5 / 33
とりつく島もない親子喧嘩
しおりを挟む
――「あの日」から九年と三六二日――
――青人視点――
俺の家には、朱音、白羽、俺、幸の四人が今、集まっている。そして、玄も後から来るそうだ。正直まさか全員集まることになるとは思っても見なかった。一応平日ではあるし、危険な目に会う可能性だってある。だから、誰かしらは、欠けても仕方がないと思っていたのだが。みんな気持ちは同じらしい。
時刻が十一時を回り、一刻も早く計画の方向性を決めたいところなので、玄を待たずに始めることにした。
「えーっと、今日集まってもらったのは、幸をあの蛇塚から、どうやって逃がすのかということです」
今朝ニュースで、日本軍が正式にドラゴンを捕まえることを発表した。だから、もう幸をどうするかという話ではなくて、幸をどう逃がすかという話になっている。
「では、白羽。敵の状況をお願いします」
「ああ」
朱音が目を丸くして言った。
「えっ。何であんたにそんなことが分かるのよ」
「敵に情報提供者がいるんだ。そいつに今朝、連絡をもらった」
白羽は、ここに集まる時間よりもずっと早くここに来て、俺に向こうの状況や軍に情報提供者がいることを教えてくれた。その人のことが少し心配ではあるが、白羽のことだ。無理にやらせているわけはないだろう。それにこちらとしても情報提供者の存在はとてもありがたい。
朱音もそれを分かっているのだろう。それ以上は何も聞かなかった。
「まず簡単にこの辺がどうなっているかを説明する。知っての通りこの辺には、東島、西島、南島、北島のでかい四つの島があって、その真ん中を空けた島の間に、人が生活できないほど小さい、平均直径二キロの島が四十くらいはある。だからいつも俺らの船は、内側を通っているし、小さい頃いくつかその島に行ったから分かると思う。
次に相手がどう攻めてくるかだが、海軍と空軍は出てこない。海軍は、地形的に船が攻め入るのは、島が邪魔で無理があるからだ。空軍は、幸が飛び続けることができないことを知って、飛行機があっても無駄になるって判断したんだろう。だから、敵になるのは陸軍だけになるんだが、軍隊は、四つの島用に大隊が十二、小さい島探索用の小隊が二十四ぐらいある。殺す気はなくて、麻酔銃の装備ぐらいしか持たせていないみたいだ」
それを聞き朱音が、少し明るく答えた。
「なんだ。思ったより少ないわね」
白羽は、それにつられて明るくなることはなく、暗い様子で話を続ける。
「軍の中にも蛇塚に不満を持ってるやつなんて大勢居る。そしてそういう態度が目立つやつらを蛇塚は、都市から遠い場所に配属させたんだ。だからこの作戦は都市に近い県に派遣されたやつだけで実行するんだと思う。それに人員不足も加わるし、自分のところにもある程度兵をおく必要があるだろうから、これが、今蛇塚が出せる最大戦力だろう。ただ一つ問題なのは、やつらは、四つの島に一つずつ対空ミサイルを置くつもりらしい」
朱音の顔が凍りついた。ちなみに俺と幸はもう話についていけていない。
「それって、当たったら死んじゃうじゃない」
「いや、一応威力は低めにしてあるんだが、それでも無事ではすまないだろうな」
俺はもう何がなんだか分からないため恐る恐る聞く。
「あのー。もう少し簡単に言うと・・・・・・・」
「でかい船なし、飛行機なしの鬼ごっこ。ルールは四つの島の上を通ってはだめよ」
朱音が、ものすごく強い声で言った。怖くはあったが、馬鹿でも分かる説明であったため俺は納得した。幸も納得したようで、白羽に質問ができたのがその証だろう。
「それで、私はどうすればいいの?」
「幸は、俺たちと一緒に四つの島以外で、軍がいない島を探して着地する。そして軍に見つかったら逃げる、それの繰り返しになると思う。それで凌ぐしかない」
幸は、不安そうな顔をしたが、俺を含めたほかの三人は分かっている。今日もあわせて、後三日で幸とはお別れになるということを。幸がどういう方法で帰るのかは分からないが、それまで耐え抜くことができれば、俺たちの勝ちなのだろう。
