プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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ようやく気づいたようだな

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「流石に部下を二人もやられるわけにもいかねぇよなぁ。隊長失格になっちまう」

 シェドだった。黒い立髪をなびかせて、シェドが自分を助けにきたのだ。サンは声を上げる。

「シェド! どうして、ここに!? 本陣にいなくて大丈夫なのかよ?」

「馬鹿。お前が無茶をするからここまで飛ばしてこなきゃいけなかったんだろうが。まあでも、こんな無謀な襲撃に兵を動かすわけにはいかないからな。俺一人で助けに来た。

 シェドとゲッコウは、武器を衝突させたあと、互いに大きく距離を取り合った。そしてシェドの目を見てゲッコウは言う。

「よお、シェドじゃねえか。久しぶりだなぁ。3回とも引き分けだった俺たちの決着をつけにきたのか?」
「自惚れるなよ、ゲッコウ。お前との引き分けの理由は、全部お前と戦った時がカニバルの国土を守る防衛戦で深追いする必要がなかったからだ。おれはお前に負けたと思ったことはないぜ」
「はっ相変わらず歳下のくせに口のへらねぇ小僧だな。その自信今すぐここでへし折ってやるよ!」

 ゲッコウは、シェドに突撃して突きを繰り出す。シェドは、それを籠手で捌き切る。

 シェドは、武器を持たず、自身の体術で敵を屠る接近タイプだ。そのため、ジャカルよりも一層相手に近づけなければ話にならない。

 ゲッコウはそれを理解しているのか、槍がギリギリ届く範囲で、シェドに攻撃を繰り返している。こんな間合い管理はサン相手にはしていなかった。そういった細かい点にもそれほど気を配らなければならないほど、このシェドという男をゲッコウは認めているのだろう。

 ――ガシッ。

 ゲッコウが放った突きに反応し、シェドは、咄嗟にゲッコウの槍を掴む。それを強く引っ張るシェド。大きく引き寄せられ、間合いが一気に近づいたゲッコウの鳩尾に、シェドは思い切り、拳をぶつける。

「鎖烈獣術、球槌!!」

 衝撃波のようなものが周りに広がり、ゲッコウが大きく後方に吹っ飛ぶ。それを冷たい目で眺めるシェド。ゲッコウは、ゆっくりと立ち上がりながら、彼に向かって言葉を発する。

「相変わらず、馬鹿みてぇに強いなぁ。ったく、こんな強い奴らと連戦しなきゃいけないなんて俺もついてねぇぜ」
「悪いな。俺達もお前という男に、これだけ力を割かなきゃ勝てないんだ。許してくれよ。そこは」
「はははは」

 ゲッコウは、再び笑った。相変わらず切迫した雰囲気を少しも崩さない乾いた笑い。彼は、しばらくそうした後シェドに声をかける。

「よく言うぜ。本当はいつでも俺のことなんて倒せたんだろ? でも、それをしなかった。それは、俺を撃退すればする程、シェド隊の株が上がるからだ。違うか? 全く随分と弄んでくれたもんだぜ。なあ、シェド。お前にも聞いてみたかったんだよ。お前は、なぜ闘ってるんだ? どんな信念をその身に抱えている?」
「俺か?」

 するとシェドは、自分の頬に触れた。大きくくっきりと跡が残った頬の傷。それを指でなぞると、彼はゲッコウに言葉を返した。

「今も昔も、俺の信念は変わらない。ただ一つだよゲッコウ。俺は、この世の理不尽を、全部ぶち壊したいだけだ!」
「そうかい! じゃあ俺もお前にならって、目の前の理不尽をぶちこわさねぇとなぁ!!」

 地面を大きく蹴り、一気に間合いを詰めるシェド。そんな彼の猛攻を、必死で受け止め応戦するゲッコウ。サンの目から見てもわかる、圧倒的な強者同士の命のやり取り。サンは、それを食い入るように眺める。

 ――強いな。2人とも。

 サンは心の中で無意識にそう呟いていた。シェドもゲッコウも互いに攻撃を受けながら、自分の攻撃を通すタイミングを伺っている。きっとあの両者の中では、サンも想像のつかないような心理戦が繰り広げられているのだろう。

 しかし、サンはそんな両者に対して、どうしても一つ、頭に浮かんで離れない疑問があった。

 それは、なぜ彼らがこんなにも力強く戦うことができるのか、というものだった。
 シェドもゲッコウも、今両者は互いに命をかけて全力をぶつけ合っている。そこには、
サンのような正義への雑念などない。双方ともに自分を信じ、相手を全力で屈服させるために、その命を奪おうとしている。

 サンはわからなかった。どうして彼らは、他人の正義をぶつけられても、自分の戦いに誇りを持てるのだろう。己の信念を、決して疑うことがないのだろう。

一体彼等は、その揺るぎない信念をどうやってその身に培ってきたのだろうか。

そして自分がその信念を得るためには何が足りなかったと言うのだろうか。

 ゲッコウは、一度シェドから大きく距離をとった。彼は息を切らしながら、どうにか呼吸を整える。ちなみに何故彼が、急に大きく距離を取ったのかというと、その理由は決してシェドの猛攻に耐えきれなかったからではない。むしろ先程の攻防では、再生能力がある分、本来ならば削り合いでは、ゲッコウの方に部があった。

 それでもゲッコウ自ら大きく後退しその削り合いを避けたのは、彼があることに気付いたからだ。

 ――なるほどな。

 ゲッコウの額からひたひたと冷や汗が流れる。そして、彼の指や足からも、真っ赤な血がポタポタ滴る。

 そんなゲッコウの様子を見て、シェドは言葉を発する。

「ようやく気づいたようだな。もうお前の中には、再生する獣の力など残っていないということに。先程お前は俺がいつでもお前を殺せると言ったがそれは買い被りすぎだ。かつてのお前との3度の対戦。俺はお前に負けはしなくても、倒し切ることはできなかったよ。そのお前の再生能力のせいでな!」
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