落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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崩壊、そして

運命の日〈急〉

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「この家から出ていけ……!」



 レオンがそう言うと、トロルはピタリと動きを止める。



「え……」



 そしてなにかに取りつかれたかのように踵を返すと、あっけなく家から出ていった。



「なんだったんだ……?」

「お前の能力だよ。レオン・ハルベルト」



 そういって、壊れた戸口から入ってきたのは白銀の髪が地面につきそうな程に長い、一人の魔女だった。



「はじめまして、私の名前はシンピ。単刀直入に言う。この町は滅びた。私と一緒に来い」

「は……?」



 唐突に告げられた事実に、レオンは動揺を隠せなかった。



「噓だ! あんなトロル一体にテディーレが滅ぼされるわけ……!」



 レオンは必死に否定するが、シンピと名乗る魔女は淡々と告げる。



「一体じゃない。奴ら魔獣は徒党を組んでこの町を襲った」

「トロルが徒党を組むなんて聞いたことが……」

「それができる奴がいる……細かい話は後だ。行くぞ」



 そう言って、シンピは背を向ける。しかし、レオンはこの魔女を信じるべきか悩んでいた。

 それに気づいたシンピは歩みを止めた。



「そいつ、メル・ハルベルトの怪我だが」



 表情を変えないまま、シンピはメルを指差す。



「命に関わるものではない。だが、このままここにいれば、また魔獣共が来る……その時、お前は一人でこいつを守り切れるのか?」

「それはっ……!」



 返す言葉がなかった。

 さっきはなぜかトロルが引いてくれたが、あんな奇跡は二度も起こらない。そのことは、他ならぬレオンが一番理解していた。



「……わかった。あんたに賭けるよ」



 レオンが決断すると、シンピの表情が少しだけ緩んだ。



「利口な決断だ。行くぞ」





 メルを抱えて立ち上がり、外に出たレオンは、自分の育った家を振り返る。



「ありがとう……」

「おーい、レオン!」



 その時、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。



「ミスト神父っ!?」



 振りむくと、そこには見慣れたミスト神父の姿があった。



「よかった、生きてたんですね!」



 喜びのあまり、レオンは神父のもとへと一目散に駆け出した。



「戻れレオン・ハルベルトっ! そいつは偽物だ!」

「え?」



 シンピの声に足を止めるも、もう遅い。“奴”はレオンのすぐそばまで迫っていた。



「『蛇の目メデューサ・アイ』……レオン、いい子だ……!」



 奴の手が、レオンに向かって伸びてくる。危機を感じたレオンが必死に逃げようとしても、どうしてだか足が固まって動けない。



「くそっ……! 『引き寄せ転移ダウニング・ワープ!』」



 シンピが呪文を唱えると同時に、レオンの体がシンピの方へと引き寄せられていく。



「チッ! 『影の手シャドウハンド』!」



 奴から出た影のような腕がレオン目掛けて伸びてくる。しかし、その腕が掴んだのはレオンではなく、腕の中のメルだった。



「メル!」



 取り戻そうと必死に手を伸ばすが、あと少し、届かなかった。

 引き寄せられた先で、レオンはシンピの腕の中に収まる。



「諦めろレオン・ハルベルト! 悪いがお前を失うわけにはいかない……! 『帰還転移リ・ワープ』!」

「やめろっ……! メル! メルーーー!!!」



 転移の直前、レオンの目に映ったのは奴の腕に抱えられるメルの姿と、その背後で高く燃えあがる炎だった。


「殺してやる……魔獣を、一体残らず殺してやる!」
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