2 / 101
崩壊、そして
運命の日〈破〉
しおりを挟む
「兄ちゃん。アタシ、なんか嫌な予感がする」
メルがそう言ったのは、ミスト神父が出て行ってすぐのことだった。
「……大丈夫だよ。神父はみんなから尊敬されてるんだ。喧嘩してるからって、みんなは神父を殴ったりしないよ」
レオンはそう言ってメルの頭を撫でる。しかし、レオンもメルと同じ予感を感じていた。
風に乗って、叫び声と共に焦げ臭さが運ばれてきたからだ。
その時だった。
ドン!
大きな音が教会の方から聞こえてきた。
それと同時に、幾つかの足音が辺りに響く。
「兄ちゃん……」
「大丈夫だ、メル。大丈夫……」
泣きそうになっているメルを、レオンは力強く抱きしめる。
メルの馬鹿力も、今は気にならなかった。
明らかにおかしい。レオン達の感じていた不安が、ここにきてようやくその姿を見せ始めたのだ。
「――――!!!!」
およそ人の発するものとは思えない怒号が複数聞こえる。この町、テディーレにはこんな言語を話す人間はいない。
――もしかすると、これは
「ま、魔獣……?」
メルの呟きに応えるかのような怒号がこちらに近づいてくる。
レオンは脇に置いてあった短剣を手に取った。
「メル、お前は裏口から出ろ」
「何言ってるの兄ちゃん!」
「いいから! ……頼む。早くいけ」
鬼気迫る様子のレオンに、メルは一歩引いた。
しかし、彼女はここで素直に逃げられるほどの利口さは持ちあわせていなかった。
「おい、なにしてる! 早く……」
「うるさい! アタシより弱いくせにかっこつけないでよ!」
レオンを一睨みし、メルは弓矢を手に取った。
「二人で戦って、二人とも生き残ろうよ。それでみんなも助ける! それじゃダメ?」
なにか大きなものが、ドアにぶつかる音がする。今から逃げても、おそらく間に合わないだろう。
「……勝つしかないからな」
「わかってるって……死なないでね、兄ちゃん」
ドアが破られ、禍々しい影がその姿を現す。
まるで手入れのされていない毛に包まれた全身、レオンの倍ほどもある体躯、鼻や耳は大きくとがっており、レオンがこれまでの人生で目にしてきた何よりも醜かった。
「トロルか……!」
「Ahhhhh!!!」
トロルが二人を補足し、咆哮する。メルの構えた弓がぶれ、放たれた矢は天井に突き刺さった。
「兄ちゃんっ!」
大きく振り上げられたトロルの腕が、レオン目がけて振り下ろされる。足がすくんでいたレオンは、死を悟るより他なかった。
ドンッ
大きな衝突音がした。しかし、レオンの体に痛みはない。咄嗟に出てきたメルがレオンを突き飛ばしたからだ。
「メルッ!」
レオンはすぐにメルを抱きかかえる。メルに意識はなく、頭からは血を流していた。
――俺のせいだ。二人とも生き残るって言ったのに、俺が動けなかったから
「Ahhhhh!!!」
背後から魔獣の声がする。メルに血を流させた憎き魔獣の声が。
――違う
「……お前のせいだ」
トロルがゆっくりと近づいてくる。その足音は死までのカウントダウンのようであったが、今のレオンは気にならなかった。
「お前ら魔獣のせいで俺たちは……メルは……」
レオンの頭上に、大きな拳が掲げられる。
勝ち誇り、下卑た笑みを浮かべるトロルに、レオンは静かに、されど力強く呟いた。
「失せろ……!」
メルがそう言ったのは、ミスト神父が出て行ってすぐのことだった。
「……大丈夫だよ。神父はみんなから尊敬されてるんだ。喧嘩してるからって、みんなは神父を殴ったりしないよ」
レオンはそう言ってメルの頭を撫でる。しかし、レオンもメルと同じ予感を感じていた。
風に乗って、叫び声と共に焦げ臭さが運ばれてきたからだ。
その時だった。
ドン!
