infinity Genesis-インフィニティ・ジェネシス

白水泉

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アルバトロス=あほうどり

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ここはどこだ?
そう、何度目か分からない呟きを、御月は心の中で繰り返していた。
見渡すと、荒野と森がそれぞれ混ざって、よく分からない景色。
見上げれば真っ青な空の中に、光り輝く太陽が見える。
肌に感じるのは、涼しい風。
「外……?」
そこは、彼にとって全く縁の無い、外の世界だった。
「さっきまで、部屋にいたよな……」
言うなれば、引きこもりニート。さらに付け加えるなら、ネトゲ廃人。
そんな、二〇代前半にして、最低の称号をいくつも抱える彼は、ここ数年は外に出ていない。部屋の扉だって締め切って、家を徘徊することも一日に一度あるかないか程度だ。
そんな彼が突然に、こんな、いきなりわけの分からないところに出ているわけが無く。
というか、ここが、地球に見られる地形ではないことに気づいて。
「俺、転生した……?」
そんな、ありえない考察が、ぽっと浮かんだのだった。



「そういえば、ぽいことあったな……」
ぼそりと、考え事を口に出す。
思い出すのは、本当に少し前の、意識が途切れる直前の出来事だ。
確か、さっきまでいつものようにお気に入りのネトゲ『インフィニティジェネシス・オンライン』通称『インジェネ』をプレイしていたはず。
今日(意識が途切れる前)は、『インジェネ』の一周年記念の大きなイベントが行われていて、『インジェネ』内で最強プレイヤーと称えられている自分は、普段と変わらずにソロプレイで無双をしていた。
イベント内容は、現在、24番目まで開拓されているそれぞれの『境界線』
(『インジェネ』内での世界を大きく分けた区切り)でのボス戦。それで、多くのボスを倒せたプレイヤーが特典を貰えるというものだ。
そのイベント中で、御月は『20番目の境界線』よボス戦をクリアしたところだったが、そのとき、急に画面が異常を見せたのだ。
無数の『0』の羅列。それに、光る『4820』という、御月の至ったLv。
それは、意味の分からないことだらけで、理解が出来ないうちに現れた『ログインをしますか。』に、『yes』を選んでしまった。
それが原因か、それ以降のあの部屋ての記憶は無く、今に至ると言うわけになる。
これが、御月がここに来るまでのいきさつで、結局理屈が分からない御月は、頭を抱えた。
「これって……」
が、しかし同時に、あることに気づいて心を踊らせた。
「ゲーム転生もの!?ログ・ホラ〇イズン!?オーバ〇ロード!?」
うひょー!とテンション高く、両腕を掲げる。頬はいつの間にか上気して、目は爛々と輝いていた。
こんな状況でよくもそんな心持になれるものだ、とも思うが、しかし、御月にとっては、これが通常運転だった。
もとより現実世界では日夜、ゲームにアニメ鑑賞、時にネットこ向こうの人間をひたすら叩いて鬱憤を晴らす日々。健全的とも、社会貢献的ともまるでいえない彼は、現実にもちろん不満を抱いていた。
なぜ、今のように墜落してしまったのかは、確固とした理由はなかったが、けれど世界の理不尽が生み出す、いくつもの小さな障害にくじいてしまったのは確かだ。
自分の意思に関係なく、学校と言う名の豚箱に詰められた挙句、その中で反りの合わないクズどもに愛想をつく。けれど、その豚箱からは永遠に出ることは出来ずに、時が経てば、さらに大きくなった社会と名を変えた豚箱行きだ。そこではさらにクズが横行し、小さな自分をより追い詰めた。
だから、御月は思った。
─こんな世界は、クソだ。
そして、そんな流れから逃げて、自分の世界を作った。
そこで、ネトゲにはまり、特に『インジェネ』にはのめり込んだ。
自分たちて世界を作ると言う魅力的な設定。戦えば強くなると言う単純な世界。それが、自分を興奮させた。
けれどその世界は結局偽物で、本物はいつだってクソだった。
でも、それ以上、自分に出来ることはなくて、いつかこんな世界から抜け出すこを夢見て、社会から外れた生活を続けていた。
最たる楽しみである『インジェネ』というゲームの世界に引きこもって。


しかし、今。
自分に訪れている状況はどうだろうか?
これは、夢?
いや、違う。
「俺は、この世界で主人公になった!」
主人公としてはダメダメな、けれど彼にとって最高な物語がここで、スタートした。




                               *





「さて、状況を確認するか」
ようやく熱の収まった御月は、腕を組んでから、その場に腰を下ろした。
すると、背中から、がんっと何か硬いものがぶつかる音がして、「ん?」と振り向く。
「銃……『アルバトロス』か!」
ぱっと顔をして輝かせたのは、背に担いでいる銃が、見慣れたものだったからだ。
と言っても、現実で所持していたものではなく、それは、彼が『インジェネ』で使用していた愛銃だった。
正式名称『アルバトロス・グリードⅶ』。混ざり気のない純黒の銃身は、御の背と変わらないほど長く伸び、無骨な姿をしている。見た目はシンプルだが、ゲーム内で最前線を行っていた彼が愛用している武器だ。威力は折り紙つきである。
「ってことは……」
それを確認した御月は、あることに気がつき、立ち上がって、自分の姿を見下ろす。
すると、案の定その姿は想像通りのものだった。
闇を思わせる真っ黒な外套。その下には、関節にプロテクターのついた、全体的に暗い灰色の服装が見える。
「完全に……《ミツキ》」
その服装─装備は、彼が操作していたキャラクター《ミツキ》のものだった。
いろんな特性が付与され、最前線プレイヤーとして押し上げてくれる装備。それを、今の今まで気づかなかった御月は、更に興奮を押し出したを
「これ、強いまま転生ニューゲームってわけか!?」
自分に与えられた恩恵に気づき、その力を確かめるために、その場で飛び跳ねたり、くるくると回ってみたりしてみる。
「うっほ、すげー、俺こんな動けんのかー!」
思い通りに動く肉体に、ちょっとした違和感を覚える。
感嘆交じりに見下ろす自分の体が、どこか他人のもののように見えてきた。
今まで、運動などまるで出来なかった自分が、こんな動けるようになるとは思えない。
と言うことはつまり、自分は生まれ変わったのだ。
くそったれな世界に住んでいた御月自分ではなく、最高の世界で活躍していたミツキ自分に。
「じゃあ、これから俺は─」
視界に広がる、新たな世界を改めて眺めると、

「─ミツキだ」


御月─ミツキは、新たな自分を求めて、そう言い放った。
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