infinity Genesis-インフィニティ・ジェネシス

白水泉

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プロローグ -For infnity to Genesis

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彼にとっての世界とは、この六畳間の一部屋だった。 
壁とカーテンによって外とは隔絶された、闇に包まれる空間。その中で、四角い光が薄く周囲を照らし、かろうじて部屋の様相を見せる。
段ボール箱が天井まで届くほど高く積み重なり、乱雑に散らかるゴミやゲーム機の類が部屋の大半を占めている。唯一侵略を逃れているのが、一枚の布団とその正面にあるパソコン一台だけだ。
動けるのは、布団の上とその背後の扉だけ。
しかし、その扉も今はしっかりと鍵か閉められており、ここは、一つの世界を作り上げていた。
そんな世界の主は、布団に潜ってパソコンへと向かっている。
年齢はニ○代前半ぐらいの男だ。暗い瞳が垂れる髪の毛の奥からのぞき、その下には深いクマが刻まれている上、体は細くお世辞でも健康体とは言えない。
闇に暮らしている青年ー御月は、ひたすらキーボードを叩いていた。
キーボードの繋がる画面上では、それに反応するように、御月に似たキャラクターが巨大な龍のような存在と相対して跳び交っている。
すると、途端にキャラクターの動きが固まって、画面にノイズのようなものが走る。
「なっ!?ちょ、ま!」
その隙を見逃さなかった龍は、止まったキャラクターへと攻撃を炸裂させ、その体を吹き飛ばした。それに御月は、眉を吊りあげる。
「最近、バクが多いんだよ!くそがっ!」
画面上部き表示される緑色のバーが、急激に半分減り、黄色へと変わる。それに腹を立てた御月は、すぐにキャラクターを起こすと、更に強くキーボードを打つ。
「ちゃんとメンテしろよ!」
銃口が龍へと向き、そこから輝が溢れ出すと、派手な効果音とともに銃弾の様なものが放たれる。それが龍の体を貫くと、数瞬龍が動きを止め、しばらきしてからよろめき、ずしんっと倒れこんだ。
「まあ、俺にはかなわねぇけど?」
ははっ、と見下すように笑ってから、御月は「お?」と少し嬉しそうに画面を覗き込んだ。
キャラクターの頭上に浮かぶLv表示が切り替わる。
─Lv4280。
「久しぶりの、レベルアップ……。なげ……。」
ため息とLvアップを祝福するラッパ音が混じる。
ふう、と視線をそらしたが、不意にラッパ音が途切れて、御月はいぶかしげに画面のほうへと顔の向きを戻した。
「またバグか?」
呆れ気味に画面を見た御月だったが、そこでしばらく硬直した。
「なん、だ……?」
驚愕の声が漏れ出ていた。
先ほどみたいな一瞬のノイズ程度だったら、近頃は頻発しているためそこまで驚かなかったが、しかし、現在の画面は今までとはまるで違う。
数字に埋め尽くされていたのだ。
しかもその全てが、0。乱雑に、まるで投げ込まれたように0が画面を埋めている。そして、そんな中に、他とは区別されるように、光を発している数字があった。
4820。それは、御月の操作していたキャラクターが到達したLvだった。
その、何か意味のありそうな画面に、眉をしかめずにはいられない。
御月はどうにかしようととりあえずキーボードを打ってみる。
「反応がねぇ……。どうなってんだ……」
電源を切ったり、プラグを抜いたりしてみても、変わらず画面は止まったままだ。
そうして、なにも起きないパソコンを確認して、ようやく
「て、てか、これでデータ失ったら、どうしてくれんだ!?」
そんな風に慌て始めた。
比較的に始めは冷静なほうだったが、一度気づけば、ひたすらにわめく。
「もしこれで、俺のインジェネ最強アバター消えたらどうするんだよ!?一年の努力と涙の結晶だぞ!」
わけが分からなくなって、パソコンを叩き始める。けれど、何も起きなくて─
「あ?」
─00  000   0  0000 00 0001。
急に0が1へと変わった。今まで沈黙を保ち続けていたはずの画面が、そこから急激に加速していった。
数字がどんどん増えていく。
1、2、3、4、5、6……
一度、1へと至った数字は、そこからめまぐるしい変化を遂げ、どんどん大きな数字へと変わる。
まるで、1番初め誕生がもっとも時間のかかる、何かの成長のような。
「うおっ!?」
急な変化に御月は体をのけぞらして、パソコンから離れた。
しりもちをついたところで
画面をじっくり見てみると、まだ、画面の中央あたりに光った4280という数字が残っていた。
途端、数字の動きが止まる。そもそも、プラグか抜かれているパソコンか自立して動くはずはないのだか、けれど、御月はそんなことにはもう気を向けていない。
ただ、見入るように画面を見つめている。
そうしていると、ずっと変わらなかった数字が変化を見せた。
何か、ノイズが混じるように4280の数字がゆがんで、文字列を作る。
-For infnity to Genesis.
御月は、そのアルファベットの羅列を読もうとしたが、それに重なるように見慣れたウインドウが現れて、そちらへと視線が持っていかれる。
『ログインしますか yes/no』
音声とともに現れたそれだけが、御月が、御月がこの1年間で何度も見たもので、さらに異様を増した。
それに動けないでいると、ウインドウが消えそうに歪み始める。
「ちょ、ま!」
なんだかここで止まってはいけないような気がして、よくわからないまま、御月は慌ててカーソルを握った。
カーソルを「yes」に合わせてクリックする。
すると、カチッという音ともに『yes』の文字が青くなった。それも、いつも見る光景だ。
「いつもどお─」
御月は何も起きなかったことに安堵を呟こうとしたが、それはすぐに中断された。
不意に意識が遠のき、ぐらっと視界が揺れて思考が働かなくなる。
重力さえ感じなくなって、まるでこの世界から消えていくような、不思議な感覚を、覚えて、視覚が消失する。
─無限に至るため、紡ぐ世界の始まりへと。
最後に、そんな声が聞こえた気がして、御月はそのまま意識を手放した。

ピロン♪
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