プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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もう絶対負ける奴のセリフだけどなあ

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「ケロケロケロ。おやおや、のんびりと散歩していたら、こんなところにカニバルのガキがいるとは」

 ふと、ねっとりと耳に絡みつくような声が、後方から飛んできた。サンとジャックはそちらの方を振り向く。

 するとそこには、ずんぐりと太った1人の獣人と 緑の体で丸い目をした小さな獣人が2人その男をはたむように立っていた。

 緑色の獣人は、真ん中の巨大な獣人に、言葉をかける。

「いや、隊長。僕ら、カニバル軍にボロボロにされて、逃げてきただけですよ」
「体中傷だらけですし、咄嗟に散歩なんて嘘ついてもすぐにバレますよ。隊長」
「うるさいケロ! 相手にバレるまでは強がらせるケロよ! 敵にボロボロに負けて、こんなガキにも舐められたら心のバランスが取れんだろうが! 道に張り付けるぞ!」

 ――なんだこの陽気な奴ら。

 サンが、冷たい目で彼らのことを見ていると、ジャックが震えた声で、サンに呟く。

「泥を被ったような緑色に黒い斑点。父さんから聞いたことがある。レプタリア国カエル部隊隊長、ウシガエルのウガイだ。なんでこんなところに?」

 部隊の隊長格なのか。サンは、少しの驚きを覚え、改めて目の前のウシガエルの獣人を見つめる。 

 なるほど、言われてみれば確かに強者のオーラが漂っている。それに、脇にいるおそらくアマガエルと思われる小さな獣人も、決して弱くはないのだろう。

 そんなことを考えていると、右側のアマガエルの獣人が口を開いた。

「あれ? このガキ、ジャッカルの獣人ですよ? もしかして、カニバル少数精鋭部隊、シェド隊の切り裂きジャカルの息子じゃないですか?」
「ゲロゲロ、本当か? それなら、こいつを人質にとれば、ジャカルを捕らえることも夢じゃないな。そうすれば、アリゲイト国王も自分のことを認めてくださるはず」
「子どもを人質にとって出世なんて、獣人の風上にも置けないですけどね」

と、左側のアマガエル。

「黙るゲロ! もう私は敗戦して後がないんだ。見たところ、もう1人はなんの獣の力ももたない未熟者だ。アマガエルたち! あの子どもを捕まえろ! お前たちも、蛇に睨まれてずっと動きを止められるお仕置きは懲り懲りだろ?」
「あれ、足痛いもんなぁ。しょうがない、悪く思うなよ。ガキ。捕まえさせてもらうぞ。その前に、なんの獣でもないお前は、倒しておかないとな」

 そう言って、右のアマガエルは小さなナイフを持ってサンに斬りかかってくる。

 ――遅いな。

 サンは、内心でそう呟き、ペンダントを握りしめる。

「サン、ライズ!」

 右手に刀を握りしめるサン。彼は洛陽の型で、アマガエルのナイフを弾き飛ばし、左の手でアマガエルの頚椎に手刀を当てて気絶させる。

 こんな相手、わざわざ刀で斬ってやるまでもない。

 咄嗟の出来事に目を白黒させるジャックとカエルたち。

 ジャックにウガイと呼ばれていた男は、サンに向かって、言葉を発する。

「な、なんゲロか? その武器? どんな力で急に剣を出したんゲロ? ……まあいい、なかなかやるようだが、武器を持ってるならそれなりの戦い方をするまで。まぐれは何回も続かないゲロよ」

 そんな彼に対し、サンは、ため息を吐きながら言葉を返す。

「いいよ。次は2人がかりできなよ。そんなに自分が強いとは思わないけどさ。悪いけどあんたらには、全く負ける気がしない」

 するとウガイは顔をまるでトマトのように真っ赤にした。

「なんゲロ? なめやがって。いいだろう。少しは強いようだが、井の中の蛙に大海というものを教えてやろう」
「でもウガイ隊長。蛙は僕たちなんですけどね」
「黙るゲロ! 行くぞ。カエル部隊のコンビネーションを見せてやるゲロ」
「もう絶対負けるやつのセリフだけどなぁ。わかりました。頑張りまーす」

 そうして、左のアマガエルがまず長めの槍を持って、サンに飛びかかる。アマガエルは強靭な下半身を思い切りバネにして、瞬時にサンとの間合いを詰める。

 ――うお、さっきのやつよりずっと速い!

 なんとか刀で受けるが、うまく受け切れず体制を崩すサン。そんな彼に、ウガイが背中から巨大な大槌のようなものを取り出し、サンに向かって振りかざす。

 ――多分ピグルぐらい力のあるパワータイプか。じゃあ受けるのは無理だからかわすしかないか。

 崩れた体制を強引に大きく捻り、体を旋回させるサン。アマガエルから離れ、ウガイの大槌を右側へ移動してかわし、彼の攻撃をからぶらせる。

「な、はや!? 鳥人族ゲロか?」

 嬉しい褒め言葉ありがと。サンは心の中で感謝を呟きながら、彼に向かって回転の力を活かし、そのまま刀を振りかざす。

「陽天流三照型、日輪!」
「ゲロォォォォォォ」

 勢いを持って真っ直ぐにウガイの脇腹に直撃するサンの刀。しかし、彼の刀に殺傷能力はないため、刃は彼を斬ることなく、真横に大きく吹き飛ばす。

 ――ズザザザザァァァァァ

 そして横になったまま、大地に体を擦りつけね着陸するウガイ。サンの日輪を受けた彼は、もはや起き上がる気力もなく、気絶していた。

 もうウガイに、戦う力はないと確認したサンは、自らの刀をアマガエルに向ける。

「お前はどうする? まだやるか?」

 アマガエルは両手を上げ、降参の意をサンに示す。

「いや、辞めときます。なんとなく実力の差はわかったんで。あーあ、せっかく逃げてきたのに欲出すからこうなるんだよ。まあ、ウガイさんらしいけどさ」

 どうやら、退くようだ。戦う気がないのに、意味もなく傷つけてもしょうがない。サンは、自身の刀をペンダントに戻そうとする。

 するとその時、また、木陰から声が聞こえてきた。
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