プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

文字の大きさ
52 / 102

揺らぎましたねぇぇ!!

しおりを挟む
 ――すごいな。

 サンは、なんとか体勢を変え、木にもたれかかりながら、シェドとカメレオンたちの戦いをじっと見守っていた。

 ネクたちがこの場を離れてからもう数十分は経過しただろう。その間、シェドは10数人のカメレオン部隊に一歩も引くことなく、むしろ、既に2人ほどを戦闘不能に追い込んでいた。

 再びカメレオンの獣人二人がシェドに向かって斬りかかる。シェドは、それを上空にジャンプしてかわし木に掴まる。そしてそのまま、後ろで弓を構えていたカメレオンに強烈な飛び蹴りをし、よろよろと立ち上がる。

「よし、残り7人だな」
「な、なんなんですか? この男。本当に毒が回っているのですか? こんなのたかが一獣人の力じゃない!!」

 そう言って、激しい動揺を見せながらもシェドに剣で斬りかかるカレオン。シェドは、それを籠手で受け止め、カレオンの鳩尾に蹴りを放つ。

「がぁぁ!」
「お前は、後で相手してやるから少し待ってろよ」

 後方の木に衝突するカレオン。部下たちは、そんな隊長を気にかける余裕もなく、シェドに次々と立ち向かい、そして殴り倒されていく。

 ――まずいまずい。何か策を練らなければ!

 カレオンは座り込んだまま、目の前の化け物を倒す方法を考える。自分たちの部隊の剣には全て毒が塗ってある。そのため、一度剣さえ当てて毒をしっかりと食らわせることができれば、後はどうにでもなる。だからこそ、どうにかこのシェドという男に隙を作らねば。

 ――背に腹はかえられないか。

 カレオンは決断する。本当は作戦の中でこれは伏せるべき情報だ。だが、情報なんぞよりも部下の無事の方が大事である。カレオンは声を上げる。

「みなさん、一度戻りますよ。もう十分時間は稼いだ」

 一斉に剣を止める部下たち。シェドは、そんな彼の言葉に質問をぶつける。

「時間だと? なんのことだ?」
「気になりますか? 今回の作戦の目的は、あなたたちシェド隊の壊滅です。そして私の任務は、あなたをここで足止めして、シェド隊を分裂させることでした。ならば、ジャカルやネクが出ていった先には、誰が向かったか、あなたは想像できますか?」

 シェドにはもうすでに、レプタリアの誰がくるのか、想像がついていた。そして、彼の頭に、その男がネクとジャカルを惨殺する姿がよぎる。

「――ゲッコウ、か?」
「そう、我が軍のゲッコウは、決してあなたたちから身を守るためだけに本陣にいなかったわけではないということです。そして、揺らぎましたねぇぇ!」

 わずかだが、仲間の危機に、動きを止めてしまうシェド。そんな彼の隙をカレオンは見逃さなかった。彼はこっそりと姿を消していた部下の一人にハンドサインを出し、その彼が、シェドの背中を大きく切りつける。

 ――ズシャァァァ。

「うぐぅぅぅっ!」

 唸り声をあげるシェド。そんな彼をみて、カレオンは、ニヤリと不敵な笑みを見せる。

「揺らいじゃいましたねぇ? 警戒してなかったですねぇ? 動揺する心、毒で麻痺し動きで鈍くなっているあなたの体。そんなあなたに、姿を消した部下が一太刀食らわせるなど造作もないこと。さあ! 反撃の狼煙が上がりましたよ!」

 再び激しくシェドへと斬りかかるカメレオンたち。シェドは、更なる毒で痺れる体をどうにか動かして、彼らの攻撃を防ぐ。そして、声を張り上げて、サンに言う。

「おい! サン! 聞こえるか!?」
「何!?」

 急に敵の刃を受けてしまったシェドを心配しながらも、サンは尋ねる。シェドは彼に言葉を返す。

「さっき、ネクが走っていったところ。そこに毒の血清があるはずだ。お前は、それを打ってジャカルとネクのところへ向かえ! 敵の最高戦力があいつらに接触した可能性がある」
「でも、シェドは!?」
「心配すんな。たとえ毒をもらったとしても、9割の勝率が6割程度に下がっただけだ。勝つさ。だから、お前は早く行ってこい」

そして、カメレオンたちとの戦いに戻るシェド。ズタズタになりながらも、それでも一歩も引かない彼の姿には感動すらも覚えた。

 サンは必死で体を動かして、先程ネクが通っていた道を探す。するとわかりやすく木に紫のポーチがかけてあった。サンは、そのポーチを必死で掴み取り、開く。

 ――あった!

 そこには小さな注射が一本入っていた。間違いないこれが血清だ。サンはすぐにそれを自身へと打とうとした。しかし、彼は咄嗟にその手を止める。

 ――待てよ? これを打ったらシェドはどうなる?

 サンは、シェドの方を見た。ヘビ毒に苦しみながらも必死で敵の攻撃を裁き切るシェド。もしかしたら勝率6割なんて嘘なんじゃないだろうか?

 それなら自分が血清を打ったあとすぐにシェドに加勢して、カメレオンたちを倒し、ネクたちに合流すればいいのではないか? いや、そうしたらいまゲッコウという男が迫る二人を守るのに間に合わないのかもしれない。

 シェドを助けるか二人を助けるか、どちらかで揺れるサンの心。しかし、そこで一度サンは、迷うことをやめる。

 ――いや、違う。何言ってるんだよ? 目に映る全てを守るって誓ったろ。

 そうだ。そうだった。目に映る全てを守る。自らが立てた誓いを、自らで破るわけにはいかない。何かを選び何かを捨てる。そんなことを考えるべきではない。

 ――いちかばちか。やるしかない。

 サンは、自身の炎に目を向け、それを自分へと当てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...