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僕がまだ子供だからわからないだけなのかな
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ジャッカルの少年とともに、しばらくカニバル国の中を歩くサンたち。ちなみに道中に聞いた話だと、この少年の名前はジャックというらしい。
賑わいを見せる商店街などあるはずもなく、ただ荒れ果てた大地や木々だけが、存在する荒野。そんな道を進んでいくと、徐々に、視界に入った木々の合間に青が広がっていく。
なにかの池だろうか、そんなことをサンが思っているとジャックが言った。
「あ、きっとさ、にいちゃん。ただの池だと思ってるだろ? でもこの木を抜けるとすごいんだよ?」
そういうとジャックは、一足先に木々の間を抜けて、サンに手招きした。サンもそれに応じて、彼の後をついていく。
「―――うおぉ。すげぇ」
するとサンは、その言葉を発した後、静かに息を呑んだ。目の前に果てなく続いている青い水面。澄んだ水は、寸分の狂いもなく空を写し、煌びやかな太陽の光が、水面からも照りつける。
「すごいだろ? グレイトレイク。ここグランディア最大の湖なんだ! 海でもないのにこんなに広いんだよ! 俺たち、カニバルの自慢の場所なんだ」
「あ、そうか、ここがグレイトレイクか! 綺麗だな」
目の前の湖に見惚れながら、呆然とそう言葉をこぼすサン。グレイトレイク。グランディアに存在する、この国最大の湖。もちろんサンも、地図でその存在自体は知っていた。だが、実際に見てみると、こうも果てなく続いているものだとは思っていなかった。
――あれ、でも。
そんな時、脳内に地図を思い浮かべたサンに、ある疑問がよぎる。
「けれど、グレイトレイクって、確かレプタリア国土にも抱括されてたよな? どこを境に、レプタリアになるんだ?」
そう尋ねると、ジャックの表情が少しずつ曇っていった。ジャックは俯きながらも言葉を発する。
「そう、それが戦争の原因なんだって。グレイトレイクは、グランディアの人にとって欠かせない水を供給してくれるけど、それはレプタリアにとっても同じこと。だから、この湖のセポイコウエキ? を巡って今戦ってるんだって、父さんが言ってた」
おそらく支配領域のことだろう。脳内でジャックの言葉を噛み砕きながらも、サンは、彼に言葉をかける。
「そっか、お父さんは、今も戦ってるのか」
「うん。父さんはね。この戦いに勝ったら今のカニバル国がすごく豊かになるって言ってるんだ。そのために父さんは、毎日毎日、体の傷を増やしてる」
ジャックは、じっと美しく澄んだ湖を見つめる。そして、言葉を続ける。
「でもさ、サンにいちゃん。豊かになることってそんなにいいことなの? 僕はそれが父さんの体よりも大事だとは思えないんだ。それってさ、僕がまだ子供だからわからないだけなのかな?」
小さな拳をぎゅっと握りしめるジャック。サンは、そんな彼を見て、強く胸が締め付けられる。
豊かさが彼の父親の体より大切か、そんな質問に答えることは簡単だ。人の命よりも大切なものがこの世にあるはずがない。
しかし、サンは、そう頭で分かっていても、彼の質問に言葉を返すことができなかった。サンもただ、ジャックと共に湖を見つめることしかできなかった。
「ケロケロケロ。おやおや、のんびりと散歩していたら、こんなところにカニバルのガキがいるとは」
ふと、ねっとりと耳に絡みつくような声が、後方から飛んできた。サンとジャックはそちらの方を振り向く。
するとそこには、ずんぐりと太った1人の獣人と 緑の体で丸い目をした小さな獣人が2人その男をはたむように立っていた。
賑わいを見せる商店街などあるはずもなく、ただ荒れ果てた大地や木々だけが、存在する荒野。そんな道を進んでいくと、徐々に、視界に入った木々の合間に青が広がっていく。
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「あ、きっとさ、にいちゃん。ただの池だと思ってるだろ? でもこの木を抜けるとすごいんだよ?」
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「―――うおぉ。すげぇ」
するとサンは、その言葉を発した後、静かに息を呑んだ。目の前に果てなく続いている青い水面。澄んだ水は、寸分の狂いもなく空を写し、煌びやかな太陽の光が、水面からも照りつける。
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「あ、そうか、ここがグレイトレイクか! 綺麗だな」
目の前の湖に見惚れながら、呆然とそう言葉をこぼすサン。グレイトレイク。グランディアに存在する、この国最大の湖。もちろんサンも、地図でその存在自体は知っていた。だが、実際に見てみると、こうも果てなく続いているものだとは思っていなかった。
――あれ、でも。
そんな時、脳内に地図を思い浮かべたサンに、ある疑問がよぎる。
「けれど、グレイトレイクって、確かレプタリア国土にも抱括されてたよな? どこを境に、レプタリアになるんだ?」
そう尋ねると、ジャックの表情が少しずつ曇っていった。ジャックは俯きながらも言葉を発する。
「そう、それが戦争の原因なんだって。グレイトレイクは、グランディアの人にとって欠かせない水を供給してくれるけど、それはレプタリアにとっても同じこと。だから、この湖のセポイコウエキ? を巡って今戦ってるんだって、父さんが言ってた」
おそらく支配領域のことだろう。脳内でジャックの言葉を噛み砕きながらも、サンは、彼に言葉をかける。
「そっか、お父さんは、今も戦ってるのか」
「うん。父さんはね。この戦いに勝ったら今のカニバル国がすごく豊かになるって言ってるんだ。そのために父さんは、毎日毎日、体の傷を増やしてる」
ジャックは、じっと美しく澄んだ湖を見つめる。そして、言葉を続ける。
「でもさ、サンにいちゃん。豊かになることってそんなにいいことなの? 僕はそれが父さんの体よりも大事だとは思えないんだ。それってさ、僕がまだ子供だからわからないだけなのかな?」
小さな拳をぎゅっと握りしめるジャック。サンは、そんな彼を見て、強く胸が締め付けられる。
豊かさが彼の父親の体より大切か、そんな質問に答えることは簡単だ。人の命よりも大切なものがこの世にあるはずがない。
しかし、サンは、そう頭で分かっていても、彼の質問に言葉を返すことができなかった。サンもただ、ジャックと共に湖を見つめることしかできなかった。
「ケロケロケロ。おやおや、のんびりと散歩していたら、こんなところにカニバルのガキがいるとは」
ふと、ねっとりと耳に絡みつくような声が、後方から飛んできた。サンとジャックはそちらの方を振り向く。
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