落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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追憶の中に

シンピの頼み

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「ほう、これがマジックアイテムか」

 その日の夜、レオンはシンピの部屋で短剣を見てもらっていた。

「どうですか? なにかわかったり……」

「いや、なにもわからん」

 レオンはガクリと項垂れる。
 特級冒険者のシンピならもしかしたらという期待を抱いていたのが良くなかった。

「私は鑑定士じゃないからな。何とも言えんが……これを治したいんだな?」

「はい。本当にマジックアイテムなら、これを使わない手はないと考えてます」

「そうか。ならブレンダムに行け」

「え、ぶ、ブレンダムですか……!?」

 ブレンダム、連邦に住んでいてその名を知らない者はいないだろう。
 連邦中央部の山地、その山中の秘境に位置するドワーフ達の里、それがブレンダムだ。
 周囲の山地には魔獣が多く棲み、辿り着くことの困難なブレンダムがどうしてそこまで有名なのか。
 その理由は、そこで作られる素晴らしい武器や防具の数々にある。
 ドワーフの鍛冶技術はほとんどがブレンダム発祥であり、至高の鍛冶職人達が多く店を構えている。
 さらに、ブレンダム産の武器や防具は、他の町で買おうとすると法外な値段が付くものだ。
 そのため、数多くの冒険者や商人がブレンダムを目指す。
 にも関わらず、辿り着けるものは一握り。
 ブレンダムはそれ程までに到達の難しい場所なのだ。

「そ、そのブレンダムに行くんですか。俺が」

「ああ。もちろん私はついていけないし、転移魔法で連れていってやることもできない」

 レオンから「うぐ」と声が漏れる。
 やはり変な期待はするものじゃない。

「ブレンダムに知り合いの鍛冶職人がいるんだ。少し変わり者だが腕はいい。名前はビーディー……シンピの弟子だと言えば頼まれてくれるだろう」

「わかりました」

「あと、これを持っていけ」

 そう言ってシンピが手渡してきたのは、一振りの短剣だった。

「ブレンダムに着くまで武器無しというのも困るだろう。マジックアイテム程の代物じゃないが、私の魔力を込めておいた。使え」

「あ、ありがとうございます! ……大事にします」

「大事にするな。身を守るためなら捨てろ、そんな物」

 ぶっきらぼうに言うシンピは普段道理の無表情だったが、そんな彼女の優しさをレオンは身に染みて理解していた。

「はいっ!」

「それならいい……ところでレオン、リンネとは話をしたか?」

 質問の意図が理解できず、レオンは首をかしげる。

「リンネと話、ですか? 会話ならいつもしてますけど……」

「……そうか」

 そうしてシンピは机に向き直る。
 いったいなんだったのだろう。

「えっと、それじゃあ俺はこれで。失礼します」

「レオン」

 部屋を出ようとすると、シンピに呼び止められる。
 彼女の目は真っ直ぐにレオンを捉えていた。

「……リンネは、どうしてお前と行くことを決めたと思う?」

「え……」

 唐突な問いに、レオンは返答に詰まる。
 そんなこと、考えたことも、いや――

――俺は、考えようとしていなかったのか?

 答えられないままでいると、シンピは穏やかに、しかし硬い声色で再び言葉を紡いだ。

「少しでいい。あいつのことも、考えてやってくれ」

「……はい」

「ありがとう……それじゃあ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい……失礼します」

 扉が閉まる。
 一人になった部屋で、シンピは窓の外の星空を眺めていた。

「……リンネ」

 その呟きは本人に届くことなく星空に浮かんで、消えた。
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