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ブレンダムにて
ハルベルト
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「あたしの欲を満たせ。それが条件だ」
そう言ってビーディーは、ニヤリと笑ってみせた。
「例えばそうだな……料理人! 好きに厨房使っていいから、なんか美味いもん作ってくれよ」
ビーディーがベルを指差す。
それは明らかに冗談などを言っている様子ではない。
間違いなく彼女は本気なのだ。
「……そうすれば鍋と包丁を打ってくれますか?」
「ああ、約束する。もちろん美味くなけりゃあ話は別だがな」
「わかりました。それでは早速調理させていただきます……あ、なにか好き嫌いとかありますか?」
「あー、野菜メインのやつはやめてくれ。あんま得意じゃねぇんだ」
「わかりました」
ベルは台所に向かい、物色を始める。
それを確認して、ビーディーはレオンに向き直った。
「さて……そんで、お前はあたしの欲をいかにして満たしてくれるんだ?」
レオンは焦っていた。
まさか、金以外にも要求されるものがあるとは思ってもみなかったのだ。
たしかビーディーが要求したのは――
「男、飯、力、酒……ですか」
「ああ。金を払うだけじゃ面白くねぇし、あたしは金に困ってるわけでもねぇからな。さあ、どうする」
「困ったな……」
救いを求めるように振り返るも、ララはそもそもなにがなんだかという風だし、リンネもほとほと困り果てたという表情をしていた。
「リンネ、師匠からなにかいい酒を預かってたりとか……」
藁にもすがる思いで尋ねてみるも、現実は無慈悲。
リンネは首を横に振った。
「残念だけど……」
「だよなぁ……」
「ビーディーさん」
そんな様子のレオン達を見かねたのか、キッチンから出てきたベルがビーディーに声をかけた。
「私がレオンさん達の依頼分まで料理を作るということでは駄目でしょうか。その分、量も作りますので……」
「駄目だ」
即答だった。
ビーディーは少し呆れ顔で続ける。
「支払いは依頼主本人がすべき。そんで前払い。あたしは依頼を受けるとき、この二つを必ず曲げない」
「それはどうして?」
「依頼人のことを思って打ちたいからだ。恩返しってんじゃねぇけど、そうすることで自ずと依頼人に合った一品が出来上がる……そういうもんだ」
そう語るビーディーの瞳は真っ直ぐな職人の瞳そのもので、ベルは少しビーディーに対する評価を改めた。
「……なるほど。わかりました。そういうことなら仕方ありません。それじゃあ私は買い出しにいってきますから……レオンさん、頑張ってくださいね」
最後の頼みの綱だったベルが出て行ってしまう。
後に残されたのはビーディーと、もはや打つ手なしのレオン達だった。
「……そういやお前ら、名前は?」
ビーディーの問いかけに、真っ先に答えたのはさっきから退屈そうにしていたララだった。
「ララ。よろしく」
「ララか。お前、獣人か?」
「少し違うかな……私は私だよ」
「ふぅん……まあいい。そっちのエルフは?」
「はい。リンネと言います。これでもシンピの一番弟子です」
「あいつの一番弟子ねぇ……転移魔法は使えんの?」
その問いに、リンネは少しだけ眉をひそめる。
「……『座標転移』であれば、多少は」
「大したもんだな。それでお前は?」
そしてついに、レオンの番が回ってきた。
「レオンです……レオン・ハルベルト」
名乗ると、ビーディーは一気に立ち上がり、そのただでさえ大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
「ハルベルト!?」
「は……はい」
「シンピの弟子でハルベルトって……お前まさか!」
ビーディーが台に乗ってレオンの胸ぐらを掴むと、グイっと引き寄せられた。
顔がやけに近かったが、ビーディーにとってそんなことはどうでもよかった。
「……似てる」
「え?」
「お前、ティガーの息子か……!?」
そう言ってビーディーは、ニヤリと笑ってみせた。
「例えばそうだな……料理人! 好きに厨房使っていいから、なんか美味いもん作ってくれよ」
ビーディーがベルを指差す。
それは明らかに冗談などを言っている様子ではない。
間違いなく彼女は本気なのだ。
「……そうすれば鍋と包丁を打ってくれますか?」
「ああ、約束する。もちろん美味くなけりゃあ話は別だがな」
「わかりました。それでは早速調理させていただきます……あ、なにか好き嫌いとかありますか?」
「あー、野菜メインのやつはやめてくれ。あんま得意じゃねぇんだ」
「わかりました」
ベルは台所に向かい、物色を始める。
それを確認して、ビーディーはレオンに向き直った。
「さて……そんで、お前はあたしの欲をいかにして満たしてくれるんだ?」
レオンは焦っていた。
まさか、金以外にも要求されるものがあるとは思ってもみなかったのだ。
たしかビーディーが要求したのは――
「男、飯、力、酒……ですか」
「ああ。金を払うだけじゃ面白くねぇし、あたしは金に困ってるわけでもねぇからな。さあ、どうする」
「困ったな……」
救いを求めるように振り返るも、ララはそもそもなにがなんだかという風だし、リンネもほとほと困り果てたという表情をしていた。
「リンネ、師匠からなにかいい酒を預かってたりとか……」
藁にもすがる思いで尋ねてみるも、現実は無慈悲。
リンネは首を横に振った。
「残念だけど……」
「だよなぁ……」
「ビーディーさん」
そんな様子のレオン達を見かねたのか、キッチンから出てきたベルがビーディーに声をかけた。
「私がレオンさん達の依頼分まで料理を作るということでは駄目でしょうか。その分、量も作りますので……」
「駄目だ」
即答だった。
ビーディーは少し呆れ顔で続ける。
「支払いは依頼主本人がすべき。そんで前払い。あたしは依頼を受けるとき、この二つを必ず曲げない」
「それはどうして?」
「依頼人のことを思って打ちたいからだ。恩返しってんじゃねぇけど、そうすることで自ずと依頼人に合った一品が出来上がる……そういうもんだ」
そう語るビーディーの瞳は真っ直ぐな職人の瞳そのもので、ベルは少しビーディーに対する評価を改めた。
「……なるほど。わかりました。そういうことなら仕方ありません。それじゃあ私は買い出しにいってきますから……レオンさん、頑張ってくださいね」
最後の頼みの綱だったベルが出て行ってしまう。
後に残されたのはビーディーと、もはや打つ手なしのレオン達だった。
「……そういやお前ら、名前は?」
ビーディーの問いかけに、真っ先に答えたのはさっきから退屈そうにしていたララだった。
「ララ。よろしく」
「ララか。お前、獣人か?」
「少し違うかな……私は私だよ」
「ふぅん……まあいい。そっちのエルフは?」
「はい。リンネと言います。これでもシンピの一番弟子です」
「あいつの一番弟子ねぇ……転移魔法は使えんの?」
その問いに、リンネは少しだけ眉をひそめる。
「……『座標転移』であれば、多少は」
「大したもんだな。それでお前は?」
そしてついに、レオンの番が回ってきた。
「レオンです……レオン・ハルベルト」
名乗ると、ビーディーは一気に立ち上がり、そのただでさえ大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
「ハルベルト!?」
「は……はい」
「シンピの弟子でハルベルトって……お前まさか!」
ビーディーが台に乗ってレオンの胸ぐらを掴むと、グイっと引き寄せられた。
顔がやけに近かったが、ビーディーにとってそんなことはどうでもよかった。
「……似てる」
「え?」
「お前、ティガーの息子か……!?」
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