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ノゲノラが特に好きです。
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ミツキは、よく分かっていない現状を適当にまとめ終えると、早速足を動かし始めた。
現実での彼だったなら、一歩でも動くことを嫌がっただろうが、今の彼の体は、まるでリセットされたようで、不調などどこにも感じられない。
よく見えれば、目の下のクマも消えていて、見た目だけなら健康的な青年そのものだ。
「『20番目の境界線』……。たぶんゲームのときと同じ座標だな」
ざっざっ、とブーツで乾いた地を踏みしめ、どこか楽しそうに周りを眺める。
現在ミツキが歩いているのは、変わらず荒野である。
見渡せば、森や海まで見えるのだが、取りあえず覚えている限りの道を歩いていた。
「一番近い街は……、19番目の『シュタルフ』か……」
ぼそぼそと呟きをながら、頭の中にしまっている記憶を引っ張り出す。
ミツキが思い出す限り、この世界は『インジェネ』の世界とほとんど一緒だったのだ。
ちぐはぐな土地、広大なフィールド、それだけで『インジェネ』につなげることは出来るが、一年も続けていたミツキには、地形ですぐに、方角まで分かるほどだった。
そういう訳でミツキは、北を目指して歩を進めていた。
一人きりで転生され、説明もないままだが、こんなところで、立ち止まるわけは無かった。
「転生ものならし、熟知してるからな」
例えば、問題児にノゲノラ、それにリゼロなど。現実には、異世界に転生するアニメなどいくらでもあった。だから、実際自分の身にそれが起きてもそれほど慌てないし、むしろ喜ばしいとすら思える。
どんな転生ものでも、主人公はさっさと動き出している。
それに、今回は異世界転生の中でも、ゲーム転生なのだ。土地は詳しいし、何より自分が最強である。慌てる必要などあるわけがない。
だから、ミツキは鼻歌交じりに荒野を浮き足立った足取りで歩くのだった。
「さーて、俺はなにをすればいいのかなー……ん?」
独り言をもらしたときだった。視界の端に何かが映って、そのほうへと目を向ける。
それは、森の木々が生い茂った中で。
なんだ?何かが、走ってる……?よく、見えんな。
そう思いながら目を凝らしていると、徐々に走ってくる少女のすがたが見えてくる。
「いぃぃやぁああああ!来ないでくださいぃぃぃいい!」
叫び声とともに、森から抜け出したその少女は何かから逃げているようだった。
と、見ているとそれに続いて森から出てきた三体ほどの影。
「ゴブリン?」
それは、人の形は取っているものの、肌は緑で腰に茶色い布を巻いている、明らかに人外。
コブリン。『インジェネ』内では雑魚としてよく扱われるモンスターだ。基本、どこにでも生息していて、人を見ると襲う性質がある。そんな、感じだった気がする。
ゲーム内での知識のものと視線の先の異形は重ね確認して、ふと、忘れていたと言うように、もう一つの独立した影のほうに目を向ける。
ゴブリンに追われているのは、金色の長髪を揺らす、どこか魔法使いっぽい姿をした少女。
見るからに、駆け出しの魔法使いと言う姿に、ため息をつく。
「しかたねぇ。助けてやるか」
そう言うと、背中に担いでいた長銃を手にして、銃口をコブリンたちのほうへと向けた。
そのままカチッと引き金を引くと、銃口から銃弾のようなものが発射される。
しかし、本来の銃には考えられないもので、銃口の大きさを超えた光の弾が、軌跡を残しながらゴブリンのほうへと向かった。どんっ、と反動を踏ん張りでこらえて、ミツキは放った弾の行く末を眺める。
「ウガッ」
「ガガッ」
「ガウッ」
「ひ、ひいぃぃいいい!?」
銃弾が迫る直前に、金髪の少女が押し倒されて、絶体絶命へと陥る。
だか、それを防ごうと光の弾は走り、
「「「ガ─」」」
「ひーー」
合計四つの影に、炸裂した。
*
「あーぁ、当たっちまった……」
構えていた銃を抱え、砂埃の舞う場所を眺める。
距離にしたら、一〇〇メートル弱。そこへと善意のつもりで撃った銃弾だったが、調整を忘れ、助けようとしていた少女ごとまとめて吹っ飛ばしてしまった。
さて、あの奥ではどうなっているのでしょうか。
「ま、いっか。よし、関係ない振りをしよう」
しかし、ミツキはあっけからんと立ち上がると、責任を放棄して、さっさとその場を立ち去ろうとした。
「よく、ありませぇええええんッ!」
そんな、目を劈くような声が轟いた。
反射的に振り返るとそこには、砂埃から抜け出す少女の姿。
「そっこのぉおお! 助ける気あるんですか!?」
黒いローブをボロボロにしながら、金髪の少女は、形相を険しくして、こちらへと向かってきていた。
陸上選手も目を見張るような全力疾走で距離を詰めた少女に、ミツキは、
「あ、生きてた」
と無味乾燥な言葉を漏らす。すると、少女は更に眉を釣り上げさせる。
「あなた!わたしを助けてくれるんじゃなかったんですか!? 何で、こっちにまで攻撃を!?」
「……誤射」
「誤射ぁああ!?なんですかそれ!? 許されませんよ!? 当たり所が悪かったら、人一人死んでるんですよ!?」
「…………すんまそん」
「なんですかそのあやまりかたは!? ふざけてるんですか!? もうちょっと誠意ある謝罪はできないんですか! ちゃんと反省してください!」
くわっ、と急に迫ってくる少女は、すっかり先ほどまでコブリンに追われていたのを忘れたかのように、眼前のミツキへと苛立ちをぶつけている。
「そもそもですよ?まず、人が困っているところを見たら、すぐに駆けつけるのが常識ではないんですか!?そんな遠くから撃つなんて卑怯じゃないですか!?それで助けられるならまだしも、巻き込んでますから!」
「…………」
ぶつけられているほうのミツキは、最初のうちはちゃんと(ではない)返していたが、
「聞いているんですか!?」
次第に、
「……うっせぇ!」
「へぶっ!?」
我慢の限界が来たので、銃でぶん殴った。
現実での彼だったなら、一歩でも動くことを嫌がっただろうが、今の彼の体は、まるでリセットされたようで、不調などどこにも感じられない。
よく見えれば、目の下のクマも消えていて、見た目だけなら健康的な青年そのものだ。
「『20番目の境界線』……。たぶんゲームのときと同じ座標だな」
ざっざっ、とブーツで乾いた地を踏みしめ、どこか楽しそうに周りを眺める。
現在ミツキが歩いているのは、変わらず荒野である。
見渡せば、森や海まで見えるのだが、取りあえず覚えている限りの道を歩いていた。
「一番近い街は……、19番目の『シュタルフ』か……」
ぼそぼそと呟きをながら、頭の中にしまっている記憶を引っ張り出す。
ミツキが思い出す限り、この世界は『インジェネ』の世界とほとんど一緒だったのだ。
ちぐはぐな土地、広大なフィールド、それだけで『インジェネ』につなげることは出来るが、一年も続けていたミツキには、地形ですぐに、方角まで分かるほどだった。
そういう訳でミツキは、北を目指して歩を進めていた。
一人きりで転生され、説明もないままだが、こんなところで、立ち止まるわけは無かった。
「転生ものならし、熟知してるからな」
例えば、問題児にノゲノラ、それにリゼロなど。現実には、異世界に転生するアニメなどいくらでもあった。だから、実際自分の身にそれが起きてもそれほど慌てないし、むしろ喜ばしいとすら思える。
どんな転生ものでも、主人公はさっさと動き出している。
それに、今回は異世界転生の中でも、ゲーム転生なのだ。土地は詳しいし、何より自分が最強である。慌てる必要などあるわけがない。
だから、ミツキは鼻歌交じりに荒野を浮き足立った足取りで歩くのだった。
「さーて、俺はなにをすればいいのかなー……ん?」
独り言をもらしたときだった。視界の端に何かが映って、そのほうへと目を向ける。
それは、森の木々が生い茂った中で。
なんだ?何かが、走ってる……?よく、見えんな。
そう思いながら目を凝らしていると、徐々に走ってくる少女のすがたが見えてくる。
「いぃぃやぁああああ!来ないでくださいぃぃぃいい!」
叫び声とともに、森から抜け出したその少女は何かから逃げているようだった。
と、見ているとそれに続いて森から出てきた三体ほどの影。
「ゴブリン?」
それは、人の形は取っているものの、肌は緑で腰に茶色い布を巻いている、明らかに人外。
コブリン。『インジェネ』内では雑魚としてよく扱われるモンスターだ。基本、どこにでも生息していて、人を見ると襲う性質がある。そんな、感じだった気がする。
ゲーム内での知識のものと視線の先の異形は重ね確認して、ふと、忘れていたと言うように、もう一つの独立した影のほうに目を向ける。
ゴブリンに追われているのは、金色の長髪を揺らす、どこか魔法使いっぽい姿をした少女。
見るからに、駆け出しの魔法使いと言う姿に、ため息をつく。
「しかたねぇ。助けてやるか」
そう言うと、背中に担いでいた長銃を手にして、銃口をコブリンたちのほうへと向けた。
そのままカチッと引き金を引くと、銃口から銃弾のようなものが発射される。
しかし、本来の銃には考えられないもので、銃口の大きさを超えた光の弾が、軌跡を残しながらゴブリンのほうへと向かった。どんっ、と反動を踏ん張りでこらえて、ミツキは放った弾の行く末を眺める。
「ウガッ」
「ガガッ」
「ガウッ」
「ひ、ひいぃぃいいい!?」
銃弾が迫る直前に、金髪の少女が押し倒されて、絶体絶命へと陥る。
だか、それを防ごうと光の弾は走り、
「「「ガ─」」」
「ひーー」
合計四つの影に、炸裂した。
*
「あーぁ、当たっちまった……」
構えていた銃を抱え、砂埃の舞う場所を眺める。
距離にしたら、一〇〇メートル弱。そこへと善意のつもりで撃った銃弾だったが、調整を忘れ、助けようとしていた少女ごとまとめて吹っ飛ばしてしまった。
さて、あの奥ではどうなっているのでしょうか。
「ま、いっか。よし、関係ない振りをしよう」
しかし、ミツキはあっけからんと立ち上がると、責任を放棄して、さっさとその場を立ち去ろうとした。
「よく、ありませぇええええんッ!」
そんな、目を劈くような声が轟いた。
反射的に振り返るとそこには、砂埃から抜け出す少女の姿。
「そっこのぉおお! 助ける気あるんですか!?」
黒いローブをボロボロにしながら、金髪の少女は、形相を険しくして、こちらへと向かってきていた。
陸上選手も目を見張るような全力疾走で距離を詰めた少女に、ミツキは、
「あ、生きてた」
と無味乾燥な言葉を漏らす。すると、少女は更に眉を釣り上げさせる。
「あなた!わたしを助けてくれるんじゃなかったんですか!? 何で、こっちにまで攻撃を!?」
「……誤射」
「誤射ぁああ!?なんですかそれ!? 許されませんよ!? 当たり所が悪かったら、人一人死んでるんですよ!?」
「…………すんまそん」
「なんですかそのあやまりかたは!? ふざけてるんですか!? もうちょっと誠意ある謝罪はできないんですか! ちゃんと反省してください!」
くわっ、と急に迫ってくる少女は、すっかり先ほどまでコブリンに追われていたのを忘れたかのように、眼前のミツキへと苛立ちをぶつけている。
「そもそもですよ?まず、人が困っているところを見たら、すぐに駆けつけるのが常識ではないんですか!?そんな遠くから撃つなんて卑怯じゃないですか!?それで助けられるならまだしも、巻き込んでますから!」
「…………」
ぶつけられているほうのミツキは、最初のうちはちゃんと(ではない)返していたが、
「聞いているんですか!?」
次第に、
「……うっせぇ!」
「へぶっ!?」
我慢の限界が来たので、銃でぶん殴った。
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