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自分のことを擦り減らすのは、やめようよ
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「シェド! シェド!」
慌てた様子でシェドに駆け寄るネク。シェドはそんな彼女に何があったのか問う。
「どうしたネク? 敵襲か?」
「……違う、えっと、良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」
「じゃあ良いニュースから」
「……えっとね、ジャカルの傷が治っていたの!」
「本当か?」
ジャカルの傷が治った。その知らせに、シェドは、声を上げる。彼の命はあと少しのものだったはず。とすると、おそらく彼が蘇生した理由は想像がつく。
「あれか、ヴォルファが言っていたような、フェニックスの力か」
「うん、兵士の一人が病床からサンが出ていくところを見たんだって。多分そうだと思う」
ヴォルファやユキから散々アサヒの話を聞かされて、ネクもシェドもフェニックスの炎がどういったものかよくわかっている。再生と破壊を司るあの不死の炎は、再生に性質を偏らせれば他者の蘇生も可能だったはずだ。
「そうか、まあ、それは良かった。でもあるんだろ? 悪いニュースが」
「そう、そのサンなんだけどね。どうやら本陣に一人で突っ込んでいったみたいなの」
「ひとりで? 本当か?」
これまた予想もできないニュースに、シェドは、目を回す。一人で襲撃だって? それも本陣にはあのゲッコウも控えているというのに。それがどれほど無謀な真似か、わかっていないのか。
「その兵がね。本陣へと走っていくサンを見かけたみたいなの。ひょっとしたら自分の能力で全ての人を助けられなかったことに責任を感じてそんな行動をしたのかもしれない。だからシェド。早く助けにいかないと」
不安そうな表情をしながらも、シェドに、早く行動を起こすよう訴えるような視線。そんな彼女の顔を見てシェドは、何かを考えるような素振りをする。そして、彼は重々しく言った。
「だめだな」
「え?」
「申し訳ないが、このカニバル軍には、敵陣に突っ込んだ男一人を助ける余裕なんてないよ。ネク。今日の戦いでただでさえ疲弊しているんだ。それなのにまたこんな夜中にサン一人のため兵を出したら明日が辛くなる。だから無理だ」
「それ本気で言ってるの?」
まるで信じられないものでも見つめるような目で、シェドを見つめるネク。そんな彼女に対しシェドは変わらない様子で言い放つ。
「本気だよ。俺らにできるのは、あいつがやすらかに死ねるのを願うだけだ」
「ねぇ、シェドは言ってたでしょ。今日サンが血清を渡してくれなきゃ危なかったって。それにゲッコウはああ言ってたけど、実際あの時サンが来なかったら私は彼に殺されてたかもしれない。そして、サンはさっきもこうしてジャカルの命を救ってくれた。シェド。今回の作戦の失敗はアマゲのことを伝え損ねた彼にもあるかもしれないけど、私たちシェド隊はみんなサンに救われてるんだよ」
「…………」
シェドは、ただ口を結び静かに押し黙る。ネクは、そんな彼に構わず続ける。彼女の想いを言葉に乗せる。
「わかってる。シェドがさ、何よりも私たちのことを考えて決断してるってことは。でもシェドはわかっているよね。サンはきっと何があってもゲッコウには勝てない。それは他ならない私たちのせいで。だから、今彼を見捨てるのは彼を殺すのと同じこと。ねぇシェド。こんなの正しくないよ。こんな正義、きっとユキさんは望んでない。もういいんだよ。シェド。もうこれ以上、自分のことを擦り減らすのは、やめようよ」
ネクは、心の奥のものを吐き出すように、シェドに向かって言葉を出すのだった。
慌てた様子でシェドに駆け寄るネク。シェドはそんな彼女に何があったのか問う。
「どうしたネク? 敵襲か?」
「……違う、えっと、良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」
「じゃあ良いニュースから」
「……えっとね、ジャカルの傷が治っていたの!」
「本当か?」
ジャカルの傷が治った。その知らせに、シェドは、声を上げる。彼の命はあと少しのものだったはず。とすると、おそらく彼が蘇生した理由は想像がつく。
「あれか、ヴォルファが言っていたような、フェニックスの力か」
「うん、兵士の一人が病床からサンが出ていくところを見たんだって。多分そうだと思う」
ヴォルファやユキから散々アサヒの話を聞かされて、ネクもシェドもフェニックスの炎がどういったものかよくわかっている。再生と破壊を司るあの不死の炎は、再生に性質を偏らせれば他者の蘇生も可能だったはずだ。
「そうか、まあ、それは良かった。でもあるんだろ? 悪いニュースが」
「そう、そのサンなんだけどね。どうやら本陣に一人で突っ込んでいったみたいなの」
「ひとりで? 本当か?」
これまた予想もできないニュースに、シェドは、目を回す。一人で襲撃だって? それも本陣にはあのゲッコウも控えているというのに。それがどれほど無謀な真似か、わかっていないのか。
「その兵がね。本陣へと走っていくサンを見かけたみたいなの。ひょっとしたら自分の能力で全ての人を助けられなかったことに責任を感じてそんな行動をしたのかもしれない。だからシェド。早く助けにいかないと」
不安そうな表情をしながらも、シェドに、早く行動を起こすよう訴えるような視線。そんな彼女の顔を見てシェドは、何かを考えるような素振りをする。そして、彼は重々しく言った。
「だめだな」
「え?」
「申し訳ないが、このカニバル軍には、敵陣に突っ込んだ男一人を助ける余裕なんてないよ。ネク。今日の戦いでただでさえ疲弊しているんだ。それなのにまたこんな夜中にサン一人のため兵を出したら明日が辛くなる。だから無理だ」
「それ本気で言ってるの?」
まるで信じられないものでも見つめるような目で、シェドを見つめるネク。そんな彼女に対しシェドは変わらない様子で言い放つ。
「本気だよ。俺らにできるのは、あいつがやすらかに死ねるのを願うだけだ」
「ねぇ、シェドは言ってたでしょ。今日サンが血清を渡してくれなきゃ危なかったって。それにゲッコウはああ言ってたけど、実際あの時サンが来なかったら私は彼に殺されてたかもしれない。そして、サンはさっきもこうしてジャカルの命を救ってくれた。シェド。今回の作戦の失敗はアマゲのことを伝え損ねた彼にもあるかもしれないけど、私たちシェド隊はみんなサンに救われてるんだよ」
「…………」
シェドは、ただ口を結び静かに押し黙る。ネクは、そんな彼に構わず続ける。彼女の想いを言葉に乗せる。
「わかってる。シェドがさ、何よりも私たちのことを考えて決断してるってことは。でもシェドはわかっているよね。サンはきっと何があってもゲッコウには勝てない。それは他ならない私たちのせいで。だから、今彼を見捨てるのは彼を殺すのと同じこと。ねぇシェド。こんなの正しくないよ。こんな正義、きっとユキさんは望んでない。もういいんだよ。シェド。もうこれ以上、自分のことを擦り減らすのは、やめようよ」
ネクは、心の奥のものを吐き出すように、シェドに向かって言葉を出すのだった。
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