬間、サンの頭の中にケイおばさんとの記憶が、彼女の拳を通じて流れ込んできた。そうだ、そうなんだ、彼女はいつも自分の強さを信じてくれた。サンがどんなに苦しい時も、ケイおばさんは、自分には自分の強さがあると言ってくれた。
サンは、くしゃりと笑って、彼女の質問に答える。
「うん、ちゃんと持ったよ」
「……なら大丈夫だ。サン、あんたは強いよ。それは誰かを倒せるとかそういう強さじゃない。あんたはね、誰かが苦しい時、傷ついた時、すぐに体を動かせる本当の強さを持ってる。この先大変なこともあるだろうけど、その強さがあれば大丈夫だ。行ってきなさい。そして、ちゃんと帰ってきて、私にいっぱい思い出話を聞かせておくれ」
優しく、暖かな微笑みを返すケイおばさん。それは、夢でよく見る母親の笑顔となんら変わることはなかった。母さんと同じく体中が包み込まれるような感覚。きっと彼女は、自分のことを本当の息子のように大事に育ててくれたのだろう。
サンの胸から色々な感情が競り上がってくる。そして、思わず勢いに任せて、涙を流してしまいそうになる。しかし、サンは、それを必死で押し殺した。今、ケイおばさんが必死で笑顔で送ろうとしてくれているのに、自分が今涙を流すわけにはいかない。
「ありがとう、ケイおばさん。俺絶対忘れないから、ケイおばさんの料理の味も、ケイおばさんが俺を叱るときに伝えてくれたたくさんの言葉も、絶対忘れない。あと絶対、色々な話を持ってくるよ」
「嬉しいこと言ってくれるね、そうかい、楽しみにしてるよ」
サンの言葉にまた、優しい言葉を返すケイ。そんな愛情を全身で受け取りながら、サンは、ケイの料理を食べ進める。そこには、先程気づかなかったが、彼が好きな料理ばかりで、サンはそれらの味を決して忘れぬよう、しっかり噛み締めながら、一つ一つ大切に食していくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる