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第一章
第5話 入部
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「ここだよ」
透は桜に案内されて部室の前に来ていた。
部室棟である四号館は正門から一番遠い場所に位置しており、『暦』の部室は最上階である五階の一番奥にあった。
「ずいぶんと遠いな」
「ほんとにね。ここに来るだけで疲れちゃう」
そう言って桜は引き戸の取っ手に手をかけた。
「こんにちは」
「お疲れ様、桜ちゃん。あれ、後ろの君は……」
桜に挨拶を返した先輩が透の存在に気付く。
「どうも。このサークルに入りたくて田宮さんに案内してもらいました」
「ああ!この前の新歓に来てくれてたよね。確か名前は……」
「佐野です。佐野透です」
「そうだ佐野君だ。来てくれてありがとうね。私は谷夕日って言います。って、前も自己紹介したよね」
「はい」
「ちょっと待っててね」
正直全く名前を憶えていなかったので助かったと思いながらその場で待ってると、奥から部長と思しき人物が現れた。
「えっと佐野君、でいいのかな。初めまして。僕は部長の小野寺聡です。よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
挨拶もそこそこに聡に近くの椅子に座るように促される。そこまで広くない部室の中を見回すと文芸サークルだけあって所狭しと本が置いてあった。太宰治や夏目漱石など日本文学の定番はもちろん、ミステリーやライトノベルなど、種類は様々だ。
「うちは文芸サークルって言っても色んな趣向の人がいるからね。置いている本の種類も幅広いんだ」
透が思ったことをそのまま言ってくる。初めて部室に来た人はみな同じ反応をするのだろう。
「これ、入部届。ここに学部と学科、学年と名前を書いてもらってもいい?」
「わかりました」
透は言われたとおりに記入して入部届を聡に渡した。
「ありがとう。お、法学部なんだ。めずらしいね。うちに来てくれた理由はなにかあるのかな」
入部届を一瞥して透に聞く。
「友達とそこの田宮さんに誘われて」
「そうなんだ。その友達ってのは?」
「えっと、岡村智哉ってやつです。わかりますかね」
「わかるわかる。ちょっとチャラい感じで眼鏡かけてるよね」
「そうですそいつです」
「田宮さんとも元々知り合いだったの?」
「僕は全く覚えてなかったんですが昔に何回か会ってたみたいです」
「そうなんです」
そう言いながら桜が話に割り込んでくる。
「佐野君、中学の頃私が狙ってた作文コンクールの金賞を何回も取ってたんです。私はいつも銀賞で悔しくて覚えてたのに佐野君は全然私の事覚えてなかったんですよ」
「田宮さんを差し置いて金賞か、すごいな。ってことは普段から小説を書いたりしてるのかな」
「……いえ、文章を書いたのはそれっきりです」
透の表情が少し曇る。
「そっか。サークルでは何か創作したいのかな。それとも読み専かな。どっちでも歓迎するけど」
透の表情には特に気づいた様子はなく質問を投げかけてくる。
「一応、小説を書けたらと思ってます」
「いいね。書き手はそんなにいないから嬉しいよ」
聡は透に対して軽くサークルについての説明をしてくれた。サークルの部員は二,三年生で合計二十五人だということ。この部室を『BOX』と呼んでいること。作品を発表する機会は五月に行われる学生文芸展と十一月に行われる学祭の計二回だということ。
「なにか質問はあるかな」
「その文芸展はしっかり講評とかして貰えるんでしょうか」
「そうだね。一次審査を通った作品は現役作家や出版社の編集の人が作品一つ一つ講評してくれるよ。あと一応だけど順位も付けられる」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいえ。あ、あと活動日は毎週火曜日の五限の後だけどBOXはほぼ毎日空いてるから好きな時に来ていいよ」
「はい」
そう言って透は立ち上がった。
「今日はもう帰り?」
「はい。これからよろしくお願いします」
「うん。よろしく」
先輩たちや桜に背を向けて透はBOXを後にした。
今日はいいことが聞けた。学生文芸展では講評をして貰えるうえに順位まで付けられる。このことは透にとって好都合だった。
「これで自分の作品が認められれば……」
