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2人とも笑っちゃうくらい
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ホールまでの長い廊下を2人は静かに進んでいく。ポツポツと足音だけが聞こえる中、シェドはサンに対して言葉をこぼした。
「なあ、サン。お前どこまでわかってたんだ?」
「え、何が?」
「この議論の行く末だよ。聞いた感じベアリオの資料とハクダの地形がキーとなったらしいじゃねぇか。そしてお前はハクダの地形を経験したし、ベアリオにもどこかで資料を見せてもらったタイミングがあったんじゃないか? それならきっと議論がこう進んでいくのも予測できたろ?」
「まさか! 俺は、そんなややこしいことを考えるのは得意じゃないよ。たださ、この対談を思いついたとき、2人の話し合いは絶対うまくいくって思ってた」
「何でだよ?」
するとサンは、爽やかな笑みを浮かべた。そして彼は気分を弾ませるように、朗らかに言葉を発する。
「だってさ。2人とも笑っちゃうぐらいいい王様なんだよ。だから、この2人が協力すれば、戦争一つ止めるなんて訳ないと思った。それだけなんだ、本当に」
「……そうか」
――打算でも何でもなく、こいつはただ人を信じただけ、か。
その時シェドは、母がよく話していたアサヒという獣人の話を思い出した。全てを信じ、全てを受け入れ、そして全てを照らす。彼女はいつもそんなアサヒを太陽と言っていた。
――何となくわかったよ。母さんが言ってた太陽の意味が。
コツコツと廊下を歩き進め、ホールにたどり着く2人。そしてシェドは、立ち止まり、サンに対して呼びかける。
「なぁ、サン」
「何? シェド」
「カニバルを代表して、お前に言っておくよ。ありがとな。お前のただの立派な正義は、確かに全てを救った。これからどうなるかはわからないが、俺にはできないやり方で、この戦争が終わるきっかけをくれた。本当に感謝してる」
すると、サンは、ボーッとシェドの顔を意外そうに見つめた。そして彼は、またにかっと笑い、彼に対して言葉を返す。
「やっぱり、いいやつなんじゃないか。シェドは」
「は?」
いいやつ。急に出てきたそんな言葉にポカンとするシェド。思わず彼は、冷めた目で彼に言葉を発する。
「お前の純粋さは底なしか? 俺はお前のこと嫌いだと罵ったんだぞ」
「あれだって、俺があの戦争から離れやすいように嫌われ役を演じてくれたんだろ? そんな気がするんだ」
するとシェドは、一瞬だけ黙った。富国強兵も、正義の味方が嫌いなのもシェドの本心には違いなかった。ただ、ラトラやキツナに厳しい処罰を与えることを伝えなかったこと、そして、サンそのものを嫌いだと告げたことは、彼のいう通り、サンに戦争を諦めさせるためという要素も含んでいた。
ただそれは、サンのためというよりは、これ以上サンを利用する罪悪感を自身が背負いたくなかったからだ。だからこそ、自分が感謝されるのは筋違いだと考えているシェドは、サンに対してこう告げる。
「随分おめでたい頭だな。なんだってそんなにポジティブに捉えるんだよ」
「カニバルに向かうときにさ、ネクから聞いたんだ。軍の民間人を虐げない規則を定めたのはシェドなんだろ? そしてシェドが、施設の子どもの食料を取り返して、あの子たちのこれからのために必要なものを入れたのも知ってる。だから俺はさ、そんなシェドに頼みたいことがあるんだ」
頼みたいこと。シェドはこの戦争が終わった後に彼からどんな言葉が発せられるのか身構えた。
しかし、サンの言動は、そんなシェドの想像を遥かに超えていた。
「なあ、シェド! ネクも連れてさ。これから3人で旅をしないか?」
「は?」
シェドは、サンの言葉をすぐに飲み込むことが出来ず、しばらく口をポカンと開けていた。そしてようやくサンの言葉を脳内で咀嚼し終わると、彼は、捲し立てるようにサンに言葉を発した。
「何言ってるんだ? お前。俺はお前のことを騙したし、何度も傷つけてるんだぞ! そんな俺を、お前、仲間に入れようっていうのか?」
「だって、シェドも神を探してるんだろ? だったらいいじゃないか。目的はほとんど一緒だし。なんだかんだ俺もさ、2人と戦うの、悪い気しなかったんだ」
「だとしたって……」
「もちろん最初はあんたに騙されてイラッと来たよ。でもさ、俺シェドに騙されなきゃ、こんなに強くなんてなれなかった。信念の力をさ、俺、シェドに教えてもらったんだ。だから思った。俺はシェドと一緒なら、もっと強くなれるって。だから行こうよ、シェド。俺、シェドと一緒にさ、旅がしたいんだ」
キラキラと目を輝かせて、シェドを見つめるサン。シェドは、そんな彼の目に戸惑っていた。
ヴォルファの元へ預けられた時も、ベアルガ王の元へ預けられた時も、シェドは、自分からその道を選んで進んでいったわけではなかった。母が死んで身寄りがないから、ヴォルファに破門されたから。そんなふうに彼はいつも他の行き先を封鎖されて、目の前の道を彼のやり方で進んでいったのだ。
しかし、今、彼の目の前にはいくつもの道が広がっている。
「ダメ、かな?」
不安そうにシェドの言葉を伺うサン。なんだってそんなに俺と旅がしたいんだか。そんなことを考えながら、シェドは、彼の誘いに対しての答えを、ゆっくりと口にするのだった。
「なあ、サン。お前どこまでわかってたんだ?」
「え、何が?」
「この議論の行く末だよ。聞いた感じベアリオの資料とハクダの地形がキーとなったらしいじゃねぇか。そしてお前はハクダの地形を経験したし、ベアリオにもどこかで資料を見せてもらったタイミングがあったんじゃないか? それならきっと議論がこう進んでいくのも予測できたろ?」
「まさか! 俺は、そんなややこしいことを考えるのは得意じゃないよ。たださ、この対談を思いついたとき、2人の話し合いは絶対うまくいくって思ってた」
「何でだよ?」
するとサンは、爽やかな笑みを浮かべた。そして彼は気分を弾ませるように、朗らかに言葉を発する。
「だってさ。2人とも笑っちゃうぐらいいい王様なんだよ。だから、この2人が協力すれば、戦争一つ止めるなんて訳ないと思った。それだけなんだ、本当に」
「……そうか」
――打算でも何でもなく、こいつはただ人を信じただけ、か。
その時シェドは、母がよく話していたアサヒという獣人の話を思い出した。全てを信じ、全てを受け入れ、そして全てを照らす。彼女はいつもそんなアサヒを太陽と言っていた。
――何となくわかったよ。母さんが言ってた太陽の意味が。
コツコツと廊下を歩き進め、ホールにたどり着く2人。そしてシェドは、立ち止まり、サンに対して呼びかける。
「なぁ、サン」
「何? シェド」
「カニバルを代表して、お前に言っておくよ。ありがとな。お前のただの立派な正義は、確かに全てを救った。これからどうなるかはわからないが、俺にはできないやり方で、この戦争が終わるきっかけをくれた。本当に感謝してる」
すると、サンは、ボーッとシェドの顔を意外そうに見つめた。そして彼は、またにかっと笑い、彼に対して言葉を返す。
「やっぱり、いいやつなんじゃないか。シェドは」
「は?」
いいやつ。急に出てきたそんな言葉にポカンとするシェド。思わず彼は、冷めた目で彼に言葉を発する。
「お前の純粋さは底なしか? 俺はお前のこと嫌いだと罵ったんだぞ」
「あれだって、俺があの戦争から離れやすいように嫌われ役を演じてくれたんだろ? そんな気がするんだ」
するとシェドは、一瞬だけ黙った。富国強兵も、正義の味方が嫌いなのもシェドの本心には違いなかった。ただ、ラトラやキツナに厳しい処罰を与えることを伝えなかったこと、そして、サンそのものを嫌いだと告げたことは、彼のいう通り、サンに戦争を諦めさせるためという要素も含んでいた。
ただそれは、サンのためというよりは、これ以上サンを利用する罪悪感を自身が背負いたくなかったからだ。だからこそ、自分が感謝されるのは筋違いだと考えているシェドは、サンに対してこう告げる。
「随分おめでたい頭だな。なんだってそんなにポジティブに捉えるんだよ」
「カニバルに向かうときにさ、ネクから聞いたんだ。軍の民間人を虐げない規則を定めたのはシェドなんだろ? そしてシェドが、施設の子どもの食料を取り返して、あの子たちのこれからのために必要なものを入れたのも知ってる。だから俺はさ、そんなシェドに頼みたいことがあるんだ」
頼みたいこと。シェドはこの戦争が終わった後に彼からどんな言葉が発せられるのか身構えた。
しかし、サンの言動は、そんなシェドの想像を遥かに超えていた。
「なあ、シェド! ネクも連れてさ。これから3人で旅をしないか?」
「は?」
シェドは、サンの言葉をすぐに飲み込むことが出来ず、しばらく口をポカンと開けていた。そしてようやくサンの言葉を脳内で咀嚼し終わると、彼は、捲し立てるようにサンに言葉を発した。
「何言ってるんだ? お前。俺はお前のことを騙したし、何度も傷つけてるんだぞ! そんな俺を、お前、仲間に入れようっていうのか?」
「だって、シェドも神を探してるんだろ? だったらいいじゃないか。目的はほとんど一緒だし。なんだかんだ俺もさ、2人と戦うの、悪い気しなかったんだ」
「だとしたって……」
「もちろん最初はあんたに騙されてイラッと来たよ。でもさ、俺シェドに騙されなきゃ、こんなに強くなんてなれなかった。信念の力をさ、俺、シェドに教えてもらったんだ。だから思った。俺はシェドと一緒なら、もっと強くなれるって。だから行こうよ、シェド。俺、シェドと一緒にさ、旅がしたいんだ」
キラキラと目を輝かせて、シェドを見つめるサン。シェドは、そんな彼の目に戸惑っていた。
ヴォルファの元へ預けられた時も、ベアルガ王の元へ預けられた時も、シェドは、自分からその道を選んで進んでいったわけではなかった。母が死んで身寄りがないから、ヴォルファに破門されたから。そんなふうに彼はいつも他の行き先を封鎖されて、目の前の道を彼のやり方で進んでいったのだ。
しかし、今、彼の目の前にはいくつもの道が広がっている。
「ダメ、かな?」
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