(完結)婚約を破棄すると言われましても、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていましたよね?

にがりの少なかった豆腐

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婚約を破棄すると言われましても

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「ノエル・テレジア。この夜会をもって、私はお前との婚約をこの場を持って破棄させてもらう!」

 学園の夜会。上級生のみ参加しているさほど規模は大きくない場で男がそう宣言した。
 人が少ないゆえにその声は会場中に響き渡り、その宣言を聞いた途端に談笑の声が一気に静まり返る。そして数瞬間を開けて、何事かと小声でやり取りする声が聞こえ始めた。

 会場中に響き渡るように目の前でそう宣言したのは私の幼馴染のコーリー。
 小さいころに貴族間の繋がりを維持するために婚約者という立場になりましたが、普段から何かにつけて嫌味を言ってくるような方でしたので、そう宣言していただけるのは非常にありがたい事ですね。

「あの。それはどういう意味でしょう?」
「こんなこともわからないのか。ああ、やはり、俺はお前との婚約を破棄した方が良いらしいな!」

 私の反応を見て、コーリーは自信有り気にそう言葉にした。
 理解が出来ませんね。どうしてこの場でこのようなことを言うのか。それもありますが、もっと理解できないことがあります。

「コーリー。貴方は自身の立場を理解してこの場に立っているのですか?」
「は? 何故そんなことを俺が気にしなければならないんだ?」

 目の前のコーリーの様子から本気でそんなことを言っていることを理解しました。
 自身の立場を正確に理解していればそんなことを言う事はありえないのですが、さてどうすればいいのでしょうか。

 正直なところ、コーリーの事は無視しても問題はないです。
 こちらとしても婚約を破棄したかったですから。まあ、そういう問題でもないのですが。それにそもそも面倒な事に一々首を突っ込んで行く必要は無いのです。

「おい! 無視をするな!」

 とはいえ無視をしたところでこのように相手から絡まれれば意味はないですよね。
 面倒ですねぇ。

「何か言えよ。婚約は破棄したくないとかさ!」
「何故そのような事を言わなければならないのでしょうか?」

 自分から婚約を破棄すると宣言しておいてどうしてそんなことを聞いてくるのでしょうか。もしかして私に構ってほしいからこんなことをしたとでも言うのでしょうか。
 それは本当に嫌なのですけれど。

「は?」
「そんなことを言う必要は私にはないのですが」
「そんな訳ないだろう? お前の実家と俺の実家の繋がりを作るために俺たちは婚約したんだ」
「そうですね?」
「なら! それが無くなるのはお前の実家にとっていい事ではないのだろう?」

 コーリーの発言を聞いて、コーリーが自分の立場というよりも周囲の状況を一切把握していないことを理解しました。もしかしたら知らないふりをしているだけかと思っていましたが、コーリーの様子からしてそうではないようです。

「別に何の問題も起きませんよ」
「そんなわけないだろう!」
「起きませんよ。どんなことが起きようとも、ね」
「は?」
「だって、貴方の実家は数日前に取り潰しになっていますから。貴族ではない貴方とまた婚約者になることは、こちらに何の利もありません」

 今回の婚約破棄宣言はこの場でコーリーが言いださなければ、いずれこちらからそういう通達を出す予定でした。
 このような場で言う予定はありませんでしたが、コーリーの実家が貴族でなくなるのであれば、貴族間のつながりを強化するという前提がなくなりますからね。
 
 私の発言を聞いて、コーリーは少し考えているような表情をしています。もしかして私の発言が嘘ではないかと疑っているのでしょうか。

「嘘だな」

 まさか本当に疑っていたとは。しかし、コーリーの実家が無くなったのは事実です。もしかするとそのことがコーリーにまで伝わっていないのかもしれません。

「嘘ではありませんよ。嘘だと思うなら、教師のどなたかに聞いてみればいいのではないでしょうか?」

 聞きに行く前にその件のことがコーリーに伝わる可能性も高いですけれどね。卒業までもう少しという季節ではありますが、この学園に所属するには貴族もしくはそれに準ずる財力を持っていなければならないわけです。
 貴族ではないコーリーが学園に所属し続けるには相応の財力が必要になるわけですが、コーリーの家の現状を鑑みればそれもないでしょう。

「嘘なのだから聞く必要はないだろう。おそらくお前は俺の気を引きたくて、そんなことを言っているのだろう?」

 信じられない解釈をされました。
 まさか、そんな風に考えるなんて、自分に都合のいい事しか考えられないのでしょうか。最近まで貴族だった者の考えだとは思えません。いえ、貴族じゃなかったとしても論外の考え方でしょう。

「それはあり得ません。それに貴方の実家がお取り潰しになった段階で、私と貴方の婚約は破棄されます。そちらにまだ通達が届いていないだけの可能性もありますが、いまさらあなたに婚約を破棄すると言われても、破棄する物は無いのですよ」
「いや……嘘だろ?」

 さすがに私が強気に言えば、嘘ではない可能性は考えられるようですね。ですがこれ以上、対応していても私に何の利はありませんので、さっさと終わりにしてしまいましょう。

「それと、コーリー」
「なんだよ」
「貴方の実家がお取り潰しになっているという事は、貴方は既に貴族ではありませんよね?」
「は?」

 私の言葉にコーリーが困惑している視界の端に、会場の出入り口から警備を担当していた騎士が数人入って来たのが見えました。
 
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