落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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王と忠誠

模擬戦〈その3〉

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 殴打、蹴撃、突進。
 北部特有の冷たい風が吹き抜ける森の中、模擬戦闘と言うにはあまりにも壮絶な肉弾戦が行なわれていた。

「……ッ! チッ!」

 強烈な攻撃に押され、ガードに徹しているのはビーディー。
 この勝負、終始赤の怪物と化したララが戦闘を支配していた。
 しかし――

「ハァッ……! ハァッ……!」

 明らかに息を切らし、体力の限界を迎えているのはララの方だった。

「もう……なんで……!?」

 思うようにダメージを与えることも叶わない上にスタミナも予想よりずっと消耗が早い。
 押しているにも関わらず段々と不利になっていくこの状況に、ララは小さくない苛立ちを募らせていた。
 そんなララを見て、ビーディーはニヤリと口角を上げる。

「どうしたララ。舐めてかかったこと、後悔させてくれんだろ? まさかもうバテたってんじゃねぇだろーなぁ?」

 明らかな挑発に、ララはビーディーを強く睨みつける。

「かかったかかった……これだからガキは扱いやすくて助かるぜ」

「うる……っさい!」

 再度ララが凄まじい速度でビーディーへと殴り掛かる。
 しかしいくら威力があろうと、所詮は頭に血が上った四歳児の攻撃。
 軌道を読む程度、歴戦の猛者であるビーディーにとっては容易なことだった。

「うそっ……!?」

 渾身の一撃を躱され、ララがその瞳を大きく見開く。
 そしてもちろん、空振って無防備となったララを見逃す程ビーディーは甘くない。

「カウンターいくぞ~……歯ぁ食いしばれやっ!」

 ララの背中に容赦のない一撃が叩き込まれる。
 その瞬間、ララは全身の力と赤いオーラが抜けていき、その場に倒れ伏した。

「おっし、あたしの勝ちだな」

「くっそぉ……なんでぇ……」

 もう立つ気力も残っていないララがボヤく。
 ビーディーは葉巻を咥えて、得意げに種明かしを始めた。

「くくっ……ララ。お前、どんどん疲労が溜まってっただろ?」

 地面に這いつくばったままのララが頷く。
 するとビーディーは自分の右手を掲げる。
 その小指には熱された金属のような赤色のリングがはめられていた。

「あれはこいつの能力だ。接触した相手のスタミナを吸い取る指輪……ま、マジックアイテムってやつだな」

「え、ビーディーは武器使ってたってこと? ずるいよ、それ」

 ララが不服そうに頬を膨らませる。
 されどビーディーはその童顔に似合わない悪人顔で笑って見せるだけだった。

「くっくっく……鍛冶職人が武器使わねぇわけねぇだろーがバーカ。それに、そういうイレギュラーを考えず、挑発に乗って突っ込んでくるだけだった誰かさんにも問題があるんじゃねぇか?」

「ぐ。それは……そうかも……」

「素直でよろしい。ま、実際ララの力は強力だ。もっとひねくれた使い方が出来るようになりゃいい」

「ひねくれた使い方……」

「ああ。ちょうどよくお前の周りは捻くれ者の馬鹿ばっかだかんな。色々見て、聞いて、その技術を盗め。そしたらもっとずっと強くなれるだろうよ」

「……悔しいけど、わかった。ありがと、ビーディー」

「おう。いいってことよ」
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