落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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ブレンダムにて

たまんねぇわけよ

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「だ、抱くって……!?」

 レオンが慌てふためくと、ビーディーはさらに口角を吊り上げた。

「なんだお前、初めてか? それならいい。あたしが教えてやるよ」

 レオンが改めてビーディーを見やる。
 長い赤髪と、幼い見た目に不釣り合いな色気。
 さらにフランクなその態度や口調は、あまりに贅沢と言える程魅力的だった。

「ちょ、ちょっと待って! それはその……駄目よ! レオンの気持ちだって考えないと……」

 背後からリンネが抗議の声を上げる。
 倫理的に正しい主張に、ビーディーは一つ舌打ちを打った。

「なんだレオン。嫌なのか?」

 少し甘えたような、ギャップのある女性らしい声でビーディーがレオンに迫る。
 ふざけているのだとわかっていても、レオンはドキリときめかざるを得なかった。

「レオン、抱くくらい別にいいんじゃない? それで剣治してもらえるならさ」

 ララが追撃してくるがおそらくこの四歳児はなにも理解していない。
 しかし、抱くってハグのことじゃないから、と言ってしまえば追求は避けられないため、レオンもリンネもなんとも返せなかった。

「ほらほら、ララもそう言ってんぞ。はよしようやぁ」

――だから、その甘ったるい声をやめてくれ!

 なんて悲鳴を口にすることもできず、レオンは精一杯平静を装って反撃(?)を試みることにした。

「な、そ、その、ビーディーは嫌じゃないんですか! そんなあったばかりの奴と、その……するって」

 この男、駄目である。
 全くもって平静を装えていない様子にビーディーの笑いが誘われる。
 レオンは恥ずかしいやら情けないやらで、顔を真っ赤にしてしまった。

「くくく……あ~すまんすまん。いや、あたしは構わねぇよ。お前、ティガーに似て結構顔良いしなぁ。そもそも友人の息子に手ぇ出すっていう背徳感がな~、たまんねぇわけよ。わかるか?」

「いや、まったく……」

 間髪入れずに返すと、ビーディーは悲しげな顔をしてみせた。
 しかしビーディーの歪んだ性癖の味方は、今この場に誰一人いなかった。

「うそぉ……」

 ビーディーの口から悲壮感漂う呟きがこぼれたその刹那、轟音が部屋に響き渡った。

「……!?」

 なにかを口にするよりも早く、その場にいた四人全員が外に出る。
 高台にあるビーディーの鍛冶場からは、ブレンダムの町全体がよく見渡せた。

「なんだあれ……」

 レオン達の視界に映るのは、町のどの建物よりも大きな、大きなゴーレムの姿であった。
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