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第一章
第6話 傾向と対策
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「あんなに頑なに入らないって言ってたのにまさか入るとはな」
綺麗に盛り付けられたフワフワのオムライスを崩しながら智哉は驚き半分呆れ半分で透に話しかける。
「気が変わったんだ」
智哉の言葉を受け流して透はラーメンをすする。相変わらず学食のクオリティとは思えない味だ。醤油ベースのスープは鶏の出汁の中にほのかに魚介が香る。そしてそのスープが中細の縮れ麺によく絡む。店主のこだわりを感じる逸品だ。
「田宮さんか?」
透は無言でラーメンをすする。
「図星かよ。まああんなこと言われれば誰だってやる気になるわな」
「俺は何も言ってないぞ」
「じゃあ他に何があるってんだよ……ともかく、小説は書くんだろ?」
「まあな」
「どんな話かくんだ?」
「いや、まだ決まってない」
「そっか。まあ昨日の今日で決まるわけないか」
「なあ智哉。今ってどんな小説が流行ってるんだ?」
一旦箸をおいて智哉に向き直る。
「流行りかぁ……小説は音楽みたいに特定の流行りはない気がするけど、恋愛ものとかはコンスタントに人気なんじゃないかな。泣ける系のやつ」
「なるほど、恋愛系か。確かによく見る気がするな」
「透は普段どんな小説読むの?よく読んでるやつ書いてみればいいんじゃないかな」
「俺はミステリーばっか読んでる。さすがにミステリーは一朝一夕で書けるもんじゃないからな」
「それはそうだな」
話している間に二人の皿は空になっていた。
「もうそろそろ昼休み終わりだな。智哉、今日授業何限まで?」
「三限で終わり。」
「ちょうどよかった。俺も三限で終わりだから一緒にBOX行かないか?ちょっと見たいものがあるんだ」
「了解。また連絡するわ」
二人は一旦分かれてそれぞれの教室に向かった。
「こんにちは」
透と智哉は三限を終えてBOXに訪れていた。
「あ、二人ともいいところに来た」
そう話しかけてきたのは一個上の先輩、夕日だった。夕日はいつもBOXにいる気がする。
「この棚少し移動させたいんだけど女子二人じゃうんともすんとも言わなくて」
その片割れは初めて見る先輩だった。長い髪を後ろで一つに束ねた女子の先輩は高津澪と名乗った。
透と智哉は自己紹介もそこそこに棚を夕日の指示通りに移動させた。
「ありがとね、二人とも」
「いえ、とんでもないです」
「困ってたから助かったわ」
澪はそう言ってパイプ椅子に座り足を組む。組まれた足はスラっと長く、スタイルがとてもいいようだ。少し話してみた感じ姉御タイプで男女ともに人気がありそうだ。
「二人とも一年生だったよね。今日は活動日じゃないけど、何か用事?」
「俺はこいつの付き添いで」
智哉が親指で透を指す。
「あ、はい。過去の学生文芸展に出展された作品をまとめたものがあったら見たくて……ありますかね」
「作品集はあると思うけど、私BOXあんま来ないからどこにあるかわかんないや。夕日ちゃん、どこにあるかわかる?」
「それならちょうどさっき動かした棚に並べてありますよ」
「ありがとー。だって、好きに取って読んでもいいよ」
「はい。ありがとうございます」
透は立ち上がり棚の中から『令和元年度 第四十七回学生文芸展 作品集』と書かれた冊子を手に取った。去年のものだ。
「一年生なのに熱心だね。どうしてまた作品集なんか?」
「どんな作風の作品が入選してるのか知っておきたくて」
文集に目を通しながら答える。そしてある一点に目が留まる。
「高津先輩、去年の学生文芸展で賞取ってるんですね」
「澪でいいわよ。次のページも見てみて」
そう言われて次のページをめくるとそこには谷夕日の名前があった。
「谷先輩も、すごい」
「ありがとう。でも私のは佳作だから」
夕日は照れ隠ししながらも透の称賛を受け取った。
透は十分ほど作品集を読んで顔を上げた。
「学校ものと言うか、学生が主人公の物語が多いですね」
「学展……ああ学生文芸展の略ね。学展はみんな学生が作品を書いてるわけだから、書きやすいし必然的にそうなっちゃうのかもね」
「先輩方はどんなのを書いたんですか?」
横でもっと昔の作品集を読んでいた智哉が尋ねる。
「どちっちも学生が主人公の物語よ。よかったら後で読んでみて」
「そうさせて貰います」
透はしばらく黙った後に口を開いた。
「作品集、十年分くらい借りていってもいいですか?」
「たぶん大丈夫だと思うよ。作品集って少しの間持って帰っても大丈夫よね、夕日ちゃん」
奥で棚の整理をしていた夕日に少し大きな声で聞く。よく通る綺麗な声だった。
「はーい。綺麗に読んでくれれば大丈夫ですよー」
澪に対して夕日の声は少し間の抜けた声だった。
「らしいよ。作品の研究、頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
そう言って透は立ち上がった。
「あれ、もういいのか?」
「ああ。見たいもの見れたし続きは家帰ってからにするよ」
「そっかじゃあ俺も帰ろうかな」
「じゃあ、俺たちはこれで」
「うん。私はあんまBOXにはいないけどいつでも来てね」
「私はいつでもいるよー」
「夕日ちゃんはいすぎよ」
と澪は笑った。
透と智哉は二人の先輩に挨拶をしてBOXを後にした。
「で、何かつかめたか?」
帰り道、二人は最寄りの駅まで一緒に歩いていた。
「ああ。とりあえず主人公は学生にしようと思う。ざっと見た感じ入選してるのはほとんどが学生が主人公の物語だ」
「なるほどな。ま、傾向と対策は大事だわな」
特に返事をすることもなく二人は黙って歩く。元々お互い口数が多い方じゃないので昔から二人でいるとなんの会話もないことは少なくなかった。
「じゃ、俺このままバイト行くからここで」
「ああ。ついてきてくれてありがとな」
「いんや、別に。またなにかあったら声かけてくれ。じゃあまた」
「また」
智哉に別れを告げ透は駅のホームへ向かう。
電車の出発を告げるベルが、駅構内に鳴り響ていた。
綺麗に盛り付けられたフワフワのオムライスを崩しながら智哉は驚き半分呆れ半分で透に話しかける。
「気が変わったんだ」
智哉の言葉を受け流して透はラーメンをすする。相変わらず学食のクオリティとは思えない味だ。醤油ベースのスープは鶏の出汁の中にほのかに魚介が香る。そしてそのスープが中細の縮れ麺によく絡む。店主のこだわりを感じる逸品だ。
「田宮さんか?」
透は無言でラーメンをすする。
「図星かよ。まああんなこと言われれば誰だってやる気になるわな」
「俺は何も言ってないぞ」
「じゃあ他に何があるってんだよ……ともかく、小説は書くんだろ?」
「まあな」
「どんな話かくんだ?」
「いや、まだ決まってない」
「そっか。まあ昨日の今日で決まるわけないか」
「なあ智哉。今ってどんな小説が流行ってるんだ?」
一旦箸をおいて智哉に向き直る。
「流行りかぁ……小説は音楽みたいに特定の流行りはない気がするけど、恋愛ものとかはコンスタントに人気なんじゃないかな。泣ける系のやつ」
「なるほど、恋愛系か。確かによく見る気がするな」
「透は普段どんな小説読むの?よく読んでるやつ書いてみればいいんじゃないかな」
「俺はミステリーばっか読んでる。さすがにミステリーは一朝一夕で書けるもんじゃないからな」
「それはそうだな」
話している間に二人の皿は空になっていた。
「もうそろそろ昼休み終わりだな。智哉、今日授業何限まで?」
「三限で終わり。」
「ちょうどよかった。俺も三限で終わりだから一緒にBOX行かないか?ちょっと見たいものがあるんだ」
「了解。また連絡するわ」
二人は一旦分かれてそれぞれの教室に向かった。
「こんにちは」
透と智哉は三限を終えてBOXに訪れていた。
「あ、二人ともいいところに来た」
そう話しかけてきたのは一個上の先輩、夕日だった。夕日はいつもBOXにいる気がする。
「この棚少し移動させたいんだけど女子二人じゃうんともすんとも言わなくて」
その片割れは初めて見る先輩だった。長い髪を後ろで一つに束ねた女子の先輩は高津澪と名乗った。
透と智哉は自己紹介もそこそこに棚を夕日の指示通りに移動させた。
「ありがとね、二人とも」
「いえ、とんでもないです」
「困ってたから助かったわ」
澪はそう言ってパイプ椅子に座り足を組む。組まれた足はスラっと長く、スタイルがとてもいいようだ。少し話してみた感じ姉御タイプで男女ともに人気がありそうだ。
「二人とも一年生だったよね。今日は活動日じゃないけど、何か用事?」
「俺はこいつの付き添いで」
智哉が親指で透を指す。
「あ、はい。過去の学生文芸展に出展された作品をまとめたものがあったら見たくて……ありますかね」
「作品集はあると思うけど、私BOXあんま来ないからどこにあるかわかんないや。夕日ちゃん、どこにあるかわかる?」
「それならちょうどさっき動かした棚に並べてありますよ」
「ありがとー。だって、好きに取って読んでもいいよ」
「はい。ありがとうございます」
透は立ち上がり棚の中から『令和元年度 第四十七回学生文芸展 作品集』と書かれた冊子を手に取った。去年のものだ。
「一年生なのに熱心だね。どうしてまた作品集なんか?」
「どんな作風の作品が入選してるのか知っておきたくて」
文集に目を通しながら答える。そしてある一点に目が留まる。
「高津先輩、去年の学生文芸展で賞取ってるんですね」
「澪でいいわよ。次のページも見てみて」
そう言われて次のページをめくるとそこには谷夕日の名前があった。
「谷先輩も、すごい」
「ありがとう。でも私のは佳作だから」
夕日は照れ隠ししながらも透の称賛を受け取った。
透は十分ほど作品集を読んで顔を上げた。
「学校ものと言うか、学生が主人公の物語が多いですね」
「学展……ああ学生文芸展の略ね。学展はみんな学生が作品を書いてるわけだから、書きやすいし必然的にそうなっちゃうのかもね」
「先輩方はどんなのを書いたんですか?」
横でもっと昔の作品集を読んでいた智哉が尋ねる。
「どちっちも学生が主人公の物語よ。よかったら後で読んでみて」
「そうさせて貰います」
透はしばらく黙った後に口を開いた。
「作品集、十年分くらい借りていってもいいですか?」
「たぶん大丈夫だと思うよ。作品集って少しの間持って帰っても大丈夫よね、夕日ちゃん」
奥で棚の整理をしていた夕日に少し大きな声で聞く。よく通る綺麗な声だった。
「はーい。綺麗に読んでくれれば大丈夫ですよー」
澪に対して夕日の声は少し間の抜けた声だった。
「らしいよ。作品の研究、頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
そう言って透は立ち上がった。
「あれ、もういいのか?」
「ああ。見たいもの見れたし続きは家帰ってからにするよ」
「そっかじゃあ俺も帰ろうかな」
「じゃあ、俺たちはこれで」
「うん。私はあんまBOXにはいないけどいつでも来てね」
「私はいつでもいるよー」
「夕日ちゃんはいすぎよ」
と澪は笑った。
透と智哉は二人の先輩に挨拶をしてBOXを後にした。
「で、何かつかめたか?」
帰り道、二人は最寄りの駅まで一緒に歩いていた。
「ああ。とりあえず主人公は学生にしようと思う。ざっと見た感じ入選してるのはほとんどが学生が主人公の物語だ」
「なるほどな。ま、傾向と対策は大事だわな」
特に返事をすることもなく二人は黙って歩く。元々お互い口数が多い方じゃないので昔から二人でいるとなんの会話もないことは少なくなかった。
「じゃ、俺このままバイト行くからここで」
「ああ。ついてきてくれてありがとな」
「いんや、別に。またなにかあったら声かけてくれ。じゃあまた」
「また」
智哉に別れを告げ透は駅のホームへ向かう。
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