落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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遭遇

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「私、姉がいたんです」



 修行が始まって三週間。

 日課となったランニングの途中。

 レオンがカモメ亭で昼食をとっていると、お喋りをしに来たベルがそんなことを話し始めた。



「『いた』って、今は?」



「今はいません。五年前に行方不明になって……それっきりです」



「そうか……どんな人だったんだ?」



 聞くと、ベルは少し物憂げな表情で窓の外に目をやった。

 いつものはつらつとした様子とのギャップに、レオンの胸がドキリと跳ねる。



「優しい人でした。私と違っておしとやかで綺麗で……きっと、レオンさんも見とれちゃいますよ?」



「……そうかもな」



「ちょっとちょっと、そこは『君の方が綺麗だよ』でしょ~?」



 そう言って笑うベルからは、どこか深い悲しみを感じずにいられなかった。







 帰り道、レオンは初日よりもかなり余裕が出てきたことを実感していた。



「この後戻ったら追加メニュー幾つかやるかな……」



 ガサッ



 そんなことを呟いていると、背後から草をかき分けるような音が聞こえてきた。

 イタチだろうか。レオンが振り向く。

 するとそこにいたのは、灰色の髪に狼の耳を持つ獣人と思しき女性だった。

 服はなぜかボロボロで所々破けており、直視するのは少し憚られる。



「あんた、なんでこんなところに……」



 レオンが声をかけると、それに気づいた少女はレオンに向かって一目散に駆けてきた。



「たすけて!」



 大人っぽさの中に少しの少女性を残した見た目の彼女は、意外にも幼い声で助けを求める。

 そのころには、彼女の背後。その茂みの中にいる魔獣をレオンも認識することができた。



「襲われてたのか……!」



 魔獣はどこにでも発生しうる。

 そのため、こんなことがあるかもしれないというのはレオン自身、常に想定していた。

 だから、迷いはない。



「敵はオークが二体か。まずは……『止まれ』!」



 向かってくる二体に向かって〈魔獣王〉スキルを試す。

 しかし、止まったのはオークたちではなく、獣人らしき女性だった。



「!? なんであんたが……くそっ! まだ完璧じゃないけど仕方ない『狂戦士化バーサーク』!」



 途端、レオンの体から力が抜ける。

 シンピから教わった唯一の魔法『狂戦士化バーサーク』。

 これは、認識した敵を無力化するまで究極的に戦いに意識を集中させる。ただそれだけの魔法だった。



「敵はオークが二体……」



 レオンが呟く。

 瞬間、レオンはオークに急接近をしていた。



「まずは一体……!」



 跳躍と共に常備していた短剣を抜き、敵の喉元を切り裂く。

 血が噴き出すと同時に、オークの体を蹴り二体目の足元に潜り込んだ。

 オークはこの時になってようやく危険を察知し、レオンを踏みつけようと足を上げた。

 だが――



「――遅い」



 上がっていない左足の腱が斬られる。

 オークは猛烈な痛みと共にその場に倒れ込んだ。



「とどめだ」



 一切の油断なくオークの上に回り込んだレオンは、躊躇せずその鳩尾目掛けて短剣を振り下ろした。



「死ね、魔獣」



 その時、灰色の少女がようやく正気を取り戻す。



「なに……これ」



 その眼前にあったのは二つの死体、そして、黒の髪を血によって赤く染めた一人の狩人だった。



「……大丈夫か?」



 そう言って、狩人は微笑んだ。
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