他に質問がないことを確認すると、白羽は俺たちにケータイで、あるメールを見せた。そこには、俺、朱音、玄、白羽の写真があった。
「これ、俺たちの写真だよな」
「軍は、こいつらの誰かを捕らえて人質にすれば必ずドラゴンは捕まえられると思っているらしい」
俺たちは、絶句した。この絶句は決して、自分の身が危なくなるからではない。そんなことは覚悟の上だ。ならなぜ絶句したかというと、この写真から最も厄介なものが敵にいることが分かってしまったからだ。
俺たちが言いたいことを朱音が代表して言ってくれた。
「ちょっと待って。あまりにも私たちのことを知りすぎてるわよ。これって・・・・・・」
おそらく幸に気を使っているのだろう。そこで止めた言葉を幸が代わりに続けた。
「お父さんが敵にいるってこと?」
白羽は、ゆっくりその発言に頷いた。
「ああ、守さんは、今回は敵だと考えたほうがいいだろう」
少しの間、場が沈黙した。幸は固まっていた。
父、竜泉守が敵。それは、父が幸を捕まえようとしていることをさす。それはあまりにも、幸にとって辛い現実だろう。
――親父。いったい何があったら娘を捕まえようなんてことになるんだよ。
考えれば考えるほど怒りが込みあがってきたとき、急に玄が上がりこんできた。
そして、自分を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸し、その後、俺たちに伝えた。
「やばいぞ、みんな。さっき守さんが来たんだけど、その後にものすごくたくさんの軍人が船でこの島に来てた」
白羽は、早口で玄に聞いた。
「ここに入るところ見られたか?」
「あ、悪い逃げることしか考えてなかった」
朱音が責めるように・・・・・・いや、実際に責めて、言った。
「このばか。そうすると、軍の人は玄関で待ち伏せてるのよね」
おそらく、入ってこないというのはそういうことなのだろう。
そうするとあの方法をしか出るすべはないな。非常事態だし祖父も許してくれるだろう。
「仕方がない、裏口から出よう」
「いや、裏口にも待ち伏せてるに決まってるじゃない。守さんがいるのよ」
「あっち側の方が少し広いんだよ」
その言葉に朱音は首を傾げたが、幸は逆に頷いた。
裏口に着くと、やはり少し人の気配がした。まああれをやってしまえば、関係ないが。
「幸、やってしまいなさ
い」
「うん」
昔、幸が、ドラゴンの姿で大怪我を負ってしまった時があった。病気のようなものは、人間化したほうが治療しやすいが、ドラゴンのときの外傷は、そうはいかない。細かいところまで治療ができなくなってしまう。そこで、竜泉家は、幸がドラゴンの姿でも、家に置けるように、少しだけ家を改装した。その結果によって、裏口の扉は大きくなり、裏口のすぐ近くの部屋は、かなり大きな部屋になっている。
幸は、俺に返事をすると、その部屋にすっぽりと収まるドラゴンの状態になった。そして、体に対しては短い前足を、いっぱいに伸ばして、今まさに、裏口の扉にでこピンをするようにセットした。
「みんな危ないから離れてろ」
俺がそう言い終わるのと同時に、幸が扉をはじいた。
扉は、ものすごい音をたてて、前方にまっすぐ飛んでいった。途中何人かの悲鳴が聞こえたが、軍の方々だろう。おそらく無事ではすまないだろうが、幸を戦争に駆り出そうとする連中である。手段を選ぶ気はない。
外に軍の人間がいないことを確認すると、唖然としているほか三人に向って言った。
「何やってんだ。今の音で玄関にいる軍がこっちに来ちまうぞ。早く行こう」
一番に外に飛び出したとき、左にいる人物の気配に気付いた。
この扉が出てくるのを予測していたのだろう。周りには、倒れているやつが何人もいるのに、その男は平然と麻酔銃を右手に持ち、こちらをにらみつけている。
俺は、立ち止まり、溢れ出る感情をにらみ返すことでそいつにぶつけた。