そう呟いて大学の正門をくぐる。
春も暮れ始めた五月の夕日は、静かに燃えていた。
透は桜に案内されて部室の前に来ていた。
部室棟である四号館は正門から一番遠い場所に位置しており、『暦』の部室は最上階である五階の一番奥にあった。
「ずいぶんと遠いな」
「ほんとにね。ここに来るだけで疲れちゃう」
そう言って桜は引き戸の取っ手に手をかけた。
「こんにちは」
「お疲れ様、桜ちゃん。あれ、後ろの君は……」
桜に挨拶を返した先輩が透の存在に気付く。
「どうも。このサークルに入りたくて田宮さんに案内してもらいました」
「ああ!この前の新歓に来てくれてたよね。確か名前は……」
「佐野です。佐野透です」
「そうだ佐野君だ。来てくれてありがとうね。私は谷夕日って言います。って、前も自己紹介したよね」
「はい」
「ちょっと待っててね」
正直全く名前を憶えていなかったので助かったと思いながらその場で待ってると、奥から部長と思しき人物が現れた。
「えっと佐野君、でいいのかな。初めまして。僕は部長の小野寺聡です。よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
挨拶もそこそこに聡に近くの椅子に座るように促される。そこまで広くない部室の中を見回すと文芸サークルだけあって所狭しと本が置いてあった。太宰治や夏目漱石など日本文学の定番はもちろん、ミステリーやライトノベルなど、種類は様々だ。
「うちは文芸サークルって言っても色んな趣向の人がいるからね。置いている本の種類も幅広いんだ」
透が思ったことをそのまま言ってくる。初めて部室に来た人はみな同じ反応をするのだろう。
「これ、入部届。ここに学部と学科、学年と名前を書いてもらってもいい?」
「わかりました」
透は言われたとおりに記入して入部届を聡に渡した。
「ありがとう。お、法学部なんだ。めずらしいね。うちに来てくれた理由はなにかあるのかな」
入部届を一瞥して透に聞く。
「友達とそこの田宮さんに誘われて」
「そうなんだ。その友達ってのは?」
「えっと、岡村智哉ってやつです。わかりますかね」
「わかるわかる。ちょっとチャラい感じで眼鏡かけてるよね」
「そうですそいつです」
「田宮さんとも元々知り合いだったの?」
「僕は全く覚えてなかったんですが昔に何回か会ってたみたいです」
「そうなんです」
そう言いながら桜が話に割り込んでくる。
「佐野君、中学の頃私が狙ってた作文コンクールの金賞を何回も取ってたんです。私はいつも銀賞で悔しくて覚えてたのに佐野君は全然私の事覚えてなかったんですよ」
「田宮さんを差し置いて金賞か、すごいな。ってことは普段から小説を書いたりしてるのかな」
「……いえ、文章を書いたのはそれっきりです」
透の表情が少し曇る。
「そっか。サークルでは何か創作したいのかな。それとも読み専かな。どっちでも歓迎するけど」
透の表情には特に気づいた様子はなく質問を投げかけてくる。
「一応、小説を書けたらと思ってます」
「いいね。書き手はそんなにいないから嬉しいよ」
聡は透に対して軽くサークルについての説明をしてくれた。サークルの部員は二,三年生で合計二十五人だということ。この部室を『BOX』と呼んでいること。作品を発表する機会は五月に行われる学生文芸展と十一月に行われる学祭の計二回だということ。
「なにか質問はあるかな」
「その文芸展はしっかり講評とかして貰えるんでしょうか」
「そうだね。一次審査を通った作品は現役作家や出版社の編集の人が作品一つ一つ講評してくれるよ。あと一応だけど順位も付けられる」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいえ。あ、あと活動日は毎週火曜日の五限の後だけどBOXはほぼ毎日空いてるから好きな時に来ていいよ」
「はい」
そう言って透は立ち上がった。
「今日はもう帰り?」
「はい。これからよろしくお願いします」
「うん。よろしく」
先輩たちや桜に背を向けて透はBOXを後にした。
今日はいいことが聞けた。学生文芸展では講評をして貰えるうえに順位まで付けられる。このことは透にとって好都合だった。
「これで自分の作品が認められれば……」
そう呟いて大学の正門をくぐる。
春も暮れ始めた五月の夕日は、静かに燃えていた。
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