プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

文字の大きさ
57 / 102

熱意も、誇りも、信念も、全部無かったことにして

しおりを挟む
「大したもんだな。父親というのは。ここで立ち上がるお前に敬意を称し、俺の全力で沈めてやろう」
「やってみろ」

 大きく地面を蹴り、突きの構えをとるゲッコウ。そんな彼をじっと見据えながら、ジャカルは、大きく深呼吸する。

 ――サン。借りるよ。お前の技。

 間合いに入り、大きく槍を突き出すゲッコウ。唸りを上げて、鋭い刃先が凄まじい勢いでジャカルへと迫る。ジャカルは、その攻撃をギリギリまで引きつけ、身を逸らしてかわし、大きく体を旋回させる。

 体の軸はブレブレ。ナイフにもしっかりと体重は乗せられていない。しかし、それでもそれは、あの技を見たことがないゲッコウの意表をつくには十分だった。

「切り裂き旋風輪!!」

 ジャカルは、巧みに敵の突きをかわし、回転の勢いを活かして、右手のナイフを振りかざす。そしてその武器は、槍を持っているゲッコウの右手を吹き飛ばした。

 ――グシャァァァ。

 静かにしたたるゲッコウの血液。ゲッコウは、自分の右手が吹き飛ばされたのを隠すためか、右手を自分の体に隠し、左手一本で槍を操作する。しかしジャカルは、手応えで敵の右手にヒットしたことは把握できている。ジャカルは、今が好奇とばかりに残された命をフルに稼働させて、連撃を繰り出す。

 ――ガキン、ガキン。

 ナイフ一本で戦うジャカルと、左手一本で戦うゲッコウ。もちろん、現在槍の間合いであるとはいえ、戦いを有利に進めているのはジャカルの方だ。ジャカルは、少しずつ手数で圧倒し、ゲッコウとの間合いを詰めていく。

 しばらく切り合っていると咄嗟にゲッコウが後ろへ大きく後退した。刃先をジャカルへと向けようとするゲッコウ。しかしジャカルは恐れることなく、そのまま足を踏み出す。たとえ今から突きを放つとしても、左手一本の速度じゃ、自分が間合いを詰めるのに間に合うはずがない。

 ――え?

 しかしそこで、ジャカルの目の前で驚くべき光景が広がる。ゲッコウが背中から右手を取り出し、槍を両手で持ったのだ。そう、彼の右手は、最初から斬られていなかったかのように元通りになっていた。

 けれども、踏み出した一歩を無かったことにすることなど出来はしない。ジャカルは覚悟を決めて、さらに自らの速度を上げる。そして――。

 ――グシャァァァァァ。

「ジャカル、お前は強かったよ。たしかにお前のナイフは、俺の右手を吹き飛ばした」

 そして、無慈悲にも、槍は、深々とジャカルの体を貫いた。ゲッコウはゆっくりと自らの槍を彼の体から引き抜く。

「けれども、俺の体は、そんなお前らの熱意も、誇りも、信念も、全部無かったことにして再生しちまう。それが俺の大嫌いなイモリって獣の能力なんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...