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第一章
第3話 もう一度
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「流石に学食も落ち着いてきたな」
「本格的に授業も始まって忙しくなってきたしな」
暦の新歓から数日、透と智哉は早くも定位置となった窓際の席で昼食を取っていた。
「智哉、それでサークルの方はどうなんだ?」
「まだ本格的に活動は始まってないよ。まだ部活で言う仮入部期間みたいな感じらしくてこの前は軽く自己紹介とかしただけ」
「ふーん」
透はナンをチキンカレーにつけ口に運ぶ。これがまた美味なのだ。芳醇なスパイスの香りともちもちとしたナンが絶妙にルーと絡み合い、透は舌鼓を打った。
この大学は学食のレベルが何故か無駄に高く、わざわざこの学食を食べにくる人もいるらしい。透が食べているカレーも本場仕込みのインド人が調理している。
「透はサークル入らないのか?」
智哉が石焼ビビンバを口に運びながら聞いてくる。
「うーん。気になってるのはいくつかあるんだけどなんかいまいちピンと来なくて。まあ別に強制じゃないし入らなくてもいいかなって」
「もったいねえなぁ。花の大学生だぞ。もっと青春しろよ」
「んなこと言われても」
ナンの二口目を口に運ぼうとした時だった。
「隣いいですか?」
「あぁ、どうぞ……っ」
隣に座ってきたのは桜だった。
「佐野君、岡村君、こんにちは」
桜は昼の挨拶もそこそこに手を合わせて小さな声で「いただきます」と言い、ざるそばに手を付け始める。
「こんにちは、田宮さん」
智哉は手を止めて桜に挨拶を返す。
「なんでわざわざ俺の隣なんだよ……」
透は少し不服そうな視線を桜に向ける。
「サークルに誘うため」
「またそれか……」
「この前、新歓が終わって家に帰った後に中学の頃に私たちが受賞した作文の文集を読み返してみたの」
桜はざるそばを一口食べ、透に向き直る。
「やっぱり佐野君は文章書く才能ある。私、佐野君が書いた小説読んでみたい」
「俺も、透は文才あると思うな」
「智哉まで」
透はため息をつく。
「俺もあの後文集読んでみたんだよ。俺が読んだのは卒業文集だから田宮さんが読んだのとは違うけど。なんというかさ、引き込まれる感じするんだ、透の文章って」
「おだてても何も出ないぞ」
「別にそんなつもりないって。超読書家の俺と現役小説家の田宮さんが言ってるんだから少しは納得しろよ」
「それに、私の父さんも同じことを言ってるわ」
透は桜の信じがたい言葉に手を止めた。
「……え?」
「知らない? 私の父さん、田宮孝一郎。一応有名な小説家なのだけれど」
「い、いやもちろん知ってるけど。なんでその有名な小説家が俺のこと褒めてるんだ?」
「私が作文見せたの。そしたら『中学生が書いた文とは思えない』だって」
あまりの衝撃に透は言葉を失っていた。田宮孝一郎と言えば普段から小説を読まない人でさえ知っているようなビッグネームだ。
透は自分の書いたその作文に全く自信が無い訳ではない。一応校内で代表に選ばれ、県内で一位を取ったのだから文才に多少の自負はあった。
しかしたかが作文で、それも中学の頃に書いたものだ。それがいま小説を書く自信に繋がるかと言えばそうとは思わない。
だが、あの田宮孝一郎が認めたとなれば話は違ってくる。
「……その話、本当なのか?」
「流石にこんな嘘はつかない」
「……そっか」
透は乾燥し、表面がパリパリになったナンを残ったカレーに浸し、無理やり口に押し込み、水で流し込んだ。
「じゃあ俺、三限あるから」
そう言って透は立ち上がった。
「お、おう。また後でな」
「ああ」
透は人ごみの中へ消えていった。
「佐野君、入ってくれるかな」
「どうだろ。まあ明日にでも分かるんじゃないかな」
「え?」
「そんな事よりそば、伸びちゃうよ」
「それもそうね」
ほどなくして、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
帰宅後、透はもう一度件の文集を読んでいた。やはり何度読んでも中学生が書いた、少し優秀なだけの文だ。しかしこれが色々な人に評価されている。
