プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

文字の大きさ
65 / 102

あんたにもちゃんと、その槍を振るわなきゃいけない理由があったのか

しおりを挟む
「はははは、そうかそうか。何でカニバル国民でもない奴がカニバル軍にいるのかと思ったが、そういうことか。たしかに先に南の峠を襲撃したのは俺たちだが、なるほどなぁ。……もっと話してから殺すかと思ったが、気が変わった。やっぱりお前、今すぐ死ねよ」

 地面を力強く踏みしめ、サンへ向かって突撃するゲッコウ。先程のスピードを遥かに超える攻撃の速度に、サンは驚く。どうやら自分は、敵の何らかの地雷を踏み抜いてしまったらしい。ゲッコウのギアは明らかに先程の戦闘から数段上がっていた。

 しかし、だからといってサンも、負けるわけにはいかない。自分がいなくなったらジャカルの無念を晴らすものがいなくなってしまう。それだけは嫌だ。ジャカルの戦いを無駄にしないだめにも、ここで自分がゲッコウを打ち倒さなくてはならない。

「陽天流二照型、洛陽!」

 敵の突きを洛陽でなんとか迎撃し、自分のペースに持っていこうとするサン。しかしゲッコウは、凄まじい素早さで槍を引き戻し、サンの攻撃を持ち手で受け止める。そんな彼に、サンは、気持ちだけは負けぬよう声を張り上げる。

「ここで死ぬわけにはいかねぇよ! 俺はジャカルの想いを継がなきゃいけない。だからここで死ぬわけにはいかないんだ!!」
「想いだ? お前なんかが誰かの想いを背負うんじゃねぇ! 信念も持たない戦士でも何でもないお前が、空っぽの正義を振り回して戦場に立つんじゃねぇ!!」

 そして。サンを弾き飛ばすゲッコウ。サンは、後方に飛び、ゲッコウの追撃を回避しながらも、ゲッコウの言葉を脳で反芻する。

 ――信念をもたない? 戦士でも何でもない? なんだこいつ。何をいっている?

「なんだよ、それ!? わかんねぇよ! 俺はジャックやジャカルのような奴らを守りたいと思ったんだ! 目に映るもの全てを守ると決めたんだ! それが俺の、俺自身の信念だ!」

 頭に浮かぶ疑問符を振り払うように、必死で声を張り上げるサン。しかし、ゲッコウはそんなサンの言葉を容易く吹き飛ばすような語気で、彼に対して言葉を返す。

「自惚れるなよ! お前はこの戦争の経緯を知らない! 歴史を知らない! 視野を広げれば容易くひっくり返る脆弱な正義が、信念であってなるものか!」

 ゲッコウは、さらに攻撃のギアを上げる。力強く振り回された槍を両手で刀を構えてなんとか受け止めるサン。そんな彼に、ゲッコウは、言葉を続ける。

「いいか! 小僧! 信念とは、他人の正義を屈服させて自分の正義を押し通そうとする覚悟のことだ! そして、ここにいる戦士は皆、その信念を胸に秘めて戦っている。だからこそ俺は、他人の正義を無知故に理解せず、己の正義のみを信じるものを戦士とは認めない! 俺はお前を、認めない!」

 槍をひたすらに振り回し、サンの急所を狙い続けるゲッコウ。サンは、ひたすらに防御に徹するが、急所を避けることしかできず、手や脚がどんどん敵の槍によって切り裂かれていく。なんとか、サンも反撃の隙を見つけゲッコウに攻撃を食らわせるが、どんな攻撃も即座に回復されてしまう。

 そんな圧倒的な試合展開の中で、サンの体に致命的な変化が生じ始める。

 ――あれ? 体が再生しない?

 そう、徐々にサンの体は手足の傷を再生しなくなっていった。とはいえこれは無理もないことであった。実際サンは、スカイルでもスアロの蘇生とフォンとの戦闘で自らの炎を使い切っている。その時と比較すると、サンはジャカルの蘇生とレプタリアでの単独突撃、そしてゲッコウとの戦いで、スカイルでの使用量をすでに超過していた。

 彼はすでに限界だった。そして、それと同時に、彼は、その限界を彼に簡単に越えさせてした彼の正義に、わずかな疑問を抱いてしまっていた。

「はっ! どうしたよ! 動きが鈍くなってるじゃねぇか!」

傷が塞がらず、サンの体から絶え間なく流れ出ていく血液。それらはサンの体から気力や体力を絶え間なく奪い出していく。

 もちろん彼のそんな隙をみすみす逃すような、ゲッコウではない。彼は、思い切り、槍の持ち手で、サンを突き放し、切迫していた距離を離した。

 踏ん張る気力も湧かずに、そのまま後ろに倒れてしまうサン。そんなサンを追いかけ、再び突きの姿勢をとるゲッコウ。

 ――まずい、死ぬぞ、これ。

 まず間違いなく今攻撃をされれば、すぐにかわすことはできないような状況。無意識にサンは死を覚悟する。槍を持って、サンを睨みつけ、突撃してくるゲッコウ。サンはそんなゲッコウの姿が、ふと、かつてスカイルで対峙したフォンの姿と重なる。

 ――まさか、そうなのか?

徐々に突きを繰り出してサンへと迫ってくるゲッコウ。そんな彼を見ながら、サンは思う。

 ――あんたにもちゃんと、その槍を振るわなきゃならない理由があったのか?

 サンは死を覚悟し、固くきつく目を瞑った。そしてその槍が自分に届き、貫かれるのを静かに待った。
だがしかし、彼の槍はいつまで待っても彼を貫くようなことはなかった。

――ガキィィィィン。

 武器と武器が激しくぶつかり合うような音が響く。もちろんこれは、サンの刀の音では決してない。第三者が介入し、ゲッコウの槍を阻んだのだ。サンはゆっくりと自分の目を開く。するとその第三者は、ゲッコウに向かってこう告げていた。

「流石に部下を二人もやられるわけにもいかねぇよなぁ。隊長失格になっちまう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...