落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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魔龍動乱

話をさせてくれないか

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「この辺にもいなさそうだな」

 木から降りてきたビーディーが言う。
 ドラクルの不在を確認してから、シンピとビーディーは森林地帯のあちこちを転移して回っていた。

「ここにもいないとなると、いよいよ里の方角が怪しいか」

「だな。レオン達と合流すっかぁ」

 そう言った瞬間、ビーディーは付近に何者かの気配を感じた。

「……おい、シンピ」

「ああ……なにか、来る」

 二人が気配のした方角を睨む。
 すると草木を搔き分ける影が現れた。

「……!」

 二人が言葉を失う。
 特にシンピはショックを受けている風ですらあった。

「おや? 奇遇だねぇ二人とも。ビーディーはこの前会ったけれど……シンピは、レオンを取られた時以来かな」

 そう言って柔和な笑みを浮かべた男を、二人はよく知っていた。
 ビーディーの故郷であるブレンダムを破壊した事件の首謀者であり、レオンの妹であるメルを誘拐した張本人。
 そして、昔の友人でもある――

「ウルフ・ハルベルト……!」

 ビーディーが咄嗟に臨戦態勢に入る。
 しかしシンピは突っ立ったままでウルフを見ていた。

「シンピ!」

 ビーディーが声をかけるも、シンピは戦う姿勢をとらない。

「……ビーディー。少しウルフと話をさせてくれないか」

「は!? 何言ってんだお前!」

「頼む」

 そう言うシンピの表情からはどこか真剣さが伺える。
 だけど、ビーディーとしてはここで引き下がるわけにはいかない。
 目の前の男はあまりにも危険すぎる。
 それをビーディーは、痛いほどに知っていた。

「駄目だ。こいつは話してどうにかなる相手じゃねぇ。お前だってわかってんだろ……!」

「人を話が通じない相手みたいに……ひどいじゃないかビーディー」

 ウルフが話しかけてきてもビーディーは睨みつけるだけで、決して応答はしない。
 一度話してしまえばウルフのペースに乗せられるだけだと、ブレンダムで戦った際に痛感していたのだ。

「いざとなれば転移する……すまない」

「おい!? シンピ!」

 ビーディーの制止の声も聞かず、シンピは前に出る。

「……こうして話すのは久しぶりだな。ウルフ」

「そうだな、シンピ。それで、私になにか用かな?」

「ああ……この十二年間、ずっとお前に聞きたかった」

 シンピがウルフの目を真っ直ぐに見やる。

「ウルフ、お前はいったい何をしようとしているんだ……?」
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