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ブレンダムにて
交換条件
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ビーディーの鍛冶場は外観通りの悲惨な有り様だった。
辺りには酒樽が散乱し、壁の塗装はところどころ剝がれてしまっていた。
「それじゃあワシはそろそろ帰るよ」
そう言って老ドワーフは中に入らなかった。
ビーディーはそれをからかうようにニヤリと笑った。
「なんだよじじい、せっかくならゆっくりしていってもいいんだぜ?」
「こんな汚ねぇとこに居られるかって言ってんだよ馬鹿が」
それに対して老ドワーフが悪態をついてみせる。
きっと二人は仲が良いんだなとリンネは思った。
だけどそれを言えばこの人たちはきっと認めないだろうから、余計なことはなにも言わないことにした。
「ふふ」
「? リンネ、なんで笑ってるの?」
「ううん。なんでもないわよ」
リンネがなにも教えてくれなかったので、ララは首をかしげるより他なかった。
「そうだ、あんたらにまだ名乗ってなかったな」
思い出したように老ドワーフがレオン達に向き直る。
たしかに、まだ名前を聞いてはいなかった。
「ワシはドグマ。今は引退しているが、これでも元鍛冶職人じゃ。ブレンダムの入り口近くにあるドグマ工房という店におる。なにかあれば気軽に来るといい。シンピの弟子ってんなら、ちっとくらいまけてやるからよ」
「ドグマさん! 何から何までありがとうございます!」
「なに、礼には及ばんさ。まあその馬鹿にフラれたら来な。うちの弟子に頑張ってもらうからよ!」
ガハハと豪快に笑って、ドグマはその場を去っていった。
「それで、シンピの奴は元気か」
適当に置かれた台にどっかりと座るや否や、ビーディーがそう尋ねる。
あまりにも堂々と股を開いて座るので、レオンは少し目のやり場に困った。
「はい、元気ですよ」
「そうか」
聞いてきた割に素っ気ない反応をして、ビーディーは懐から取り出した葉巻に火をつける。
葉巻なんて高級品を嗜んでいる辺り、意外と金持ちなのかもしれないな、とベルは一人でに推察していた。
「んで、そのシンピの弟子があたしになんの用だ。あいつが寄越すからには大した用なんだろうなぁ?」
レオンは一つ頷くと、古びた短剣を取り出した。
ネクロマンサー討伐の際に報酬としてもらった、あの短剣だ。
「これを、打ち直して欲しいんです」
ビーディーはそれを手に取ると、様々な角度から眺める。
恐らくは値踏みしているのだろう。
「随分劣化が酷いが、こいつは……なるほどな。たしかにこいつはあたしにしか治せねぇかもしれねぇ」
「そ、それと、自分もいいですか?」
おずおずとベルが手を挙げる。
話し出す機を伺っていたようだ。
「その、もしよければ鍋と包丁を打っていただきたいんです。なるべくいいものを」
「お前、料理人か」
ベルが頷く。
するとビーディーは少しだけ考え込んでから立ち上がった。
「いいかお前ら。あたしが好きなものは五つある。金、男、酒、力、飯だ」
そう言ってビーディーは、前に突き出した五つの指を一つずつ折っていく。
「依頼を受ける上で金を受け取るのは当然だ……だがそれだけじゃあ面白くない」
ビーディーがニヤリと口角を上げる。
それは、幼い見た目とは心底相反する怪しい笑みだった。
「あたしの欲を満たせ。それが依頼を受ける条件だ」
辺りには酒樽が散乱し、壁の塗装はところどころ剝がれてしまっていた。
「それじゃあワシはそろそろ帰るよ」
そう言って老ドワーフは中に入らなかった。
ビーディーはそれをからかうようにニヤリと笑った。
「なんだよじじい、せっかくならゆっくりしていってもいいんだぜ?」
「こんな汚ねぇとこに居られるかって言ってんだよ馬鹿が」
それに対して老ドワーフが悪態をついてみせる。
きっと二人は仲が良いんだなとリンネは思った。
だけどそれを言えばこの人たちはきっと認めないだろうから、余計なことはなにも言わないことにした。
「ふふ」
「? リンネ、なんで笑ってるの?」
「ううん。なんでもないわよ」
リンネがなにも教えてくれなかったので、ララは首をかしげるより他なかった。
「そうだ、あんたらにまだ名乗ってなかったな」
思い出したように老ドワーフがレオン達に向き直る。
たしかに、まだ名前を聞いてはいなかった。
「ワシはドグマ。今は引退しているが、これでも元鍛冶職人じゃ。ブレンダムの入り口近くにあるドグマ工房という店におる。なにかあれば気軽に来るといい。シンピの弟子ってんなら、ちっとくらいまけてやるからよ」
「ドグマさん! 何から何までありがとうございます!」
「なに、礼には及ばんさ。まあその馬鹿にフラれたら来な。うちの弟子に頑張ってもらうからよ!」
ガハハと豪快に笑って、ドグマはその場を去っていった。
「それで、シンピの奴は元気か」
適当に置かれた台にどっかりと座るや否や、ビーディーがそう尋ねる。
あまりにも堂々と股を開いて座るので、レオンは少し目のやり場に困った。
「はい、元気ですよ」
「そうか」
聞いてきた割に素っ気ない反応をして、ビーディーは懐から取り出した葉巻に火をつける。
葉巻なんて高級品を嗜んでいる辺り、意外と金持ちなのかもしれないな、とベルは一人でに推察していた。
「んで、そのシンピの弟子があたしになんの用だ。あいつが寄越すからには大した用なんだろうなぁ?」
レオンは一つ頷くと、古びた短剣を取り出した。
ネクロマンサー討伐の際に報酬としてもらった、あの短剣だ。
「これを、打ち直して欲しいんです」
ビーディーはそれを手に取ると、様々な角度から眺める。
恐らくは値踏みしているのだろう。
「随分劣化が酷いが、こいつは……なるほどな。たしかにこいつはあたしにしか治せねぇかもしれねぇ」
「そ、それと、自分もいいですか?」
おずおずとベルが手を挙げる。
話し出す機を伺っていたようだ。
「その、もしよければ鍋と包丁を打っていただきたいんです。なるべくいいものを」
「お前、料理人か」
ベルが頷く。
するとビーディーは少しだけ考え込んでから立ち上がった。
「いいかお前ら。あたしが好きなものは五つある。金、男、酒、力、飯だ」
そう言ってビーディーは、前に突き出した五つの指を一つずつ折っていく。
「依頼を受ける上で金を受け取るのは当然だ……だがそれだけじゃあ面白くない」
ビーディーがニヤリと口角を上げる。
それは、幼い見た目とは心底相反する怪しい笑みだった。
「あたしの欲を満たせ。それが依頼を受ける条件だ」
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