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ボルカニクス
しおりを挟むのそのそと近づいてくる4足歩行型のゴーレムに視線を移す。
背中に小さな山のようなものを背負ったボルカニクスと呼ばれる体長1メートルほどのゴーレム型のモンスターが、私から10メートルほど離れた位置まで近づいてきていた。
こいつは戦闘力自体はほとんどない代わりに面倒な能力を持っているため、それを発動させる前に倒す必要があるモンスターである。
[本当におっそいなぁ]
[カメの歩みって感じ]
[動き結構かわいくね?]
[攻撃方法はかわいくないぞ]
[実際形状は似ているし、伊達にボムガメ呼ばわりされてねぇよ]
「知っている人が多いみたいですが、ボルカニクスは敵対している相手に近づいたり、攻撃されたりすると背中の突起部が発熱して、最後には爆発してしまうちょっと変わったモンスターです」
本当にこの能力で年に数人大けがをする人が出るくらいには厄介な存在である。
動きが遅いことで足音が聞こえにくいし、それが周囲の音に紛れて気づいたら背後まで迫ってきていて、防御や回避する前に爆発されるってことが割と起こる。
幸いと言えるのはこの爆発がそこまで威力がないこと。さすがに体を密着された状態で爆発されたらどうなるかわからないけど、しっかりした防具を着ていれば、骨が折れるくらいのダメージで済む程度の威力だ。
[ちょっと?]
[自爆するようなモンスターはちょっとって言わなくね]
[深層にいるような奴らと比べれば確かにちょっとではある。中層で出てくるやつらの中ではかなり変わってるけど]
ボルカニクスと同じように自爆することで相手を攻撃するモンスターはすごく数が少ない。それに自爆と言っても部分的に爆発させるのが基本で、全身を爆発するようなモンスターはボルカニクスを除けば10もいないと思う。
でも、ダンジョンに出現するモンスターの中では、特別変わっているわけでもない。
確かに攻撃方法は変わっているかもしれないけど、それ以外は割とよく見るタイプのモンスターだからね。ゴーレム系モンスターだって特別珍しい存在でもないし。
「それじゃあ、発熱鉱石を取るためにボルカニクスを解体しますね」
[ゴーレム系モンスターも解体できるんだ]
[今までは生物系モンスターだったけど、同じように解体できんの?]
[手持ちピッケルのままだけど]
[解体ナイフだと駄目な感じ?]
「いつも使っているナイフでも解体することはできるんですが、このピッケルでも解体神の効果を発揮することができるので、これで問題ないです」
ナイフでもいいんだけどね。ただ、解体神の効果が発動する条件って解体用の道具が解体対象に少しでも触れることだから、ゴーレムとか体が鉱石とかの普通なら刃が立たないモンスターだと、ナイフを使うと刃こぼれとかしかねないんだよね。
だからこういうモンスターには解体ナイフじゃなくて、鉱石を掘るために使っているピッケルを使うことが多い。
「まあ、解体する前にこれで刺激を与えるんですけど」
そう言って私は足元に集めておいた小石をいくつか拾い上げ、それをボルカニクスに向かって投げつけた。
[え?]
[ちょちょ]
[自分から爆破させに行くってま?]
[集めてた小石このためだったのかぁ]
[なぜわざわざ起爆させるようなことをするのか]
私が投げた小石がボルカニクスに当たると、ボルカニクスは微かに体を揺らす。そしてその動作が終わると同時にボルカニクスの体が背中から徐々に赤みを帯びていった。
そしてタイミングを見計らって一気に近づき、ボルカニクスの体が完全に真っ赤になる直前にピッケルでボルカニクスの体を殴り一気に解体した。
「そいっと」
解体神の効果を受けたボルカニクスの体はそれまで真っ赤だったものが一気に黒ずみ、ガラガラと崩れ落ちていく。崩れ落ちた体は近くにある石と区別がつかない状態になっている。
[なんでそんな危険なことしよっと!?]
[爆発寸前だったですが!?]
[発熱鉱石の質って爆発寸前に採取した方がいいからって、さすがに寸で過ぎね]
[肝冷えたわよ]
「ごめんなさい。でも理解している人もいるみたいですけど、発熱鉱石はボルカニクスが爆発する直前の物が一番質が良くなるので、基本的にこういう取り方になるんですよね」
私の場合、スキルで一瞬のうちに解体できるからギリギリの状態を待つけど、普通は弱点を突いて倒す流れだから、私と同じタイミングで倒すと多分間に合わないで爆発に巻き込まれる。だから、理由を知っているリスナーの人も焦っているというか呆れているようなコメントをしているんだと思う。
「それに、失敗してもちゃんとした装備を着ているので大丈夫です」
[自覚したうえでやっているのは質悪いですよ]
[いや、朱鳥ちゃんが着ているような装備じゃ無理]
[聞くか迷っていたけど、どのメーカーの装備なの? 見たことないものなんだけど]
[見た目がおしゃれなものはあまり性能よくないんだよ]
「この装備は私が作ったものですね。これでもメイカーの資格持っているので」
一般的に装備はいろんなメーカーから売り出されているので、自分に合ったものを購入するものだ。しかし、中にはこだわりがあったり体に合わなかったり特殊なスキルを使うためにオーダーメイドで装備を作っている人も結構いる。
それにメーカー品の装備は誰でも着られるようなデザインの物が多くて、ぶっちゃけダサいというかシンプルなデザインが大半なんだよね。一応おしゃれ着的な装備もあるんだけど、デザイン重視過ぎて動きにくかったり性能の割に値段が高かったりって、なんというかいまいちなものが多いのだ。
だから私は自分の思うままに装備を作って身に着けている。
[そういやメイカーの資格もってたな]
[資格だけだと思ってた]
[素材も自分で集められて、道具も自分で作れるとか最強か?]
チャット欄に流れるコメントを流し見しながら、先ほどまでボルカニクスだった小さな石山の中から真っ赤になっている発熱鉱石を掘り起こし、それがしっかり映るようにドローンのカメラの前に掲げた。
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