普通は、扉が飛び出してくるなんて思わない。例えドラゴンがいるとしてもそれは変わらないだろう。だが、俺という人間をよく知っていれば、こういう行動を予測することは可能かもしれない。だが、そんなことができるのは俺が知っている限り二人だけだ。それは幸と――。
「父さん」
目の前の男は、しばらく会っていなかったが、父であることに間違いはなかった。目の色といい、右手の麻酔銃といい、久しぶりの親子の再会には見えないが、その男は紛れもなく父であった。
「青人、何があったの」
幸を先頭に、次々外に出てきたとする四人に向って俺は大声を上げた。
「お前らは、先にここから逃げろ」
幸は、父の姿を見て悲しげな顔をして、立ち止まった。何か言おうとしたようだが、父の言葉にかき消された。
「行かせると思うのか」
そして麻酔銃を構えようとする父に、俺は砂を投げつけた。
砂は運のいいことにうまく父の目に入る。どうやら隙はつくことができたようだ。
俺は、いまだに立ち止まってる四人にさっきよりも大声で言った。
「とっとと行け。後で何とか合流する」
その声に白羽が何とか動いてくれた。
「ああ必ず合流しよう。ほら幸、ここは行かなきゃだめだ」
「で、でも」
まだためらっている幸に俺は、なだめるように言った。
「幸、俺は大丈夫。ただこのばか親父と話をしたいだけだ。それに今お前が飛ばないと結局みんな捕まることになる。だから早く行ってくれ」
そこまで言ったら、幸は動いてくれた。
「うん、分かった。青人も気をつけて。後で絶対に合流して」
「ああ、絶対だ」
俺は最後にそう言って幸たちが飛んでいくのを見送った。
幸たちが行った後、父は、持っていた水で目を流し、もう目が見えるようになっていた。
「青人。お前が残っても、人質にすればこっちが勝つ。そして、まだ何人も軍人がいる。無駄な抵抗はやめて降伏しろ」
分かっている。そんなことは百も承知だ。だが――。
「降伏はしないよ。俺は、今の父さんなんかに降伏なんてしない」
そして俺は、父と逆方向に走り出した
――朱音――
――強いなあ、幸は。
幸の背中には、何度か乗ったことがあった。だから、幸がどれくらい速く飛べるかはなんとなく分かっている。そして、今の幸の速度は、今までのどんなときよりも速い速度だというのも分かった。父親に目の前で裏切られたのにも関わらずだ。
だが、長い付き合いだ。ドラゴンの姿ではあるが幸が悲しげな顔をしているのも分かる。
「幸、大丈夫?」
そう聞くと幸は、きっと辛そうな表情を悟られたと思ったのだろう、顔を引き締めた。
『大丈夫、平気。そんなことより白羽、青人とはどこで合流するの?』
どう見ても大丈夫そうではない。
だが、確かに今大事なのはそっちである。実は、私も気になっていた。こういうとき落ち合う場所を決めていたわけではない。それなのにどうやって合流するのだろう。
私は、後にいる白羽のほうを向いて答えるよう促した。だが、白羽は黙ったままだった。
それをもう一つ後ろにいた玄が俯いて言った。
「合流する方法なんてないんだろう。あいつはそういう気持ちで残ったんだ」
「え?」
そういう気持ちとはなんだろうと思ったが、すぐに分かってしまった。青人が幸を危険な目に合わせようとするわけがない。だから、捕まえられる気なわけがない。だが、船で逃げ切れるとも思えない。つまり残る選択肢は一つ――。
死ぬ気だ。
私は、絶句したが、幸はそれほど驚いていなかった。それどころか、こう言ってのけた。
『そんなことだと思った』
私は、その言葉にも驚いたが、その真意をすぐに理解した。
なぜ理解したかというと、幸が一向に東島から離れていなくて、向っている先は、いかにも青人がいそうな場所だったからだ。
『青人は死なせない』
私は、きっと青人が助かるだろうという安堵感とともにあること思っていた。それは複雑でどんな感情かは分からない。だがきっと簡単にいえばこういうことだ。
きっと私は、幸には敵わないだろう。
しばらく幸が島の周りを飛んでいると、青人の姿が見えた。
――青人視点――
俺の家には、朱音、白羽、俺、幸の四人が今、集まっている。そして、玄も後から来るそうだ。正直まさか全員集まることになるとは思っても見なかった。一応平日ではあるし、危険な目に会う可能性だってある。だから、誰かしらは、欠けても仕方がないと思っていたのだが。みんな気持ちは同じらしい。
時刻が十一時を回り、一刻も早く計画の方向性を決めたいところなので、玄を待たずに始めることにした。
「えーっと、今日集まってもらったのは、幸をあの蛇塚から、どうやって逃がすのかということです」
今朝ニュースで、日本軍が正式にドラゴンを捕まえることを発表した。だから、もう幸をどうするかという話ではなくて、幸をどう逃がすかという話になっている。
「では、白羽。敵の状況をお願いします」
「ああ」
朱音が目を丸くして言った。
「えっ。何であんたにそんなことが分かるのよ」
「敵に情報提供者がいるんだ。そいつに今朝、連絡をもらった」
白羽は、ここに集まる時間よりもずっと早くここに来て、俺に向こうの状況や軍に情報提供者がいることを教えてくれた。その人のことが少し心配ではあるが、白羽のことだ。無理にやらせているわけはないだろう。それにこちらとしても情報提供者の存在はとてもありがたい。
朱音もそれを分かっているのだろう。それ以上は何も聞かなかった。
「まず簡単にこの辺がどうなっているかを説明する。知っての通りこの辺には、東島、西島、南島、北島のでかい四つの島があって、その真ん中を空けた島の間に、人が生活できないほど小さい、平均直径二キロの島が四十くらいはある。だからいつも俺らの船は、内側を通っているし、小さい頃いくつかその島に行ったから分かると思う。
次に相手がどう攻めてくるかだが、海軍と空軍は出てこない。海軍は、地形的に船が攻め入るのは、島が邪魔で無理があるからだ。空軍は、幸が飛び続けることができないことを知って、飛行機があっても無駄になるって判断したんだろう。だから、敵になるのは陸軍だけになるんだが、軍隊は、四つの島用に大隊が十二、小さい島探索用の小隊が二十四ぐらいある。殺す気はなくて、麻酔銃の装備ぐらいしか持たせていないみたいだ」
それを聞き朱音が、少し明るく答えた。
「なんだ。思ったより少ないわね」
白羽は、それにつられて明るくなることはなく、暗い様子で話を続ける。
「軍の中にも蛇塚に不満を持ってるやつなんて大勢居る。そしてそういう態度が目立つやつらを蛇塚は、都市から遠い場所に配属させたんだ。だからこの作戦は都市に近い県に派遣されたやつだけで実行するんだと思う。それに人員不足も加わるし、自分のところにもある程度兵をおく必要があるだろうから、これが、今蛇塚が出せる最大戦力だろう。ただ一つ問題なのは、やつらは、四つの島に一つずつ対空ミサイルを置くつもりらしい」
朱音の顔が凍りついた。ちなみに俺と幸はもう話についていけていない。
「それって、当たったら死んじゃうじゃない」
「いや、一応威力は低めにしてあるんだが、それでも無事ではすまないだろうな」
俺はもう何がなんだか分からないため恐る恐る聞く。
「あのー。もう少し簡単に言うと・・・・・・・」
「でかい船なし、飛行機なしの鬼ごっこ。ルールは四つの島の上を通ってはだめよ」
朱音が、ものすごく強い声で言った。怖くはあったが、馬鹿でも分かる説明であったため俺は納得した。幸も納得したようで、白羽に質問ができたのがその証だろう。
「それで、私はどうすればいいの?」
「幸は、俺たちと一緒に四つの島以外で、軍がいない島を探して着地する。そして軍に見つかったら逃げる、それの繰り返しになると思う。それで凌ぐしかない」
幸は、不安そうな顔をしたが、俺を含めたほかの三人は分かっている。今日もあわせて、後三日で幸とはお別れになるということを。幸がどういう方法で帰るのかは分からないが、それまで耐え抜くことができれば、俺たちの勝ちなのだろう。
