プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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あんたにもちゃんと、その槍を振るわなきゃいけない理由があったのか

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「はははは、そうかそうか。何でカニバル国民でもない奴がカニバル軍にいるのかと思ったが、そういうことか。たしかに先に南の峠を襲撃したのは俺たちだが、なるほどなぁ。……もっと話してから殺すかと思ったが、気が変わった。やっぱりお前、今すぐ死ねよ」

 地面を力強く踏みしめ、サンへ向かって突撃するゲッコウ。先程のスピードを遥かに超える攻撃の速度に、サンは驚く。どうやら自分は、敵の何らかの地雷を踏み抜いてしまったらしい。ゲッコウのギアは明らかに先程の戦闘から数段上がっていた。

 しかし、だからといってサンも、負けるわけにはいかない。自分がいなくなったらジャカルの無念を晴らすものがいなくなってしまう。それだけは嫌だ。ジャカルの戦いを無駄にしないだめにも、ここで自分がゲッコウを打ち倒さなくてはならない。

「陽天流二照型、洛陽!」

 敵の突きを洛陽でなんとか迎撃し、自分のペースに持っていこうとするサン。しかしゲッコウは、凄まじい素早さで槍を引き戻し、サンの攻撃を持ち手で受け止める。そんな彼に、サンは、気持ちだけは負けぬよう声を張り上げる。

「ここで死ぬわけにはいかねぇよ! 俺はジャカルの想いを継がなきゃいけない。だからここで死ぬわけにはいかないんだ!!」
「想いだ? お前なんかが誰かの想いを背負うんじゃねぇ! 信念も持たない戦士でも何でもないお前が、空っぽの正義を振り回して戦場に立つんじゃねぇ!!」

 そして。サンを弾き飛ばすゲッコウ。サンは、後方に飛び、ゲッコウの追撃を回避しながらも、ゲッコウの言葉を脳で反芻する。

 ――信念をもたない? 戦士でも何でもない? なんだこいつ。何をいっている?

「なんだよ、それ!? わかんねぇよ! 俺はジャックやジャカルのような奴らを守りたいと思ったんだ! 目に映るもの全てを守ると決めたんだ! それが俺の、俺自身の信念だ!」

 頭に浮かぶ疑問符を振り払うように、必死で声を張り上げるサン。しかし、ゲッコウはそんなサンの言葉を容易く吹き飛ばすような語気で、彼に対して言葉を返す。

「自惚れるなよ! お前はこの戦争の経緯を知らない! 歴史を知らない! 視野を広げれば容易くひっくり返る脆弱な正義が、信念であってなるものか!」

 ゲッコウは、さらに攻撃のギアを上げる。力強く振り回された槍を両手で刀を構えてなんとか受け止めるサン。そんな彼に、ゲッコウは、言葉を続ける。

「いいか! 小僧! 信念とは、他人の正義を屈服させて自分の正義を押し通そうとする覚悟のことだ! そして、ここにいる戦士は皆、その信念を胸に秘めて戦っている。だからこそ俺は、他人の正義を無知故に理解せず、己の正義のみを信じるものを戦士とは認めない! 俺はお前を、認めない!」

 槍をひたすらに振り回し、サンの急所を狙い続けるゲッコウ。サンは、ひたすらに防御に徹するが、急所を避けることしかできず、手や脚がどんどん敵の槍によって切り裂かれていく。なんとか、サンも反撃の隙を見つけゲッコウに攻撃を食らわせるが、どんな攻撃も即座に回復されてしまう。

 そんな圧倒的な試合展開の中で、サンの体に致命的な変化が生じ始める。

 ――あれ? 体が再生しない?

 そう、徐々にサンの体は手足の傷を再生しなくなっていった。とはいえこれは無理もないことであった。実際サンは、スカイルでもスアロの蘇生とフォンとの戦闘で自らの炎を使い切っている。その時と比較すると、サンはジャカルの蘇生とレプタリアでの単独突撃、そしてゲッコウとの戦いで、スカイルでの使用量をすでに超過していた。

 彼はすでに限界だった。そして、それと同時に、彼は、その限界を彼に簡単に越えさせてした彼の正義に、わずかな疑問を抱いてしまっていた。

「はっ! どうしたよ! 動きが鈍くなってるじゃねぇか!」

傷が塞がらず、サンの体から絶え間なく流れ出ていく血液。それらはサンの体から気力や体力を絶え間なく奪い出していく。

 もちろん彼のそんな隙をみすみす逃すような、ゲッコウではない。彼は、思い切り、槍の持ち手で、サンを突き放し、切迫していた距離を離した。

 踏ん張る気力も湧かずに、そのまま後ろに倒れてしまうサン。そんなサンを追いかけ、再び突きの姿勢をとるゲッコウ。

 ――まずい、死ぬぞ、これ。

 まず間違いなく今攻撃をされれば、すぐにかわすことはできないような状況。無意識にサンは死を覚悟する。槍を持って、サンを睨みつけ、突撃してくるゲッコウ。サンはそんなゲッコウの姿が、ふと、かつてスカイルで対峙したフォンの姿と重なる。

 ――まさか、そうなのか?

徐々に突きを繰り出してサンへと迫ってくるゲッコウ。そんな彼を見ながら、サンは思う。

 ――あんたにもちゃんと、その槍を振るわなきゃならない理由があったのか?

 サンは死を覚悟し、固くきつく目を瞑った。そしてその槍が自分に届き、貫かれるのを静かに待った。
だがしかし、彼の槍はいつまで待っても彼を貫くようなことはなかった。

――ガキィィィィン。

 武器と武器が激しくぶつかり合うような音が響く。もちろんこれは、サンの刀の音では決してない。第三者が介入し、ゲッコウの槍を阻んだのだ。サンはゆっくりと自分の目を開く。するとその第三者は、ゲッコウに向かってこう告げていた。

「流石に部下を二人もやられるわけにもいかねぇよなぁ。隊長失格になっちまう」
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