もう一度、もう一度だけ、やってみる価値はあるかもしれない。
透は文集を本棚に入れ、少し笑った。
「本格的に授業も始まって忙しくなってきたしな」
暦の新歓から数日、透と智哉は早くも定位置となった窓際の席で昼食を取っていた。
「智哉、それでサークルの方はどうなんだ?」
「まだ本格的に活動は始まってないよ。まだ部活で言う仮入部期間みたいな感じらしくてこの前は軽く自己紹介とかしただけ」
「ふーん」
透はナンをチキンカレーにつけ口に運ぶ。これがまた美味なのだ。芳醇なスパイスの香りともちもちとしたナンが絶妙にルーと絡み合い、透は舌鼓を打った。
この大学は学食のレベルが何故か無駄に高く、わざわざこの学食を食べにくる人もいるらしい。透が食べているカレーも本場仕込みのインド人が調理している。
「透はサークル入らないのか?」
智哉が石焼ビビンバを口に運びながら聞いてくる。
「うーん。気になってるのはいくつかあるんだけどなんかいまいちピンと来なくて。まあ別に強制じゃないし入らなくてもいいかなって」
「もったいねえなぁ。花の大学生だぞ。もっと青春しろよ」
「んなこと言われても」
ナンの二口目を口に運ぼうとした時だった。
「隣いいですか?」
「あぁ、どうぞ……っ」
隣に座ってきたのは桜だった。
「佐野君、岡村君、こんにちは」
桜は昼の挨拶もそこそこに手を合わせて小さな声で「いただきます」と言い、ざるそばに手を付け始める。
「こんにちは、田宮さん」
智哉は手を止めて桜に挨拶を返す。
「なんでわざわざ俺の隣なんだよ……」
透は少し不服そうな視線を桜に向ける。
「サークルに誘うため」
「またそれか……」
「この前、新歓が終わって家に帰った後に中学の頃に私たちが受賞した作文の文集を読み返してみたの」
桜はざるそばを一口食べ、透に向き直る。
「やっぱり佐野君は文章書く才能ある。私、佐野君が書いた小説読んでみたい」
「俺も、透は文才あると思うな」
「智哉まで」
透はため息をつく。
「俺もあの後文集読んでみたんだよ。俺が読んだのは卒業文集だから田宮さんが読んだのとは違うけど。なんというかさ、引き込まれる感じするんだ、透の文章って」
「おだてても何も出ないぞ」
「別にそんなつもりないって。超読書家の俺と現役小説家の田宮さんが言ってるんだから少しは納得しろよ」
「それに、私の父さんも同じことを言ってるわ」
透は桜の信じがたい言葉に手を止めた。
「……え?」
「知らない? 私の父さん、田宮孝一郎。一応有名な小説家なのだけれど」
「い、いやもちろん知ってるけど。なんでその有名な小説家が俺のこと褒めてるんだ?」
「私が作文見せたの。そしたら『中学生が書いた文とは思えない』だって」
あまりの衝撃に透は言葉を失っていた。田宮孝一郎と言えば普段から小説を読まない人でさえ知っているようなビッグネームだ。
透は自分の書いたその作文に全く自信が無い訳ではない。一応校内で代表に選ばれ、県内で一位を取ったのだから文才に多少の自負はあった。
しかしたかが作文で、それも中学の頃に書いたものだ。それがいま小説を書く自信に繋がるかと言えばそうとは思わない。
だが、あの田宮孝一郎が認めたとなれば話は違ってくる。
「……その話、本当なのか?」
「流石にこんな嘘はつかない」
「……そっか」
透は乾燥し、表面がパリパリになったナンを残ったカレーに浸し、無理やり口に押し込み、水で流し込んだ。
「じゃあ俺、三限あるから」
そう言って透は立ち上がった。
「お、おう。また後でな」
「ああ」
透は人ごみの中へ消えていった。
「佐野君、入ってくれるかな」
「どうだろ。まあ明日にでも分かるんじゃないかな」
「え?」
「そんな事よりそば、伸びちゃうよ」
「それもそうね」
ほどなくして、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
帰宅後、透はもう一度件の文集を読んでいた。やはり何度読んでも中学生が書いた、少し優秀なだけの文だ。しかしこれが色々な人に評価されている。
もう一度、もう一度だけ、やってみる価値はあるかもしれない。
透は文集を本棚に入れ、少し笑った。
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