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崩壊、そして
修行
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「とはいえ、今のまま魔獣討伐に送り出しても死なれるのが関の山だろう。明日からそうだな……一ヶ月だ。その期間でお前を最低限戦える冒険者に育ててやる」
「って昨日シンピさんが言ってたから、てっきり魔法でも教えてもらえるのかと思ってたんですが」
レオンがこの家に来て二日目。彼は今、延々とスクワットをしていた。
ちなみにリンネは別メニューらしい。おそらくは魔法の鍛錬だろう。
「甘えるな。動けない人間に魔法を教えたところで戦えるようにはならない……それと、私のことは師匠と呼べ」
「わかりました……よっ! よし、これでスクワット百回終わりましたよ」
「じゃあ少し休憩をいれてあと二セットだ。その後はランニング。麓の町とここを往復する」
先に待つ地獄を宣告され、レオンは絶望する他なかった。
「噓だろ……」
「はあっ……! はあっ……!」
山中の下り坂にて、レオンの気力は限界を迎えていた。
前に踏み出す足にももう力が入らない。
「どうした。まだ町にもついてないぞ」
そう声をかけるシンピはレオンの上空を飛んでいる。一緒に走る気はないようだ。
「そうっ……言わ、れても……!」
「言っておくが修行を中止することはない。お前に強くなってもらわなければ、私たちも困るからな」
「それって……どうして……」
少しでも気を紛らわせるためにレオンが訊ねる。
シンピは少しの間の後、それに答えた。
「……お前が“奴”への対抗手段だからに決まっているだろう。いいから走れ。あまり遅いと昼食抜きにするぞ」
絶対はぐらかされた。
それを感じつつ、レオンは気持ちだけで足を前へと動かした。
「ぜえ……ぜえ……死ぬ……」
一時間後、レオンは気合いだけで街にたどり着いていた。
「よく頑張ったレオン。ここが北海沿いの港町ノシュキルだ」
シンピの言葉にレオンが顔を上げる。
そこには、北部特有の石畳や大木によって造られた町並みと、その先に広がる暗く青い海があった。
「……いや北海沿いって、テディーレからめちゃくちゃ遠いじゃないですか」
「そりゃ転移魔法を使ったからな」
その発言にレオンは頭を抱える。
転移魔法は非常に習得難しい魔法として知られている。
数センチの転移も難しいのに、他人を巻き込んで別の地方まで転移するなんて規格外にも程がある。
「そんなことよりなにか食べるぞ。なんにするかな……」
シンピが悩んでいると、小柄な少女が声をかけてきた。
その腕の中には、紙袋に入った幾つかの食材が抱えられていた。
「シンピさん、町まで出てくるのは珍しいですね! 買い物ですか?」
「ん、ベルじゃないか。いやなに、昼食をどこにするか決めかねていてな。ちょうどいい。今日はカモメ亭で食べるか」
「まいどあり! それじゃあ帰ったらすぐに用意しますよ~。ところで、そちらの方は?」
ベルと呼ばれた少女がレオンを指す。
すっかり蚊帳の外だったレオンは、少しだけ背筋を伸ばした。
「ああ、こいつはレオン。私の新しい弟子だ」
「どうも」
紹介されたので、頭を下げておく。
北部の文化はよく知らないがこれなら全国共通、間違いはないはずだ。
すると、ベルはいかにも興味津々といった風に目を輝かせた。
「ご丁寧にどうも! 私はベル、この町の食事処、カモメ亭の一人娘です。それにしてもシンピさんがリンネさん以外にお弟子さんをとるなんて……驚きましたよ~」
「え、そうなんですか?」
「そうですよぉ! 知らないんですか? だってシンピさんといえば……」
「ベル、いいから案内してくれないか。私はお腹が空いた」
シンピが割り込んで、ベルの話を遮る。
ベルは「は~い」と返事をすると、歩き出した。
絶対なにか隠してるよなぁ、と思いつつ、レオンもそれについて行った。
「って昨日シンピさんが言ってたから、てっきり魔法でも教えてもらえるのかと思ってたんですが」
レオンがこの家に来て二日目。彼は今、延々とスクワットをしていた。
ちなみにリンネは別メニューらしい。おそらくは魔法の鍛錬だろう。
「甘えるな。動けない人間に魔法を教えたところで戦えるようにはならない……それと、私のことは師匠と呼べ」
「わかりました……よっ! よし、これでスクワット百回終わりましたよ」
「じゃあ少し休憩をいれてあと二セットだ。その後はランニング。麓の町とここを往復する」
先に待つ地獄を宣告され、レオンは絶望する他なかった。
「噓だろ……」
「はあっ……! はあっ……!」
山中の下り坂にて、レオンの気力は限界を迎えていた。
前に踏み出す足にももう力が入らない。
「どうした。まだ町にもついてないぞ」
そう声をかけるシンピはレオンの上空を飛んでいる。一緒に走る気はないようだ。
「そうっ……言わ、れても……!」
「言っておくが修行を中止することはない。お前に強くなってもらわなければ、私たちも困るからな」
「それって……どうして……」
少しでも気を紛らわせるためにレオンが訊ねる。
シンピは少しの間の後、それに答えた。
「……お前が“奴”への対抗手段だからに決まっているだろう。いいから走れ。あまり遅いと昼食抜きにするぞ」
絶対はぐらかされた。
それを感じつつ、レオンは気持ちだけで足を前へと動かした。
「ぜえ……ぜえ……死ぬ……」
一時間後、レオンは気合いだけで街にたどり着いていた。
「よく頑張ったレオン。ここが北海沿いの港町ノシュキルだ」
シンピの言葉にレオンが顔を上げる。
そこには、北部特有の石畳や大木によって造られた町並みと、その先に広がる暗く青い海があった。
「……いや北海沿いって、テディーレからめちゃくちゃ遠いじゃないですか」
「そりゃ転移魔法を使ったからな」
その発言にレオンは頭を抱える。
転移魔法は非常に習得難しい魔法として知られている。
数センチの転移も難しいのに、他人を巻き込んで別の地方まで転移するなんて規格外にも程がある。
「そんなことよりなにか食べるぞ。なんにするかな……」
シンピが悩んでいると、小柄な少女が声をかけてきた。
その腕の中には、紙袋に入った幾つかの食材が抱えられていた。
「シンピさん、町まで出てくるのは珍しいですね! 買い物ですか?」
「ん、ベルじゃないか。いやなに、昼食をどこにするか決めかねていてな。ちょうどいい。今日はカモメ亭で食べるか」
「まいどあり! それじゃあ帰ったらすぐに用意しますよ~。ところで、そちらの方は?」
ベルと呼ばれた少女がレオンを指す。
すっかり蚊帳の外だったレオンは、少しだけ背筋を伸ばした。
「ああ、こいつはレオン。私の新しい弟子だ」
「どうも」
紹介されたので、頭を下げておく。
北部の文化はよく知らないがこれなら全国共通、間違いはないはずだ。
すると、ベルはいかにも興味津々といった風に目を輝かせた。
「ご丁寧にどうも! 私はベル、この町の食事処、カモメ亭の一人娘です。それにしてもシンピさんがリンネさん以外にお弟子さんをとるなんて……驚きましたよ~」
「え、そうなんですか?」
「そうですよぉ! 知らないんですか? だってシンピさんといえば……」
「ベル、いいから案内してくれないか。私はお腹が空いた」
シンピが割り込んで、ベルの話を遮る。
ベルは「は~い」と返事をすると、歩き出した。
絶対なにか隠してるよなぁ、と思いつつ、レオンもそれについて行った。
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