大きな音が教会の方から聞こえてきた。
それと同時に、幾つかの足音が辺りに響く。
「兄ちゃん……」
「大丈夫だ、メル。大丈夫……」
泣きそうになっているメルを、レオンは力強く抱きしめる。
メルの馬鹿力も、今は気にならなかった。
明らかにおかしい。レオン達の感じていた不安が、ここにきてようやくその姿を見せ始めたのだ。
「――――!!!!」
およそ人の発するものとは思えない怒号が複数聞こえる。この町、テディーレにはこんな言語を話す人間はいない。
――もしかすると、これは
「ま、魔獣……?」
メルの呟きに応えるかのような怒号がこちらに近づいてくる。
レオンは脇に置いてあった短剣を手に取った。
「メル、お前は裏口から出ろ」
「何言ってるの兄ちゃん!」
「いいから! ……頼む。早くいけ」
鬼気迫る様子のレオンに、メルは一歩引いた。
しかし、彼女はここで素直に逃げられるほどの利口さは持ちあわせていなかった。
「おい、なにしてる! 早く……」
「うるさい! アタシより弱いくせにかっこつけないでよ!」
レオンを一睨みし、メルは弓矢を手に取った。
「二人で戦って、二人とも生き残ろうよ。それでみんなも助ける! それじゃダメ?」
なにか大きなものが、ドアにぶつかる音がする。今から逃げても、おそらく間に合わないだろう。
「……勝つしかないからな」
「わかってるって……死なないでね、兄ちゃん」
ドアが破られ、禍々しい影がその姿を現す。
まるで手入れのされていない毛に包まれた全身、レオンの倍ほどもある体躯、鼻や耳は大きくとがっており、レオンがこれまでの人生で目にしてきた何よりも醜かった。
「トロルか……!」
「Ahhhhh!!!」
トロルが二人を補足し、咆哮する。メルの構えた弓がぶれ、放たれた矢は天井に突き刺さった。
「兄ちゃんっ!」
大きく振り上げられたトロルの腕が、レオン目がけて振り下ろされる。足がすくんでいたレオンは、死を悟るより他なかった。
ドンッ
大きな衝突音がした。しかし、レオンの体に痛みはない。咄嗟に出てきたメルがレオンを突き飛ばしたからだ。
「メルッ!」
レオンはすぐにメルを抱きかかえる。メルに意識はなく、頭からは血を流していた。
――俺のせいだ。二人とも生き残るって言ったのに、俺が動けなかったから
「Ahhhhh!!!」
背後から魔獣の声がする。メルに血を流させた憎き魔獣の声が。
――違う
「……お前のせいだ」
トロルがゆっくりと近づいてくる。その足音は死までのカウントダウンのようであったが、今のレオンは気にならなかった。
「お前ら魔獣のせいで俺たちは……メルは……」
レオンの頭上に、大きな拳が掲げられる。
勝ち誇り、下卑た笑みを浮かべるトロルに、レオンは静かに、されど力強く呟いた。
「失せろ……!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。
だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。
互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。
ハッピーエンド
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/03/02……完結
2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位
2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位
2023/12/19……連載開始
追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる
灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。
「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」
「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」
最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』
YOLCA(ヨルカ)
ファンタジー
「その黄金の瞳……なんて気持ち悪いの。我が家に化け物は必要ないわ」
名門伯爵家の娘として生まれたエレーナ。しかし、彼女に宿った未知の能力を恐れた継母イザベラは、実父の留守中を狙い、幼い彼女を雪の降る町に捨て去った。
死を覚悟した彼女を拾ったのは、帝国の裏社会を支配する「皇帝の弟」ヴィンセント公爵。
彼はエレーナの力を「至宝」と呼び、彼女を公爵家の実の娘として迎え入れた。
それから数年。
エレーナは、二人の過保護な兄と、五人の精鋭部下に囲まれ、美しくも最強の工作員へと成長していた。
すべてを暴く『黄金の瞳』、すべてを操る『魅了』、そして伝説の師匠たちから授かった至高の淑女教育を武器に。
一方、継母イザベラは父を捨て、さらなる権力を手に入れるため、悪名高い侯爵の妻として社交界の頂点に君臨していた。
「お久しぶりです、お母様。……化け物と呼ばれた私からの、お返しを受け取ってくださいね」
捨てられた少女による、優雅で残酷な復讐劇。
今、その幕が上がる。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
.
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる