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ブレンダムにて
信頼
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混乱の中、ブレンダムの町中にて高笑いが響き渡る。
それは故郷を捨てた男の、狂った笑い声だった。
「これで終わりだ! 全部、なにもかも!」
周囲のベルやドグマは、ただ悲痛な面持ちでギギルを眺めていた。
かける言葉がもう、見つからないのだ。
「ベル!」
自分の名前を呼ぶ声にベルは振り返る。
そこには、ボロボロのララにビーディー、そしてリンネの姿があった。
「皆さん! 無事だったんですね」
「ええ。この剣のおかげでね。それより、これはどういう状況?」
「えっと、それがですね……」
ベルがギギルについて説明をする。
話が進むにつれ、各々の表情が静かな怒りに満ちていくのが、ベルはなんだか辛かった。
「……話はわかった。ギギルを見つけてくれてありがとうな」
ビーディーがベルの頭を軽くなでる。
「え、いや……私が下手に刺激してしまったせいでこんなことに」
「それは違う。これはギギルと……あたしたちブレンダムの人間が引き起こしちまったことだ。よそ者のお前が気にすることじゃねぇ」
「そういうことだな。むしろ、お前さんらを巻き込んじまって申し訳ねぇ」
会話に入ってきたのは、先程まで呆然と座り込んでいたドグマだった。
「謝って済むことじゃねぇのは分かっとる。だが……本当にすまない」
ドグマがベル達に向かって膝を着き、頭を下げる。
最大限の誠意の体現だ。
ベルとリンネが返す言葉に迷っていると、ララが口を開いた。
「大丈夫だよ。レオンがなんとかしてくれる」
思ってもみなかった言葉に、ドグマは顔を上げる。
ベルとリンネも視線を交わすと、ララの言葉に続いた。
「レオンさんはいつも、なんでもないような顔して帰ってきますから。今回だって、きっと大丈夫です」
「そうよ。全ての魔獣を殺すまで……レオンは絶対に終わらないわ」
一点の曇りもない信頼の言葉に、ドグマは思わず笑ってしまった。
「ははは! そうかそうか……こんなに信頼されて、あの坊主は幸せもんだな」
リンネ達は、上空で光り輝くコアへと視線を送る。
あの場所では、きっとレオンが戦っているはずだ。
「頼んだわよ。レオン」
「『狂戦士化』!」
レオンの意識が目の前のコアに集中する。
狙うは紫の閃光を放つコア。
身体はとっくに悲鳴を上げていたが、レオンの常軌を逸した集中力と気合いによってなんとかそれをカバーしていた。
右手の短剣を強く握りしめる。
やるしかないのだ。
いま、ここで。
レオンが大きく一歩を踏み出して宙を舞う。
着地地点などはない。
このまま絶壁の胸部を走り、コアに向かうつもりだ。
「うおおおおお!!!」
レオンが叫ぶ。
ほとんど体重を預けられない角度での走行は、当然ながら多大な筋力が必要になる。
そのため、疲労の限界を迎えているレオンの足には異常なほどの激痛が走っているのだ。
しかしレオンは勢いを落とすことなく走り続ける。
コアを目指す。
それ以外はレオンの頭になかった。
しかし――
「――ッ!」
あと数歩というところで、レオンが膝から崩れる。
足がもうまったく動かないのだ。
それと同時に『狂戦士化』も切れ、レオンの身体が滑り落ちる。
まさに絶体絶命の状況であった。
――ここで終わるのか?
レオンの脳裏に死の文字が浮かび、これまでの出来事が一瞬にして駆け巡る。
走馬灯だ。
――いやだ、終わりたくない
しかしレオンの意識はそれを拒否する。
死を受け入れない。
――いやだ、いやだ!
その時だった。
『死にたくなければ、俺を受け入れろ』
突如、レオンの頭に声が響き渡る。
「誰だ?」
その声は、これまでに何度も聞いたことがあった。
『誰? 本当はわかっているんだろ』
誰よりも知っている声だった。
「まさか……」
そう、それは――
『――俺はお前だ』
レオン自身の声だった。
それは故郷を捨てた男の、狂った笑い声だった。
「これで終わりだ! 全部、なにもかも!」
周囲のベルやドグマは、ただ悲痛な面持ちでギギルを眺めていた。
かける言葉がもう、見つからないのだ。
「ベル!」
自分の名前を呼ぶ声にベルは振り返る。
そこには、ボロボロのララにビーディー、そしてリンネの姿があった。
「皆さん! 無事だったんですね」
「ええ。この剣のおかげでね。それより、これはどういう状況?」
「えっと、それがですね……」
ベルがギギルについて説明をする。
話が進むにつれ、各々の表情が静かな怒りに満ちていくのが、ベルはなんだか辛かった。
「……話はわかった。ギギルを見つけてくれてありがとうな」
ビーディーがベルの頭を軽くなでる。
「え、いや……私が下手に刺激してしまったせいでこんなことに」
「それは違う。これはギギルと……あたしたちブレンダムの人間が引き起こしちまったことだ。よそ者のお前が気にすることじゃねぇ」
「そういうことだな。むしろ、お前さんらを巻き込んじまって申し訳ねぇ」
会話に入ってきたのは、先程まで呆然と座り込んでいたドグマだった。
「謝って済むことじゃねぇのは分かっとる。だが……本当にすまない」
ドグマがベル達に向かって膝を着き、頭を下げる。
最大限の誠意の体現だ。
ベルとリンネが返す言葉に迷っていると、ララが口を開いた。
「大丈夫だよ。レオンがなんとかしてくれる」
思ってもみなかった言葉に、ドグマは顔を上げる。
ベルとリンネも視線を交わすと、ララの言葉に続いた。
「レオンさんはいつも、なんでもないような顔して帰ってきますから。今回だって、きっと大丈夫です」
「そうよ。全ての魔獣を殺すまで……レオンは絶対に終わらないわ」
一点の曇りもない信頼の言葉に、ドグマは思わず笑ってしまった。
「ははは! そうかそうか……こんなに信頼されて、あの坊主は幸せもんだな」
リンネ達は、上空で光り輝くコアへと視線を送る。
あの場所では、きっとレオンが戦っているはずだ。
「頼んだわよ。レオン」
「『狂戦士化』!」
レオンの意識が目の前のコアに集中する。
狙うは紫の閃光を放つコア。
身体はとっくに悲鳴を上げていたが、レオンの常軌を逸した集中力と気合いによってなんとかそれをカバーしていた。
右手の短剣を強く握りしめる。
やるしかないのだ。
いま、ここで。
レオンが大きく一歩を踏み出して宙を舞う。
着地地点などはない。
このまま絶壁の胸部を走り、コアに向かうつもりだ。
「うおおおおお!!!」
レオンが叫ぶ。
ほとんど体重を預けられない角度での走行は、当然ながら多大な筋力が必要になる。
そのため、疲労の限界を迎えているレオンの足には異常なほどの激痛が走っているのだ。
しかしレオンは勢いを落とすことなく走り続ける。
コアを目指す。
それ以外はレオンの頭になかった。
しかし――
「――ッ!」
あと数歩というところで、レオンが膝から崩れる。
足がもうまったく動かないのだ。
それと同時に『狂戦士化』も切れ、レオンの身体が滑り落ちる。
まさに絶体絶命の状況であった。
――ここで終わるのか?
レオンの脳裏に死の文字が浮かび、これまでの出来事が一瞬にして駆け巡る。
走馬灯だ。
――いやだ、終わりたくない
しかしレオンの意識はそれを拒否する。
死を受け入れない。
――いやだ、いやだ!
その時だった。
『死にたくなければ、俺を受け入れろ』
突如、レオンの頭に声が響き渡る。
「誰だ?」
その声は、これまでに何度も聞いたことがあった。
『誰? 本当はわかっているんだろ』
誰よりも知っている声だった。
「まさか……」
そう、それは――
『――俺はお前だ』
レオン自身の声だった。
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