落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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ブレンダムにて

もう一人の

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 は真っ暗で、ただ一つ、怪しい炎のようなものが蒼く揺蕩っていた。
 暗闇の中には炎以外なにもなく、レオンは引き寄せられるように炎のもとへと歩いて行った。

「これは……」

 炎の向こうで、ぼんやりとした人影が揺らめく。
 それは段々その輪郭をはっきりとさせていく。
 その姿を、レオンは知っていた。

――そうだ、あれは

 間違いない。
 炎の向こうから姿を現したのは、他ならぬレオン自身であった。

「はじめまして。いや、久しぶりというべきかな。レオン・ハルベルト」

 もう一人のレオンは、冷たい声色で言葉を投げかける。
 しかし、レオンはそれに臆することはなかった。

「……お前は俺のなんなんだ」

「随分せっかちだな。あまり答えを急いていては、手に入れられる物も手に入らんぞ」

 神妙に問いかけるレオンに対し、もう一人のレオンはわざとらしくおどけて見せる。
 しかし、その態度は火に油を注ぐようなものだった。

「いいから答えろ」

 珍しく苛立ちを隠さない様子のレオンを、もう一人は口笛を吹いて冷やかした。

「なんだよ、ちゃんとそういう態度もとれたんだな」

「おい」

「わかったわかった。答えるよ」

 仕方なく、といった風に、もう一人がもったいぶっていた正体についてようやく口を開く。
 レオンは恐怖にも似た緊張を感じて、生唾を飲み込んだ。

「俺はお前だよ。お前の〈魔獣王〉としての部分だ」

「魔獣王?」

 レオンが聞き返す。
 もう一人はニヤリと笑って話を続けた。

「ああ。だから俺を使いこなすことができれば、お前はより大きな力を手にすることができる」

「俺を、使いこなす……?」

 もう一人が頷く。
 その顔から、いたずらっぽい笑みは消えていた。

「ああ。お前はまだ〈魔獣王〉の力を半分も使いこなせてはいない。俺を解放しろ。そうしなければ、お前は今ここで死ぬ」

 死ぬ。
 その言葉に、レオンは自分の身に死が迫っていることを思い出す。

「お前がやれるなら手を出さないつもりだったが、そうもいかなくなった。俺はまだ死にたくない」

 そう語るもう一人から非常に強い力を感じることに、レオンは気がついた。
 これは、善い力ではない。
 その事実を、レオンは直感で理解する。

――本当にこいつを解放してもいいのか?

 レオンに迷いが生じる。
 それを知ってか知らずか、もう一人が炎の向こうから囁く。

「魔獣を一体残らず殺すんだろ? こんなところで死ねないのは、お前も同じはずだ」

 その声は、重く、レオンの心の奥底まで響く。

――そうだ、こんなところで死ぬわけにはいかない

「ならば今、お前がやるべきことは一つ」

――俺が今、やるべきは



解放バースト

 中空に放り出され、地面に向かって落下していたレオンが呟く。
 するとその眼は大きく見開かれ、黒の瞳は深紅に染まる。
 空を足元に置いたは、子供のようにいたずらっぽく笑って、その身を華麗に翻した。
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