他に質問がないことを確認すると、白羽は俺たちにケータイで、あるメールを見せた。そこには、俺、朱音、玄、白羽の写真があった。
「これ、俺たちの写真だよな」
「軍は、こいつらの誰かを捕らえて人質にすれば必ずドラゴンは捕まえられると思っているらしい」
俺たちは、絶句した。この絶句は決して、自分の身が危なくなるからではない。そんなことは覚悟の上だ。ならなぜ絶句したかというと、この写真から最も厄介なものが敵にいることが分かってしまったからだ。
俺たちが言いたいことを朱音が代表して言ってくれた。
「ちょっと待って。あまりにも私たちのことを知りすぎてるわよ。これって・・・・・・」
おそらく幸に気を使っているのだろう。そこで止めた言葉を幸が代わりに続けた。
「お父さんが敵にいるってこと?」
白羽は、ゆっくりその発言に頷いた。
「ああ、守さんは、今回は敵だと考えたほうがいいだろう」
少しの間、場が沈黙した。幸は固まっていた。
父、竜泉守が敵。それは、父が幸を捕まえようとしていることをさす。それはあまりにも、幸にとって辛い現実だろう。
――親父。いったい何があったら娘を捕まえようなんてことになるんだよ。
考えれば考えるほど怒りが込みあがってきたとき、急に玄が上がりこんできた。
そして、自分を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸し、その後、俺たちに伝えた。
「やばいぞ、みんな。さっき守さんが来たんだけど、その後にものすごくたくさんの軍人が船でこの島に来てた」
白羽は、早口で玄に聞いた。
「ここに入るところ見られたか?」
「あ、悪い逃げることしか考えてなかった」
朱音が責めるように・・・・・・いや、実際に責めて、言った。
「このばか。そうすると、軍の人は玄関で待ち伏せてるのよね」
おそらく、入ってこないというのはそういうことなのだろう。
そうするとあの方法をしか出るすべはないな。非常事態だし祖父も許してくれるだろう。
「仕方がない、裏口から出よう」
「いや、裏口にも待ち伏せてるに決まってるじゃない。守さんがいるのよ」
「あっち側の方が少し広いんだよ」
その言葉に朱音は首を傾げたが、幸は逆に頷いた。
裏口に着くと、やはり少し人の気配がした。まああれをやってしまえば、関係ないが。
「幸、やってしまいなさ
い」
「うん」
昔、幸が、ドラゴンの姿で大怪我を負ってしまった時があった。病気のようなものは、人間化したほうが治療しやすいが、ドラゴンのときの外傷は、そうはいかない。細かいところまで治療ができなくなってしまう。そこで、竜泉家は、幸がドラゴンの姿でも、家に置けるように、少しだけ家を改装した。その結果によって、裏口の扉は大きくなり、裏口のすぐ近くの部屋は、かなり大きな部屋になっている。
幸は、俺に返事をすると、その部屋にすっぽりと収まるドラゴンの状態になった。そして、体に対しては短い前足を、いっぱいに伸ばして、今まさに、裏口の扉にでこピンをするようにセットした。
「みんな危ないから離れてろ」
俺がそう言い終わるのと同時に、幸が扉をはじいた。
扉は、ものすごい音をたてて、前方にまっすぐ飛んでいった。途中何人かの悲鳴が聞こえたが、軍の方々だろう。おそらく無事ではすまないだろうが、幸を戦争に駆り出そうとする連中である。手段を選ぶ気はない。
外に軍の人間がいないことを確認すると、唖然としているほか三人に向って言った。
「何やってんだ。今の音で玄関にいる軍がこっちに来ちまうぞ。早く行こう」
一番に外に飛び出したとき、左にいる人物の気配に気付いた。
この扉が出てくるのを予測していたのだろう。周りには、倒れているやつが何人もいるのに、その男は平然と麻酔銃を右手に持ち、こちらをにらみつけている。
俺は、立ち止まり、溢れ出る感情をにらみ返すことでそいつにぶつけた。
普通は、扉が飛び出してくるなんて思わない。例えドラゴンがいるとしてもそれは変わらないだろう。だが、俺という人間をよく知っていれば、こういう行動を予測することは可能かもしれない。だが、そんなことができるのは俺が知っている限り二人だけだ。それは幸と――。
「父さん」
目の前の男は、しばらく会っていなかったが、父であることに間違いはなかった。目の色といい、右手の麻酔銃といい、久しぶりの親子の再会には見えないが、その男は紛れもなく父であった。
「青人、何があったの」
幸を先頭に、次々外に出てきたとする四人に向って俺は大声を上げた。
「お前らは、先にここから逃げろ」
幸は、父の姿を見て悲しげな顔をして、立ち止まった。何か言おうとしたようだが、父の言葉にかき消された。
「行かせると思うのか」
そして麻酔銃を構えようとする父に、俺は砂を投げつけた。
砂は運のいいことにうまく父の目に入る。どうやら隙はつくことができたようだ。
俺は、いまだに立ち止まってる四人にさっきよりも大声で言った。
「とっとと行け。後で何とか合流する」
その声に白羽が何とか動いてくれた。
「ああ必ず合流しよう。ほら幸、ここは行かなきゃだめだ」
「で、でも」
まだためらっている幸に俺は、なだめるように言った。
「幸、俺は大丈夫。ただこのばか親父と話をしたいだけだ。それに今お前が飛ばないと結局みんな捕まることになる。だから早く行ってくれ」
そこまで言ったら、幸は動いてくれた。
「うん、分かった。青人も気をつけて。後で絶対に合流して」
「ああ、絶対だ」
俺は最後にそう言って幸たちが飛んでいくのを見送った。
幸たちが行った後、父は、持っていた水で目を流し、もう目が見えるようになっていた。
「青人。お前が残っても、人質にすればこっちが勝つ。そして、まだ何人も軍人がいる。無駄な抵抗はやめて降伏しろ」
分かっている。そんなことは百も承知だ。だが――。
「降伏はしないよ。俺は、今の父さんなんかに降伏なんてしない」
そして俺は、父と逆方向に走り出した
――朱音――
――強いなあ、幸は。
幸の背中には、何度か乗ったことがあった。だから、幸がどれくらい速く飛べるかはなんとなく分かっている。そして、今の幸の速度は、今までのどんなときよりも速い速度だというのも分かった。父親に目の前で裏切られたのにも関わらずだ。
だが、長い付き合いだ。ドラゴンの姿ではあるが幸が悲しげな顔をしているのも分かる。
「幸、大丈夫?」
そう聞くと幸は、きっと辛そうな表情を悟られたと思ったのだろう、顔を引き締めた。
『大丈夫、平気。そんなことより白羽、青人とはどこで合流するの?』
どう見ても大丈夫そうではない。
だが、確かに今大事なのはそっちである。実は、私も気になっていた。こういうとき落ち合う場所を決めていたわけではない。それなのにどうやって合流するのだろう。
私は、後にいる白羽のほうを向いて答えるよう促した。だが、白羽は黙ったままだった。
それをもう一つ後ろにいた玄が俯いて言った。
「合流する方法なんてないんだろう。あいつはそういう気持ちで残ったんだ」
「え?」
そういう気持ちとはなんだろうと思ったが、すぐに分かってしまった。青人が幸を危険な目に合わせようとするわけがない。だから、捕まえられる気なわけがない。だが、船で逃げ切れるとも思えない。つまり残る選択肢は一つ――。
死ぬ気だ。
私は、絶句したが、幸はそれほど驚いていなかった。それどころか、こう言ってのけた。
『そんなことだと思った』
私は、その言葉にも驚いたが、その真意をすぐに理解した。
なぜ理解したかというと、幸が一向に東島から離れていなくて、向っている先は、いかにも青人がいそうな場所だったからだ。
『青人は死なせない』
私は、きっと青人が助かるだろうという安堵感とともにあること思っていた。それは複雑でどんな感情かは分からない。だがきっと簡単にいえばこういうことだ。
きっと私は、幸には敵わないだろう。
しばらく幸が島の周りを飛んでいると、青人の姿が見えた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる