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崩壊、そして
魔女の家にて〈前編〉
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夢を見ていた。
テディーレのみんながいつも通り笑っていて、家に帰ればミスト神父が優しくおかえりって言ってくれる。隣のメルを見ると「どうしたの、兄ちゃん?」って微笑みかけてくれる。
これが俺のいつも通り。なんてことのない幸せな日々。
――すべて夢だったんだ
「なんて。そんな甘い話、あるわけないでしょう」
「え?」
ミスト神父の姿が揺らぎ、無数の影が辺りを包む。
テディーレの町は燃え上がり、笑っていた人々は魔獣へとその姿を変える。
「これは……そうだ、俺は……」
隣のメルが、ゆっくりと奴の方へ歩き出す。
――ダメだ
「メル!」
引き留めようと伸ばした手は、あっけなくメルをすり抜けた。
影が、魔獣が俺を嘲笑う。
「メル……俺を置いて行かないでくれ……」
「メル!!」
レオンの目が覚める。額を伝う冷たい汗がやけに気持ち悪かった。
「どこだ……? ここ……」
レオンがいたのは見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上だった。まるで大きな木の中にいるような独特の内装が特徴的な部屋だ。
「起きたか。レオン・ハルベルト」
そういって部屋に入ってきた黄色い目の美女にレオンは見覚えがあった。服装こそ違うものの、この長い銀の髪を忘れるはずがない。
「シンピ……さん」
「シンピでいいぞ。それよりもう動いても大丈夫か? こちらに着くなり気を失っていたが」
その話を聞いてレオンは、シンピがここまで運んでくれたのだということに気がついた。昨日もレオンを助けたのは彼女だったし、おそらく敵ではないのだろう。
「ああ、そうだったんですね。すいません。もう大丈夫です」
「そうか。それならいい。弟子が飯を用意しているからついてこい」
シンピがさっさと部屋を出る。
「え、ちょっと、待ってくださいよ!」
そういってレオンが追いかけるとシンピが急停止したので二人はぶつかり、レオンが押し倒すようにして倒れ込んだ。
「なんだ」
相変わらずの無表情で淡々と訊ねるシンピの綺麗な顔が近くて、レオンは言葉をなくす。こんなにも美しい人を、これまでの人生で見たことがなかった。
と、そこに。
「ちょ、ちょっと!」
鈴の音のような声が聞こえてきてレオンが顔を上げる。するとそこには、輝く金髪が美しいエルフが立っていた。
「あんた師匠になにしてんのよ!」
「え、いやいやこれは違う! 不可抗力で……」
「レオン・ハルベルト。私はおまえが待てといったから止まったんだが」
「やっぱりあんたがわざとやったんじゃない! この……」
エルフが手に持っていた鍋を振り上げる。避けたらシンピに当たる。レオンは死を悟る他なかった。
「ケダモノーーー!!!!!」
ゴン!
昼食は鹿肉のスープだった。レオンが今まで食べてきた味よりも少し濃い味付けだったが、これはこれで美味しかった。
「それで、色々と聞きたいことがあるんですけど……」
食事中、脳天にたんこぶのあるレオンが口を開いた。説明はしたので誤解は解けている……はずであるが、エルフは一向にレオンと目を合わせようとしなかった。
「ああ、そうだな。レオン・ハルベルトにはいくつか説明しなければ」
「レオンでいいですから、呼び方。いちいち長いでしょうし」
「そうか? ではレオン、まずはおまえの親についてだが」
口の横に食べかすをつけたままシンピが話し始める。
「お前の父親は、魔獣王ティガー・ハルベルトだ」
テディーレのみんながいつも通り笑っていて、家に帰ればミスト神父が優しくおかえりって言ってくれる。隣のメルを見ると「どうしたの、兄ちゃん?」って微笑みかけてくれる。
これが俺のいつも通り。なんてことのない幸せな日々。
――すべて夢だったんだ
「なんて。そんな甘い話、あるわけないでしょう」
「え?」
ミスト神父の姿が揺らぎ、無数の影が辺りを包む。
テディーレの町は燃え上がり、笑っていた人々は魔獣へとその姿を変える。
「これは……そうだ、俺は……」
隣のメルが、ゆっくりと奴の方へ歩き出す。
――ダメだ
「メル!」
引き留めようと伸ばした手は、あっけなくメルをすり抜けた。
影が、魔獣が俺を嘲笑う。
「メル……俺を置いて行かないでくれ……」
「メル!!」
レオンの目が覚める。額を伝う冷たい汗がやけに気持ち悪かった。
「どこだ……? ここ……」
レオンがいたのは見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上だった。まるで大きな木の中にいるような独特の内装が特徴的な部屋だ。
「起きたか。レオン・ハルベルト」
そういって部屋に入ってきた黄色い目の美女にレオンは見覚えがあった。服装こそ違うものの、この長い銀の髪を忘れるはずがない。
「シンピ……さん」
「シンピでいいぞ。それよりもう動いても大丈夫か? こちらに着くなり気を失っていたが」
その話を聞いてレオンは、シンピがここまで運んでくれたのだということに気がついた。昨日もレオンを助けたのは彼女だったし、おそらく敵ではないのだろう。
「ああ、そうだったんですね。すいません。もう大丈夫です」
「そうか。それならいい。弟子が飯を用意しているからついてこい」
シンピがさっさと部屋を出る。
「え、ちょっと、待ってくださいよ!」
そういってレオンが追いかけるとシンピが急停止したので二人はぶつかり、レオンが押し倒すようにして倒れ込んだ。
「なんだ」
相変わらずの無表情で淡々と訊ねるシンピの綺麗な顔が近くて、レオンは言葉をなくす。こんなにも美しい人を、これまでの人生で見たことがなかった。
と、そこに。
「ちょ、ちょっと!」
鈴の音のような声が聞こえてきてレオンが顔を上げる。するとそこには、輝く金髪が美しいエルフが立っていた。
「あんた師匠になにしてんのよ!」
「え、いやいやこれは違う! 不可抗力で……」
「レオン・ハルベルト。私はおまえが待てといったから止まったんだが」
「やっぱりあんたがわざとやったんじゃない! この……」
エルフが手に持っていた鍋を振り上げる。避けたらシンピに当たる。レオンは死を悟る他なかった。
「ケダモノーーー!!!!!」
ゴン!
昼食は鹿肉のスープだった。レオンが今まで食べてきた味よりも少し濃い味付けだったが、これはこれで美味しかった。
「それで、色々と聞きたいことがあるんですけど……」
食事中、脳天にたんこぶのあるレオンが口を開いた。説明はしたので誤解は解けている……はずであるが、エルフは一向にレオンと目を合わせようとしなかった。
「ああ、そうだな。レオン・ハルベルトにはいくつか説明しなければ」
「レオンでいいですから、呼び方。いちいち長いでしょうし」
「そうか? ではレオン、まずはおまえの親についてだが」
口の横に食べかすをつけたままシンピが話し始める。
「お前の父親は、魔獣王ティガー・ハルベルトだ」
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